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-序-
――覚悟があるのか、と。
投げられた短い問いに、伏せられていた瞼が上げられる。そこに隠されていた碧の双眸が、雪に眠る森を映し出した。
見渡す限りの銀世界。樹齢千年を優に超す木々が聳え立ち、人間を寄せ付けない巨大な森ですら、無垢な六花は白に染め上げる。
覚悟――、と。
凍えた世界に一人佇むその唇が、銀色に溶けていった問いをなぞる。
口角が、笑みの形に吊り上った。
「――今更」
ただ一言。
踵を返すその銀髪が風圧に揺れる。再び鎮魂歌を奏で出した天が舞い落とす純白でさえ、その身を染める絳を覆い隠すことは難しい。清冽な空気に滲むそれは、明らかに血の匂いだ。
深い傷を負うその足取りはしかし、明確な意思を持ち、僅かの乱れもない。雪上に点々と灯された赤き軌跡も、空から舞い落ちてくる純白な花びらがいずれ覆い隠してしまうことだろう。