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異世界の村のようです

さらに一時間ほど……腕時計がいうのだから確実なはずだが……。一時間ほどずんずんと歩いて行くと、本当にジャングルが開けて畑のような場所に出た。周囲は開けていて、ぽつんと民家が1つあるだけだった。遠くにもいくつか点在しているように見えるということは、ここは村か何かなのだろう。


「すご……。本当に着いた」


本当に着くとは思っていなかった口ぶりで清水が言った。


「信じてなかったの!?」


山下には申し訳ないが、僕も信じていなかった。


「酷いよ!」


「まあ、結果オーライ結果オーライ」


しばらく山下の恨み言を聞き流しながら、一番近い家に行く。何はともあれ情報収集というのが、RPGの基本だ。手にした武器は警戒されないように魔法のリュックに入れておく。


「……留守みたいね」


民家をノックするが誰も出てこなかった。


「もしかすると農作業をしているのかもしれない」


僕の提言に、2人とも頷いたので、畑を見回して人を探す。


「……いた。ほら、あっち」


山下が指差す方向には3つの影があった。彼女の弓使いとしての才能は素晴らしい物があるかもしれない。少なくとも僕にはその辺にぽつぽつ生えている灌木と区別がつかなかった。


僕らは野菜泥棒と間違われたり怪しまれないように、こちらから手を振りながら近づくことにした。


「こんにちわー!」


僕らが愛想を振り撒きながら近づくと、彼らも大きく手を振って応えてくれた。男が3人で、誰もが農作業で鍛えられた逞しい体をしていたので、清水は緊張した様子だった。冷静+1、ありがとう。


「こんにちわ。……あー、申し訳ないがどちら様で?」


彼らは僕らを見て不審そうに言った。知り合いでもなければこの農場に来る者は珍しいのだろうか。


そこまで考えてから、ふと彼らの服に気が付いた。歴史の授業で見た農民の絵にそっくりだ。中世の農民といった感じがしっくりくる。


彼らと比較すれば、僕らの格好はかなり違和感の強いものだろう。僕らは学校の制服だし、まったくこの世界に馴染んでいない。


「実は、僕たち、気づいたらジャングルの中にいたんです。信じてもらえないかもしれませんが、僕らはたぶん、この世界とは別の世界から来たんです……!」


僕がそう説明すると、彼らは何か、合点がいったような表情で互いに顔を見合わせていた。


「ああ!じゃあ君たちはマレビトってことだろう!」


マレビト?何のことだろう。


「マレビトって、つまり他所から来た人ってことですか?」


清水が言う。山下の頭の上にも?マークは見られない。マレビトという言葉を知らないのは僕だけか。


「そうさ。何十年かに1度、君たちは異世界から召喚され、この世界に様々なものをもたらしてくれるのさ!」


なんだか彼らのテンションがうなぎ登りだ。ちょっと怖い。


「よーし、今日は農作業なんかしてる場合じゃない!」


「そうだそうだ!みんな呼んで歓迎会だ!」


ポカーンとしている僕らを放っておいて、彼らは歓迎会を開く方向にテンション全開のようだった。


それから、僕らは彼らの村長の家に招待された。村長の家は木造で、内装も木製のものばかりだった。余程の酔狂な趣味の人でなければ、現代社会においてプラスチック製のものを排除した生活はできないだろう。僕はここがやはり異世界だということに確信を持った。


僕らはしばらく村長たちと情報交換をした。あっという間に日が暮れてしまったので、僕らは村長から晩御飯の誘いを受けた。断る理由もないし、朝から何も食べていない状態だったのだ。空腹耐性-1がついている山下は辛そうだった。


「まあまあ、貧しい村ですが、ぜひとも召し上がってください」


村長の家の中央のテーブルに広げられた料理は、豪華なものだった。鳥の丸焼きがメインディッシュなのだろう。湯気の登るスープに、焼きたてのパン、新鮮そうなサラダまである。


「「いただきます!」」


僕らは我先にと料理に手を伸ばした。食欲は何物にも代えがたいものだ。


一口二口食べて、僕らは食べる手を緩めた。美味しくないのだ。どれも臭みが強い。人が食べやすいように品種改良を重ねられた、普段食べ慣れていたものとは違うということだろう。


「村長さん、明日にはさっき言っていたトースタという街に行こうと思っています」


「えー?もうちょっと居ようよ!」


食事が一段落してから、僕がそう言うと山下が反論してきた。


「それは十分魅力的だけれども、そうはいかない。ここに永住するならまだしも、僕は元の世界に帰りたい」


「大和の言うとおり!それに他の人もこっちの世界に飛ばされているのかもしれないんでしょ?」


清水が僕の援護射撃をした。さっき村長さんと情報交換した時に教えてもらったことに、「マレビトは数十年に一度、異世界から召喚される。その数はこの世界に均等に行き渡る数である」というものがあった。


その情報が正しく、僕らのいた場所付近から召喚されているのだとしたら、学校の何人かは間違いなくこっちの世界に召喚されているはずだからだ。


トースタという名の街は、さっき村長さんから教えてもらった最も近い街の名前だ。とにかく街に行けば誰かに会えるかもしれない。会えなくても何らかの情報が得られるだろう。数十年に一度、異世界人が来る世界ということは、少なくとも前回と前々回は存在するはずだから、それを追えば元の世界に帰る方法も見つかるのだろう。


2対1で、山下は折れた。民主主義だ。


「そうですか。まあ、マレビトは旅をするものですからのう。止めはしませんとも」


村長の言葉に、僕ら3人は頭を下げた。


その日は村長さんのご好意で、村にある宿屋に眠らせてもらった。

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