びっくりの連続
さあ、サマー領に着いたようです。
*アミ*
車が直接アレックス夫婦の住む別邸に横づけされた時には、驚いた。
「サマー家の本邸には今、誰もいないんですよ。みんな別荘のあるクラフに行ってますから。」
でも滝宮様に説明されて、納得した。
そう言えば、ノッコがそんなことを言ってたわね。
でも前回の結婚式の時に本邸の皆さんにお世話になったので、お土産を買ってきたんだけど、どうしよう。
あれ、日持ちがしたかしら?
亜美がそんなことを考えていたら、玄関にノッコが出て来ていた。
「亜美っ!」
「ノッコ! 久しぶりー。うわぁ、大きなお腹。」
「ふふ、そりゃあもうすぐ予定日だもの。滝宮様、よくいらしてくださいました。アルもじきに帰って来ると思います。さぁ、どうぞ。お部屋の方へ先に行って落ち着いてくださいな。守屋さんのお部屋もありますので。まさか皆さんで一緒にいらっしゃるとは思いませんでした。同じ飛行機だったんですか?」
「たぶんそうでしょうね。」
…ちょっとノッコ、貴方いまおかしなことを喋らなかった?
滝宮様も平然と受け答えされているようですけど…。
まさか滝宮様たちもここに泊まるの?!
泊まるそうだ…。
滝宮様たちは8月の半ば過ぎまでこの屋敷に滞在して、結婚式の前に国が用意したホテルに移られるとのことである。
知らなかったよ。
ノッコったら先に言ってよ、そういうことは。
亜美は部屋に荷物を置くと、すぐに一階に降りていった。
応接室に行くと、ノッコと若い女の子がお茶の用意をしてくれていた。
「あら亜美、早いわね。紹介しとくわ。こちらタナー夫人の姪のマーサ。うちのお手伝いをしてくれてるの。」
「マーサさんね。よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いしますぅ。奥様、ではパイを持ってまいりますぅ。」
マーサは健康的で田舎の素朴なお嬢さんのようだ。
きびきびとよく働くような印象を受けた。
本邸でお手伝い頭をしているタナー夫人の姪ごさんだけある。しっかりとおばさまに教育されているのだろう。
「でもノッコ、こうしてみると奥様なんだねぇ。なんか貫禄が出て来たみたい。」
「身体の方もね。縦にも横にも大きくなって自分が巨人になった気分。」
もうノッコったら…。
でも、背が高いことを笑い話にできるようになったんだ。
愛されてると自信がでて、意識も違ってくるものなのね。
◇◇◇
*ヒデ*
アレックスがまだ帰っていなかったけれど、時差の解消のために、お茶を頂いてから仮眠をとらせてもらうことになった。
ウトウトと寝入りかけた時に、廊下がいやに騒がしくなる。
最初は夢の中で音が聞こえていたが、部屋の戸にノックの音がしたので、重たい瞼を開けた。
「何か。」
「宮様、お休みのところ申し訳ありません。典子さんが産気づかれまして、いまケネスに車の用意をさせております。ボディガードがマイク一人になりますので、屋敷をお出になりませんように。私も典子さんについてまいります。」
守屋がそういうので慌てて飛び起きた。
「待て。典子には私がついて行く。守屋がここの留守番をしてくれ。」
「けれど宮様、人目が…。」
「大丈夫だ。例の変装をする。」
支度をして廊下に出ると、亜美さんが階段の所から声をかけてきた。
「宮様、守屋さん、よかったわ。ちょっと手伝ってください。破水したみたいで…あまり歩かさないほうがいいと思うんです。」
亜美さんは一緒に階段を上がりながら、私たちに手伝いのやり方を指示した。
「ノッコは大きいから1人では3階から降ろせないと思うんです。お二人で両側から支えながら抱き上げて下さい。いまマーサが着替えさせてますから、私が合図してから入ってきてくださいね。」
そう言って、きびきびと主寝室に消えていった。
彼女は大人しい人だと思っていたけれど、どうも違っていたようだ。
皆に的確な指示を飛ばして歩く、有能な司令官のように見える。
秀次と守屋が力を振り絞ってノッコを1階に降ろした時に、玄関の扉が開いてケネスが入ってきた。
歴戦の勇者が何をしていいのかわからなくて、ウロウロしている。
「ミスター・ケネスっ、そこのクッションを2つ、車に運んで! 運転席に座ってすぐに発進できるようにしといてください。宮様、ノッコをこちらに。マーサ、カバンは見つかった?」
「はい、亜美さま! こちらに持ってきましたぁ。」
顔をしかめてうんうん唸りながら、かすれ声で「すみません。」と言い続けているノッコを見ているのは辛かった。
ノッコの頭にクッションをあてがいながら後部座席に横たわらせると、亜美さんは服が汚れるのも気にしないで、側に跪くとノッコの手を握った。
「大丈夫、ノッコはいらぬ心配をしないのよ。生まれてくる赤ちゃんのことだけを考えなさい。」
「んんんっ、はぁ…あの子、ジャスティンは?」
「それはいつもマーサの役目なんでしょ。お昼寝から覚めたら連れて来てくれるわ。」
アルの長男も目が覚めたらお兄ちゃんになってるな。
秀次はケネスが後ろを見て出発の合図をしたので、女性2人に注意を促した。
「気を付けて、発車するよ。」
「はい。私が支えてますから大丈夫です。」
亜美さんは本当に頼もしい限りだ。
しばらく走っていると、サマー領を出る間際に向こうから救急車がやってきたので、ケネスがライトを瞬かせて合図した。
ノッコと亜美さんを救急士に任せると、秀次はケネスと2人で顔を見合わせて安堵の溜息をついた。
「あのご婦人はたいした人ですな。わしの直属の軍曹よりおっかなかったです。」
「そうだな。大人しい人だと思ってたけど、女の人は見た目じゃわからないな。」
「本当に。ああいうおなごは頼りになりますな。わしはメソメソした女より亜美さんみたいな女の方が好きです。さぁ宮様、わしらも救急車の後を追いかけましょう。」
私達は救急車の後ろを車でついていった。
秀次は救急車を見ながらその中に乗っている人のことを考えていた。
宗田亜美さんか…たいした人だな。
ノッコ頑張れ。