表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/16

異世界に飛ばされるようです

筆者は一貫して「異世界転移物が書きたくなったので」と供述して犯行を否認しており、警察は余罪を追求しています。

夏休みのある日、僕は夏休み明けにある文化祭に向けての打ち合わせのために学校に来ていた。


文化委員なんかになってしまったばっかりに、かなり損な役回りをすることになってしまったわけだ。


将来のために、つまり内申点のために委員会に所属するということは有意義なことだ。そしてその中でも比較的楽そうな委員を選んだのが、文化委員という役職だった。


委員は7つあって、学級委員、体育委員、文化委員、保険委員、環境委員、風紀委員、図書委員がある。


文化委員は体育委員と双璧をなす委員で、体育祭と文化祭という学校の一大イベントの主役になる仕事だった。といっても文化委員が実際に働くのは文化祭前だけで、対して体育委員は体育の授業なんかで機材を運んだりという実働的な仕事が常にまとわりついてくる。


内申点も学級委員、体育委員、文化委員という順で高くなるらしい。それに保険委員、環境委員、風紀委員、図書委員と続く。この中で一番しんどそうなのは学級委員、体育委員、図書委員だ。彼らは定期的に仕事をしなければならない。学級委員なら行事ごとの打ち合わせ、体育委員は体育授業の補佐、図書委員は図書貸出窓口の当番がある。というなら、この中で一番費用対効果があるのは文化委員だ。


そういうわけで僕は文化委員を選んだわけだが、これが大きな間違いだった。今まではそれでよかったらしいが、今年から委員会活動は変わってしまった。三年生の先輩方が政変を起こした……らしい。


事の顛末はよくわからない。唯一僕の知っていることは、クラスの女子から聞いたことだけで、ある三年生の先輩がまったく突然に生徒会長に立候補して選挙で勝ってしまったのだ。その責任の一端は僕にもあった。先輩の巧みな話術に引き込まれ、僕を含めた一年生たちはほとんど彼に投票してしまったのだ。なんでも、その先輩はあちこちに顔が利くらしく、部活動の先輩から「あいつに投票してくれよ!」と言われるまま従った子が大半らしい。


右も左もわからない一年生に、最高学年で部長をしてる憧れの先輩にそう言われてしまっては、素直に従う他選択肢なんてない。


でも、実際に新しい生徒会長は凄いらしい。僕は去年のこの高校を知らないのだけれど、体制が大きく変わったらしい。まず目に見えて僕が迷惑しているのが、この委員会活動の活発化だった。


新生徒会長曰く、「我々は生徒会役員であり、生徒会とは生徒みんなで作り上げるものである。生徒会役員が生徒会の全権を握っている実情は歪であり非民主主義的だ。これを是正するために、まず定期生徒会会議を開き、さらにその前段階として委員会会議を随時開くことが必要である」と。


要するに学校運営に生徒一人一人がより深く関わって決定権を持つことにより、選挙の大切さなどを生徒たちに学ばせようということなのだろう。


現に今僕は選挙の大切さを身に染みて感じているところだ。僕らが彼に投票しなければ、僕はこうして暑い中、それも夏休み中に登校することはなかっただろうからだ。いつも為政者は綺麗なことを言って人民を圧迫するのである。


教室に入ると、もう1人の文化委員である清水ミナがすでに席に着いていた。


「大和、遅い!」


そうは言うものの、彼女が早いのである。これでも僕は集合時間の10分前に教室のドアをガラガラと開いたわけで、彼女はいったい何時から待っていたのだろうか。


「遅くないよ。10時集合だろ?」


「会長はいつも会議の30分前には準備してるのよ」


会長とは、もちろん僕らを馬車馬のようにこき使う新生徒会長のことである。清水は会長の熱心な信者で、ことあるごとに会長の名を出して不真面目な生徒に文句を言うのである。とはいうものの、会長は彼女の思っているような聖人君子ではない。


僕は偶然授業中にトイレに行くときに、会長が談話スペースで同級生らしい人達と携帯ゲーム機で遊んでいるところを見てしまったのだ。そのとき会長は「こんな悪い先輩を真似しちゃいけないよ」と言ったのだ。


だから僕は会長みたいに30分前行動はしないし、生徒を馬車馬のごとくこき使うのは反対なのである。


会長が授業をサボってモンスターを捕まえて育てて戦わせるゲームをしていたことは、まだ誰にも言っていない。「意外と子供っぽいゲームをしてるんですね」と僕が言うと、会長は本当に楽しそうに「俺らもまだまだ子供だからね」と言うのである。


でもそのことを僕は誰かに言ったりはしない。別に口止めをされたわけではないのだけど、言いふらせと言われたわけでもないのだ。けして同席していた先輩たちが、男子バスケ部と男子バレー部の部長で、敵に回すのが怖かったからではない。みんなが尊敬している先輩たちなんて、授業サボってポケモンしている不良なのだ。


「その30分前行動を会長が勧めたわけではないだろう?」


「でも先輩がそうしているのだから学ぶべきよ。学ぶは真似するということからきているのよ」


古典の先生が言っていたことを、清水は言う。それを鵜呑みにするのなら、僕は授業をサボって会長とポケモンバトルに勤しまなければならない理屈になる。


「それに、私は一年生の文化委員のまとめ役を委員長から任されてるの」


これは本当のことだ。委員会活動の活発化に伴って、委員長と副委員長だけでは仕事が回らないときがでてきたのだ。それを解消するため、そして来年度の委員長育成のために委員長補佐というポストが作られたのだ。


二年生と一年生から1人ずつ選ばれて、委員長と副委員長の手伝いをする。また彼女ら委員長補佐は委員長会議というものにも出席して、各委員会の調整や予算執行などの運営にも携わる。


具体的にどんなことをしているのかは知らないけれど、清水はその補佐に選ばれたのを誇りに思っているらしく、いつも張り切って自分の仕事に取り組んでいる。それを自慢するように吹聴しなければかっこいいと思うのだけど、僕はそれを指摘したりはしない。


なぜなら会長曰く、「そういうポストを作ることで部活動に参加していない生徒たちへの情報ルートを構築するのも目的の1つ。さらに言うなら、そのポストに生徒が憧れを持てば委員会活動はもっと積極的なものになるから」だそうだ。そうやって会長の手のひらの上で遊ばれていることも知らないで、呑気なことである。


「そうだ。会長はもう来てた?」


「来てたよ。生徒会メンバーでまた予算調整だって言ってた」


「そう」


そう言うと清水はそわそわとグラウンドの方をちら見した。そこからは見えないはずだが、視線のもっと下には生徒会室がある。構造上、四階であるこの教室の下、一階部分には生徒会室が位置している。


「見える?」


「見えるわけないでしょ」


「気になるなら行けばいいのに」


「そ、それで会長の邪魔になったらどうするの!」


そういうの気にしない人だと思うんだけどなぁ。どうも会長のイメージだけが先行してしまっているようだ。


「それに、……東雲先輩もいるじゃない」


東雲先輩とは、副会長である。ちなみに女性だ。明るい人で、ふわっと緩くパーマのかかった焦げ茶色くらいに髪を染めていて、まあ、要するにギャルっぽい先輩である。でもこれが仕事のできる先輩で、会長の秘書みたいにいろんなサポートをしている。


悲しそうな顔をする清水がなんだか不憫に思えて、「東雲先輩とは何もないって言ってたよ」と僕がフォローしたのに、清水は眉を寄せて怒った顔になった。


「なんでそれをあんたが知ってるわけ?」


「いや、普通に東雲先輩と付き合ってるんですか?って聞いただけだよ……」


「そ、それで?」


「それでって、それだけだよ」


「違う!何て会長は答えたの!?」


「だったらいいねーって」


「ほらやっぱり!!」


清水がこの世の終わりみたいな顔をした。僕は、東雲先輩が笑いながら「あんたとはないわー」と、眉をハの字に曲げる会長の肩をバシバシ叩いていたことは言わなかった。清水は面倒くさい。


「おはよー…ってミナどうしたの?」


10時ジャストで到着した山下チホを加えて、今回の文化祭打ち合わせメンバーは揃ったので、溜め息のうるさい清水と共に文化祭の検討に入る。うちのクラスはたこ焼きの屋台をするつもりだったので、値段や仕入れを考えていかに利益を出すか、また衣装やクラスTシャツをどうするかを話し合った。


「……揺れてない?」


たこ焼きに入れるのはタコだけなのか、それともチーズなどのバリエーションを増やした方がいいのか、その場合予算からどれだけの規模を見込めるのかなどの議題をこねくり回しているとき、山下が天井を見ながら言った。


地震なら下を見た方がいいんじゃないだろうかと思いつつも、目線は山下のそれに追従してしまう。そして一秒も経たないうちに、その揺れは僕らの足元を痛烈に叩き付けるようなものとなった。


「きゃあっ!?」


「机の下に隠れろ!」


山下の反応は早かったが、清水が悲鳴をあげるだけで何もしなかったので、僕が頭を押さえて無理矢理にでも机の下に押し込む。押し込んだ後、僕も隣の机の下に滑り込むようにして入った。


窓ガラスが音を立てて割れる度に、清水がきゃー!きゃー!と悲鳴をあげてうるさい。僕もさすがに怖かったので、ぎゅっと目を閉じて時間が過ぎるのを待った。


やがて揺れがぴたりと止み、清水の騒がしい悲鳴というか狂乱の声が聞こえなくなって、僕は目を開けた。


目を開けたら、僕は真っ白な部屋にいた。教室は教室なのだが、辺り一面真っ白だった。隣にいたはずの清水も山下もいない。


「ここは……。まさか、死んだのか……?」


頭をよぎったのは、僕がさっきの地震で死んでしまったということだったが、直感的にそうではないと思った。なぜそう思ったのかの理由はわからなかったが、とにかく僕は死んでないという確信はあった。


そして目の前の黒板……といっても真っ白だから白板と言うべきか。とにかく目の前の白板には文字が書かれていた。




大和マコト

Lv.1 exp:0 next:10


HP:30

MP:5


筋力:6

耐久:5

器用:4

魔力:1

速度:7


通常スキル:冷静+1、運動神経+1、状態異常耐性+1、勤勉−2

戦闘スキル:なし

特殊スキル:火事場の馬鹿力


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ