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異世界でサバイバルをするようです

その日、僕らが寝ることはなかった。走り続けることはできなかったけれど、またジャングルの中に入って、息を殺しながら夜通し歩いた。


さすがにその時、清水は大人しかった。


僕だって考えたくはないけれど、あの時はああするしかなかった。大の大人が何人も僕らに襲い掛かってきた。その恐怖は狼に襲われた時とは比べ物にならなかった。


男に襲われるというのは、想像以上に厳しい。否が応でも女性であることを意識せざるを得なくなる。


そんな彼女の気持ちに配慮してか、僕らはお互いに何も言わなかった。


ただ無言で突き進む山下を追って、黙々とジャングルを進み続ける。直感スキルに対して頼るところが大きすぎるように思うが、僕らにはこれ以外頼るものはない。トースタの街までの道は教えてもらっているが、彼らが本当のことを言っていた保証もないし、何より待ち伏せが怖かった。


小さな村だったが、それでも全員かき集めれば20や30人は集められるだろう。そうなれば、農具だの武器だのスキルだのは関係ない。圧倒的な数に飲まれて、死ぬか死ぬまで奴隷か、それとももっと酷い想像もつかないことになるか。


ただでさえ、僕の手には人を斬った感覚がこびりついているのだ。あれは仕方なかったことだ。そう自分に言い聞かせても、僕は僕を全面的に肯定することはできない。もはや気分の問題だ。


人殺しをしてはいけない。そう教え込まれた世界からきた僕には、自分のしたことが信じられなった。いや、殺してはいないのかもしれないが、殺そうと思って襲いかかったのは事実だ。


くそっ。混乱してきた。いったい僕は僕にどうしろって言うんだ。あの状況じゃああするしかなかったんだ。殺さなきゃ、殺されてたか、もっと酷い目に遭ってたかだ。


僕はだんだんと苛々してきた。悲しかった気持ちはどこかへ行ってしまって、代わりに怒りが僕の心の中に居座っていた。どうして僕はこんな目に遭っているのだろう。なぜ僕らは異世界に飛ばされてきたのだろう。なぜ。なぜ。なぜ……。


「あ」


不意に山下が立ち止まって、前方を指差した。


僕はてっきり敵かと思って、腰に下げた剣を抜いて構えた。農夫を斬った時についた血はすでに拭き取っている。どう手入れしていいかわからなかったのでハンカチで拭いただけだが、血塗れのまま放ったらかしにするよりはいいに決まってる。


それよりも僕の服をどうにかしたい。返り血を浴びている制服は、着ていて気持ちのいいものではない。それに臭いの問題がある。強烈な血の臭いは野生動物を引き寄せてしまうだろう。


剣を構えたまま指差す先を見ると、そこには浅い洞穴があった。3人くらいなら身を寄せ合えば寝れそうな場所である。


「ねえ。あそこで休まない?もうへとへとなんだけど……」


直感スキルが安全だと告げているなら、大丈夫だろう。大丈夫と思いたい。いや、もし直感スキルがなくたって、この状況ならきっと休むに決まってる。


僕も清水も無言で、でも力強く頷いて同意を示した。


そこから、僕らはやはりお互いに無言で、ジャングルの洞穴で寝た。完全に疲れ切っていて、緊張の糸も限界でぷつんと切れてしまって、僕らは見張りをつけるなんてことも忘れて、すぐに寝てしまった。





目が覚めて、まったく何も特段の異常もなかったのは幸運だったのだろう。僕らは寝る前とほとんど同じ状態で目を覚ました。制服に染み付いた血はカピカピに乾いていて、少し揉むとパリパリと零れるように落ちていった。それでもまだ鉄の臭いが染み付いている。もう、これは着ることはできなさそうだ。僕も制服を捨てて自分のジャージに着替える。


全員起きたような気配だ。それでも誰も起き上がろうとしない。


動きたくない。そんな気持ちを抱えていても、最終的には起きなきゃならない。喉が渇いた。お腹が空いた。昨日、村を出てから、ペットボトルの水は飲みきってしまった。パンも食べてしまっている。僕らが持っている食料は何もない。


「お腹すいた……」


山下が呟いた。その言葉をきっかけに、僕たちはのろのろと起きだした。みんな髪はどろどろでぼさぼさで、女の子にあるまじき状態だ。清水は、寝る前に泣いていたのだろう。目の周りが真っ赤だ。


起きてからは、食糧問題について話し合った。しかしながら、具体的な答えは出なかった。生き物を狩ろうにも、僕らには火を起こす術がない。枝をくるくると回して摩擦熱で火をつける方法は知っているが、知っているのとできるのとでは大きな違いがある。


それにもし狩れたとしてもそれが安全なのかには問題がある。食中毒や寄生虫なんかに当たったら目も当てられない。


木の実もほとんど似たようなものだ。毒がないとは限らない。だが、僕はその解決方法を知っていた。知っていたので、僕は今、ジャングルに生えていたバナナっぽい木の実を唇に当てている。


バナナっぽいから大丈夫でしょ、という清水を止めた結果がこれだ。このまま唇に当て続け、しばらく経っても何の変化もなければ、次の段階に進んで口の中で頬張る。それでも何の異常もなければ食べてよし、ということだ。


まあ結論から言うなら、これは食べても良さそうなものだった。だが、僕らは再び日本の品種改良技術に思いを馳せる羽目になった。


まずい。もそもそしていて、ただひたすらに味がない。スポンジを食べているような感覚に陥ってきた。スポンジを食べたことはないが。それに種が大量に入っていて、それをボリボリと噛むのだが、これが結構苦いし、水分をかなり持っていく。種を取ろうにも数が多過ぎる。キウイの種みたいにぎっしり詰まった種を、わざわざ取り除こうと誰も思わない。


「おいしくない……」


文句を言う山下の声も小さい。そりゃ僕が毒味をしている3時間くらいの間、ずっとぼーっとしていたのだから。


「やっぱり言ったとおりじゃん!バナナっぽいから大丈夫だって!」


それは結果論だが、もう言い返す気力もない。今はただこのバナナみたいなものを腹に押し込めて、腹の虫を圧死させることが第一だ。スポンジバナナと名付けよう。うん。


スポンジバナナを腹に押し込んだ僕らは、魔法のリュックに備蓄分をあるだけ詰め込んで、今度は水を探すことにした。水の確保も、僕の知識が役に立った。木を傷つけておくと、そこから水が染み出してくるのだ。この辺に生えているのはシダ植物のようなので、水分も取り出しやすい。適当に木を切ってちゅうちゅうと吸えば水は確保できる。


「ひもじいよぉ」


枝を吸いながら、清水がぼやいた。それでも、ぼやきにある程度の余裕が感じられるのは、いい兆候だ。味は最悪だったが、腹も膨れたわけだし。


「そういえば清水は料理スキル持ちだよね。何とかできないの?」


「何とか……。うーん。何とか……」


そう言って清水は膝を抱えて考え込む。


「うーん。難しいと思う……。包丁ないし、火もないし、お鍋もないし……あ、お鍋はあったわ」


そう言って清水は自分の右腕に装備された盾を見た。名を聞けば「ブロンズラウンドシールド」というらしい。ひっくり返せばそりゃ鍋になるだろうが……。


「あ、包丁もある……」


そう言って見るのは僕の腰にあるブロードソードだ。人の武器を包丁扱いとは、なんとも言えない感覚だ……。


「あとは火ね……。誰かライターとか持ってない?」


……この流れで僕は山下の弓を見た。





1つ大きな問題を残していたのは、燃料であった。シダ植物は水分を多く含むため、燃えにくいのだ。僕らは何とかしてシダ植物以外の、枯れた広葉樹っぽい木を探し回った。やはりというか何というか、洞穴から別れて探してくると、目的物を見つけたのは山下だった。直感スキル最強かよ。


矢を1本犠牲にして、僕らは火をつけることに成功した。矢はまっすぐで硬くて、弓の弦を使って原始人のように火を摩擦熱でつけるにはぴったりだった。矢もこんな使われ方をするとは思わなかっただろう。


それからは清水の独壇場だった。ラウンドシールドを鍋にして、僕のブロードソードを使ってスポンジバナナと枝を煮込んでいく。


動物たちも食べないくらい美味しくないのか、スポンジバナナは文字通り腐るほどあった。実のほうが柔らかくて水分を含んでいるので、手で何個も絞ってラウンドシールドに水分を貯めた。その絞った汁で、清水はさっきしゃぶっていた枝を入れて煮込む。


できたのは「よくわからない枝の煮込み」としか言えないものだった。


「……これ食べるの?」


僕の問いに、清水は大きく頷いた。


「……まあ、僕は状態異常耐性+1あるし」


たしか清水は食事耐性があったな。


「ま、待ってよ!私、何もない!」


「大丈夫。たぶん食べてダメそうだったら直感スキルが吐けって言ってくれるでしょ」


「そんな便利なスキルじゃないもん!なんとなく感じるだけだし!」


「嫌なら食べなくていいわよ!」


食べると言っても皿も箸もない。枝をそれらしくした箸のようなもので、僕らは「よくわからない枝の煮込み」を食べることにした。


……うん。不思議と甘みが感じられる。甘いゴボウといったところだろうか。不味くはないが……。でもなんだか納得いかない。


「……まあ、この極限状態でこれだけのものを食えるんならいいんじゃないかな」


「素直に美味しいって言いなさいよ」


「すいませんでした。正直、料理スキル舐めてました」


素直に謝っておく。うん。ほとんど文明を感じられない中で、この温かい食事というものはかなりの活力になる。


僕らは食事を終えると、火を消して、細い薪を何本かリュックの中に入れた。また次に休憩するときに使うためだ。火をつけるときに矢を消費するわけにもいかないので何本かは火を付けるために見繕ったやつでもある。


そのとき、ピコーン!と電子音のようなものが聞こえた。


「あれ。何か出た」


山下と清水がそう言って空中の何かを上目遣いで見ていた。僕も真似して何かを見るように上を向く。




大和マコト

lv.2 exp:0 next:20


HP:33

MP:6


筋力:6

耐久:5

器用:4

魔力:1

速度:7


通常スキル:冷静+1、運動神経+1、状態異常耐性+1、勤勉−2

戦闘スキル:なし

特殊スキル:火事場の馬鹿力



レベルアップしていた。もしかして、このキャンプによって経験値が入ったのか?


「あ、新スキル出てる。野営+1だって」


「僕にはない」


「アタシにも」


どうやら清水だけがスキル取得したらしい。


「何これ。戦闘とかに全然役立ちそうじゃない……」


▼清水は落ち込んでいる。


「でも今一番必要なスキルじゃない?」


「確かに。火を付けるのとか上手くなりそうだよね」


「薪とか見つけやすくなったりね」


▼僕と山下は清水を励ました。


「納得いかない……」


▼効果はいまひとつのようだ!


「さあ、とにかく進みましょう。レベルも上がったし、何かきっといいことある気がする!」


「「おおー」」


直感スキル持ちの山下が言うので、信頼度は段違いだ。


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