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異世界の鍛冶屋さんのようです

「うわっ!起きて!起きて!」


「う……、何……?」


ミナに揺さぶられて目を覚ませば、もう日は真上にあった。昼だ。腕時計は9時ごろを指していたので、もう役に立たない。こちらの1日と地球の1日の長さが違うのだ。もう腕時計は地球の1時間を計る道具にしかならないだろう。


「……寝過ごしたね」


ミナの言葉に、僕もチホも笑ってごまかすしかできない。そういうミナも寝過ごしているので、誰も誰かを責めたりしない。


「まあ今日ぐらいはいいんじゃない?疲れも溜まってたと思うし」


「で、今日はどうする?」


「とりあえず市場に行きましょう。旅を進めるにしても、どっちに行くのかとか、どれくらい準備するのかとかあるし」


チホの言うとおりだ。もうこのパーティはチホがリーダーだな。


「じゃあ……」


ぽん、とチホが手を叩く。


「とりあえずご飯食べよ?」


チホの提案に、僕らは一瞬の躊躇もなく同意した。こっちの世界に来てから、食に関して貪欲になっているのかもしれない。


「下で食べる?それともどこか別のところにする?」


ミナが聞いた。僕はどっちでもよかった。


「うーん。とりあえず市場に行こっか」


チホは当初の予定通りのことを言った。


「食堂はいくつかあったと思うし、市場の雰囲気とか、買い物とか、2人はいろいろ見て学んだほうがいいかも」


おっしゃるとおりだ。僕らはこの世界の何も知らない。知っているのはチホだけで、別の言い方をすればチホに負担を強いているのだ。


「さ、服も乾いてるし、着替えて行こう」


昨日の晩に干した洗濯物はすでに乾いていた。昼まで寝ていたので気温も上がっているし、何よりこの辺りの気候が乾燥しているのだろう。


僕らは農民の服に着替えて、宿屋を出た。


宿屋は交易路に面しているので、そこから出れば大通りに出ることになる。大通りにはぽつぽつと人がいて、買い物をしているか、立ち話に興じている。


時折、荷馬車が通り過ぎていったり、止まって小さな商売を始めたりしている者もいた。小さな子供が、水の入ったバケツを手によろよろと歩いていたり、追いかけっこをして走り回ったりもしている。


そう表現すれば賑わってるようにも感じるが、人の数は日本の寂れた商店街みたいだ。ほとんどの旅人が、ここを通過点としか見ていないようだった。


「前にも思ったけど、文明よね」


「……うん。文明だね」


ミナの言葉に、思わず同意する。


あの馬鹿みたいに苦しいジャングルでのサバイバル生活とは、比べるまでもなく文明的だ。


食べるものがスポンジバナナと木の芽しかなかったし、服も着替えることができなかったのだから、そりゃあ比べる方がおかしい。


「じゃあ、私は今日はあんまり喋らないことにするから、2人で頑張っていろいろ見て回ってね」 


えっ。マジでか。なかなかスパルタな教育方針だ。


「う、うん。そうよね……。チホにばっかり負担をかけちゃダメよね!」


ミナはそう言うが、僕的には役割分担ということでいきたい。ミナが料理。チホが交渉。僕が戦闘とかってどうかな。ダメかな。ダメだよね……。


「うーん。いろんなお店があるのね」


「何のお店かはわからないけどね」


たしかに。絵の描かれた看板は出てるが、いまいちよくわからない。


おそらく、こちらの世界の常識で描かれた看板だからだろう。車椅子のない世界で、車椅子の絵の身障者用看板を見ても、たぶんピンとこないと思うし。


あ、金床とハンマーのマークがある。


「あ、ここは鍛冶屋さんなんじゃないかな?」


僕は見つけた看板を指差す。木の看板には金床とハンマーのマークが焼き押されていた。


店の裏手から、カンカンと音が鳴って、空には煙が上がっている。ここからは見えない。何かを打っているのだろう。剣かな?斧かな?


「鍛冶屋さんかぁ。ブロンズシールド売れないかな……」


「あ……、そうだね……。臭いもんね……」


ミナの複雑な顔に、思わず同情してしまう。正直な話、ミナのブロンズシールドなんかはもう生臭さが取れないのだ。木の芽を煮込みすぎた結果だ。


「いらっしゃい。何をお求めで?」


店先にいたおじさんが、僕らの目線に気付いて声をかけてくれた。


「すいません。ここは何のお店ですか?」


「私たち村から出てきたばっかりで……」


「ははは、見りゃわかるだろ。ここは鍛冶屋だよ」


なんだか馬鹿にされたような言い方だったけれど、そんな感じのしないさっぱりとした印象だった。


「鍛冶屋さんって……何を売ってるんですか?」


「何でもさ。金物なら何でも。フライパンでも包丁でも。フォークから剣まで何でも」


「あー、じゃあ包丁研ぎってやってますか?」


「おう。やってるよ。見せてみな」


とりあえず盗んだ包丁を見てもらうことにした。盗んだときには、あんまり状態のいいものではなかった記憶がある。


魔法のリュックから刃を布で包んだ包丁を出した。


「あー、これは随分放置してたんだな」


「村の倉庫で見つけたやつだから……」


そういう設定にしといた。


「半リル銀貨で明日の今くらいになるけど、どうする?」


どうする?と言われても相場がわからないので、僕らは目配せしあった。チホがいつもどおりの顔なので、たぶんオッケーだと思う。


「じゃあお願いします」


「研いでおくよ。明日までにはやっとくから。あ!代金は受け取りの時でいいから」


僕が巾着から半リル銀貨を探していると、おじさんが制した。


「ありがとうございます」


「他には?嬢ちゃんたちの武器はどうだい?」


「あ、こっちはまだ大丈夫です。それより、マチェットってあります?」


「あるよ。どんなのがいい?」


「安くて頑丈なやつ」


「はっはっは。みんなそう注文するさ」


そう言っておじさんは包丁を持って、奥に引っ込んでいった。戻ってきた時には包丁の代わりに木の鞘に包まれたマチェットが握られていた。


「ほら、これとかどうだい?」


渡されて、具合をみる。割りと重いが、マチェットはこの重さで叩き斬る部類のものだ。山道を進むときはこれがあると便利なのだ。なんかのサバイバルの本で読んだ。


「もう少し軽いのはない?」


「それより軽いのだと値が張るぞ。それで6リル銀貨だ」


う……。すでに割りと高い……。


「も、もうちょっと重くていいから安いのない?予算、3リル銀貨くらいなんだよね……」


「うーん……、ちょっと待ってろ」


僕がマチェットを返すと、おじさんはまたそれを持って奥に引っ込んだ。今度はしばらくしてから出てきた。


「中古だけど、これなら2リル銀貨でいい。研ぎ代も含んでだ」


「っと」


おじさんから渡されたマチェットは、ずっしりしていて無骨な造りをしていた。刀身が四角くて、マチェットというか鉈っぽい。まあマチェットも鉈も同じなんだけど。持ち手は木で、全体的に安っぽい。


「……もう一声」


「うー、しゃあねえな。研ぎ代はただでいいよ。包丁と合わせて2リル銀貨だ」


「じゃあそれでお願いします」


そう言って僕は鉈を返す。


「あっ、あと、フライパンありますか?」


ミナが割って入る。そうか。フライパン忘れてた。


「直径はどれくらいだ?」


「ええと、これくらい……」


ミナが両手で円を作って説明した。


「そしたら全部で3リル銀貨だよ。明日には用意しとくから」


「ありがとうございます!」


よし。初めての買い物終了!


チホの方を見れば、親指を立てて太鼓判を押してくれてるみたいだった。素直に嬉しい。

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