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霊的恋愛  作者: にゃっき
2/3

手紙

 西野さんの手伝いをした翌日の事である。うつらうつらと、うたた寝を繰り返し電車を降りて改札を出たのだが、なぜか西野さんが居た。


「あれ?なんでこんな所に?」

「約束のジュース買うためにね」


 決死の覚悟で立つ戦士の様に立ちはだかる西野さんに対し、俺は少しばかり驚いていた。別に本気でジュースを奢って貰おうと思ったわけではない。というか、あの場のノリで言ったのだ。俺の上に浮かぶ彼女も苦笑気味である。ここまで人の言う事を完璧に信じる人なんて初めて見たと言わんばかりだ。

 まあ、俺もそう思ってるけどさ。


「いやさ。別にいいんだぜ?小遣い今月はピンチなんだろ?」

「だって、ジュース一本奢るって約束じゃん」

「うぁー…だから、もういいってば。それより遅刻しちまうから行こう」


 そう言うと西野さんは、首を可愛らしく傾げた。その後、ピンクのベルトの小さな時計を見て、慌てた様に自転車に乗った。

 …って、俺置いて行くの!?


「ちょっ!西野さんストップ!」

「止まってる場合じゃないよ!笹本くん」

「違うって西野さん。後ろに移動して、早く」

「え?あ、うん?」


 不思議そうにしながら荷台に座ると、俺は西野さんの自転車に飛び乗りペダルに足をかけた。


「しっかり掴まっててよ、西野さん!」

「え?え?ひゃぁ!?」


 思いっ切りペダルを踏み込んだ途端、しっかり掴まっていなかったが為に上半身が後ろに仰け反らせた西野さんは、焦ってた様子で俺の腰にギュッと抱き着いた。


「うわ!?」


 む、むむむ、胸が!胸が!当たっ、当たって!あわわわわ!?


「ちょっ、笹本くん!?前見て!前見て運転!!」


 ……なんかグダグダだったけど、着いたよ?学校には。ただ、もう二人乗りはやらない。危ないし、警察やら先生に見つからないかやらで神経を擦り減らすのは、もう御免だ。

 そして、当然と言っちゃ当然なんだけど、現在、俺が西野さんと一緒に登校した事によって注目を浴びちゃっている。西野さんが。

 無論、俺も最初は質問攻めされたけど、ガン無視を決め込んでいたら、飽きたようで西野さんにターゲットが移ったという訳だ。すまん。西野さん。


「だ、だから!あたしは笹本くんがす……好きとかじゃなくてっ、昨日のお礼をしようとしただけで……」


 徐々に声が小さくなって、最終的には俯いてしまった。流石にやりすぎたかとクラスメートは各々の席へ戻っていった。

 なんだか、俺へ視線が集まるが、無視を貫き通す。相手をすると水を得た魚の如く調子づくからな。


「席に着けー。HR始めるぞ」


 担任の坂町信弘が入って来た。よくあるやる気のない無精髭とか、無駄に熱血漢だとかいうドラマやらでよく見掛けるような性格ではない。普通に居そうなおもしろい先生である。

 あっ、フリじゃないからな?


「さてと、HRなんだけども……笹本、あとで職員室に来なさい」

「え?」

「分かったな?」

「あ、はい。分かりました」


 いきなりの事に俺が考え込んでいる中、滞ることなくHRは進んでいく。

 はてさて、俺は何かやらかしただろうか?昨日の出来事って言ったら西野さんの手伝いしただけだし………朝の二人乗りの件かね?見られてたとか?うっわ、最悪だよ。それは。


「よーし、笹本行くぞー」

「ちょっ、先生待って下さいよ」

「5秒な」


 ああ、また彼女が笑ってるじゃんかー。俺をネタに彼女を笑わせないで頂きたい。

 やれやれといった様子で先生の横に並ぶと頭を小突かれた。個人的に体罰推進ですけど、俺に対してはやめてくださーい。

 なんて、かなり偏って斜めった意見を心の中で呟きつつ先生にくっついて行く。

 さっきの話通りに職員室へ行くのかと思ったら、あら不思議、目の前には校長室が。流石に一時停止。いや、そんなレベルの悪い事わたくししましたかね?これ絶対にタバコ吸ったーとか酒飲んだーレベルっすよね?ホント身に覚えがないのですが……

 コンコン


「校長、連れて来ました」

「開いてるから、入っちゃってー」

「失礼します」

「……マジ俺なんかやったかなぁ?」


 ぼそっと呟くと、高そうな机でハンコの多段リアルインパクトをかましていた校長が立ち上がった。茶色の上質な絹の様な髪に整った目鼻立ち。年相応に落ち着いた雰囲気の中の少女の様な無邪気さを抱えたところが、校長の魅力らしい。別段、俺は校長の事が嫌いではない。ただ、彼女が校長を嫌がる。それはなぜか。俺以外で今のところ彼女を知覚出来たのが校長だからだ。あの人は、面白い事さえあれば生きてける人だから、彼女にちょっかいを出す。そのせいで嫌われたのだ。南無三


「久しぶりね~勇ちゃん」

「何度も言ってますけど、その勇ちゃんってのやめて下さい」

「それでね。ちょっとばかり面倒な物が勇ちゃんに届いたのよ」


 聞けよ。


「んふふ。気になる?」

「気になるっちゃ気になりますけど」

「政府からの手紙よ。なんか、ここに来いって内容」


 手紙をこちらへ寄越すと、机に肘を立てニコニコと笑顔を浮かべる。何か嫌な事考えてるな。こりゃ。


「んで?えーと…」


 えーと、要約するとこの手紙を持って市役所に来いとの事らしい。なんだろう?住民票云々なら親へ通知行くだろうし。マジで何なんだろう?


「とりあえず、それ渡したからね」

「校長は、知らないんですか?コレ」

「どれどれ……うん?勇ちゃん勇ちゃん。ここ読んでみて」

「はあ……、えーと『なお、目的地への移動手段はこちらで用意するので自動車による移動はお控え下さい』か。つーことは、ただ単に集合場所が市役所なだけって事か…うーん、謎だ」


 俺が首を傾げているのを見てニヤニヤ笑う校長にジト目を向ける。


「というわけだから、勇ちゃんは早退ね」

「え?いや、まだ行くと決まった訳じゃ……」


 彼女も首を縦に振り、俺の言葉に同意する。そのまま、ファイティングポーズをとる。物理攻撃型は効かない。むろん、校長にも彼女にも、それでもその体勢をとっているのは、校長に対する警戒なんだろうな。


「そうね。でも、御上からの手紙じゃ断りようがないのよ。学校側からの反応ね。それじぁあ、あたし個人から。正直なとこ、あたしの目の届かないところには行って貰いたくないわ。美穂との約束もあるしね」


 淡く微笑み校長が言った。これだから、と俺は思う。まったく…周りに居る大人はみんな、いっつもこうだなぁ。いい人が多過ぎる。父親も母親も校長も、坂町だってそうだ。

 でも、だからこそ、俺は言う。


「行きます。自分の意思で」

「そう…分かったわ。あたしからも美穂達に連絡しておくから、なんとかしなさいな」

「ありがとうございます校長」

「いいのよ、いいのよ。ただ無事に、ね?」

「はい」


 校長に返事をしつつハガキに視線を落とす。と、場所指定の下あたりに小さな文字の羅列がある。

 目を凝らし見てみると書いてあったのは、ハガキ到着日の明日までが期限という書き込み。切手のところに押してあるハンコの数字の羅列に目を通してから、校長に詰め寄る。


「これ、いつ届きました?正確に、事実のみを答えを言って下さい」

「え?えぇ?な、なんのことかなぁ?届いたのは今日だけど?」

「じゃあ、ハンコの数字から逆算したら昨日届いたって事実は嘘になるんですね?そういう解釈でいいんですね?」

「ぬぅ……」


 唸るだけで言い返そうとしない。言外に認めてるようだ。やれやれと、頭を振ってから口を開く。


「まあ、いいですけど。ただ、これからはこういう事は控えて下さい。俺も対応に困りますから」


 努めて笑顔で言うと、校長はカクカクと頷いた。うん、分かりゃいいんだよ。分かれば。

 すでに、坂町も席を外していたので一人で教室へと戻った。

 しかしながら、一つ失念していたことがある。とある女子生徒の存在だ。


「勇ちん、勇ちん。サカマティーになんで呼ばれたのー?」

「ああ、なんか早退しろだと」

「早退?調子悪い?バター食べる?イェッス」

「調子が悪いわけでも、バターを食べる気もないけど、俺がお役所に御指名頂いたんだ」

「お役所?住民票か何か?」


 頭上に?マークを浮かべ首を傾げる奴こそ、我が親戚である如月葉兎だ。ちなみに、名前はハトと読む。さらに、二代目母側の親戚と追加情報を言っておく。

 そんな彼女だが見てくれはいい。頭は変に回らないけど…


「ようするに、国から来てくれって言われたの。だから、早退して市役所へ行くわけ、オケー?」

「オッケーオッケー」


 未だによく分かってない様子である。落ち着いていれば頭は良い方なのだが、テンパりやすいが為に能力四割減なところが玉に傷だ。勿体ない。美人だしスタイルも………良いし、物理的に強いし、なんだこれ。最強ジャマイカ。


「まっ、つーわけだから、帰るわ。俺」

「あ、うん。また遊びに行くねー」

「はいよ。次はソフト持って来いよ。勝負にならんから」


 ひらひらと手を振ってから鞄を持って教室を出た。坂町に早退の連絡?校長に頼みましたが、なにか?

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