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7話 番長と愉快な?仲間達 後編

遅くなりました。

 僕達は宿に入るとまず部屋を取った。

 ボロボロになった装備を脱ぎ風呂で汚れを落とすためだ。初期装備は脱いで置いとけば自然と綺麗になる。性能は変わらないが今のままでは見映えも着心地も悪い。体も洗わないと、いくらゲームとはいえ汚れたまま食事するのは抵抗がある。相手にも失礼だし。

 なんてことを僕は心の中で言い訳しながら自室の脱衣所に入った。今の体が男だと思い込むにも限度ってもんがあるっすよ。

 部屋はベッドとチェストが置けるぐらいの広さしかなく、安いビジネスホテルのようだ。部屋の入り口の近くに一畳ほどの脱衣所があり、バスタオルとハンドタオルが仕舞ってある棚、その上に脱いだ服を置いておくための小さな竹籠がある。少し手を伸ばしただけで壁に当たるだろう狭さが落ち着く。

 ステータス画面ではなく、1つ1つ手作業で脱ぎ捨てる。自然修復をするにはアイテム化しておく必要があり、服は勝手に洗われるらしい。二人に聞いた。

 服に手をかける。鼓動が速まり、呼吸が乱れ、一枚脱ぐたびに音が遠のき世界が狭まる。分かっていても僕の目の前で、鏡の中で露になる柔肌に目を逸らせない。痛いほどに脈うつ心臓の音だけになった世界で、僕はゆっくりと最後の一枚に手をかけた─────



 お風呂からでました。一言で言うなら、大変でした。色々と。

 お風呂から先に出た(・・・・)クールさんと一緒に一階の食堂へ。“番長”が五つある四角いテーブルの一つに座って待っていた。三人とも無地のTシャツにズボンだ。“部屋着”というこの初期装備は、戦闘用の服(ログインした時の服)が洗濯中の時に着る物だ。今は無地だが、そのうちお洒落でより着心地の良い服ができるらしい。ちなみに防御力はゼロ。


「女の風呂がなげぇってマジなんだな。何してれば、そんな長くなるんだ?」


 近づいた僕らへの第一声がこれである。何って、ナニしてればですよ。色々と。げっそりとした僕と、すっきりとしたクールさんを見て何かを悟ったらしい。肩をぽんと叩いて励ましてくれた。知ってたなら教えろよこの野郎。

 僕は四つの椅子のうち、“番長”の前に座る。クールさんは僕の左隣に座った。何故そこに……いや、考えまい。

 僕達が席に着くと料理が運ばれてきた。焦げ目が付くまでこんがりと焼いた薄い肉と水っぽいシチュー、そして硬いパン。なんというか、質素? な祝宴になりそうだ。


「貧乏くさい祝宴になっちまったが……初日で解放イベント達成を祝して、カンパイ!」

「……乾杯」

「か、カンパイ」


 水の入った木製のコップを持ち上げる。もう少し言葉を選んで欲しかったかなー。事実だけど。

 乾杯をすると“番長”とクールさんがいきなり頭を下げた。


「本当に今日は世話になった。俺らだけなら全滅だったな。皆を代表してお礼するよ。ありがとう」

「……ありがとう」

「い、いえいえ! むしろ、本当に助けて、良かったんですか……?」


 最初は僕と同じように巻き込まれたのだ、と思った。しかし、話を聞く限りどうやら自ら挑んだみたいだ。ならば死に戻りでも一度退却し、装備やレベルを整えてから再度挑んだ方が良かったのでは? と、考えたのだ。

 しかし、彼らはとんでもない! と否定した。


「イベントに失敗した奴や達成済みの奴が仲間にいると難易度が上がるんだよ。それなら、貰える経験値とアイテムが半分になっても続行した方が良い」

「……βでさえ、手こずった。今度は何が出てくるか分からない」


 そもそも善意でやって貰ったのに迷惑だなんて思わない、と彼らは言う。

 余計なお節介ではなかったと安心していいのか、これからの事を不安に思った方がいいのか。とりあえず、次に開放イベントに挑むときはそれなりの準備をしておこう。


「だから、お前――――そういえば、自己紹介もしてなかったな。俺はリュウタ。見ての通り拳が武器だ」

「……私はマキナ。ナイフが武器。よろしく」

「え、えっと……ウルド、です……片手剣です。よ、よろしくお願いします」


 フレンド登録画面が開く。そこには“リュウタ”と“†機械神†”の文字が……って、マキナはそれから取ったのかよ。申請を受理する。


「よろしく。ま、そんな訳でウルドが気にやむ必要はねぇよ。それより、そろそろ食おうぜ。腹減った」

「……賛成」


 多少強引に話を終わらせて食べ出す二人。フォークとナイフを持ち、僕も食べ始めるが──


「……硬い」

「噛みきれないね……」

「そうか? 歯応えがあって旨いぞ?」


 肉は薄いのに硬い。肉が悪いのか、炭になる一歩手前の焼き加減が悪いのか。味付けは胡椒のみなのだろうが、よく分からない。ぶっちゃけ金出して食べる物じゃない。しかし、そんな僕とマキナに不評なステーキも番長には好評なようだ。ワイルドだな。


「まあ、科学側の飯なんてこんなもんだしな。そう言う意味では魔法都市が羨ましいぜ」

「うん?」

「……魔法都市付近では、こうした素材を活かした料理が美味しい。科学都市はもっと健康に悪そうな料理があるけど、食べられるのはもっと後」


 町を開放すると、個人と開放した都市の二種類の報酬が与えられる。都市全体に与えられる報酬は、その町特有の恩恵だ。イベント自体は何度でも受けれるが、ボス名が“シャドウ~”や“~の影”となり、都市への報酬はない。

 都市の発展はプレイヤーが受けたクエストやイベントに対応しており、科学都市の料理が発展するのは南部のとある街と施設の開発が必要とのこと。ちなみにNPCから買える魔法側の携帯食と言えば干し肉やパンだが、科学側はクソ不味いDレーション(スナックバー)。どちらも都市の発展と供に味が向上するが現時点では食えた物ではないらしい。それが良いと言う強者もいるらしいが。


 その後は科学都市や魔法都市の違いなどの貴重な話を聞かせてもらったり、先の戦いについて話したりした。会話するにつれて緊張しなくなったけど、真正面から誉められるのって照れるね。顔が熱い。


「そういえば、ウルドはなんで、あんな所にいたんだ?」

「……確かに。この村は森の奥にある。普通に道なりに進んでいたら見つけられない」

「じ、実は魔法都市を目指していたはずが、気付けばこの村に……所謂迷子でして……」

「「魔法都市ぃ!?」」


 シチューをすくう手を止め、恥ずかしがりながら彼らの疑問に答えると予想外なところに食い付いた。え、何? そこ、驚くところ?


「いや、魔法都市って方向ちげーじゃねぇか!」

「……ここ、科学都市の南側」

「え……ぇえ!?」


 西門を出て反時計回りに外壁を伝っても南門まで3km少々。しばらく西に向かってから迷子になり、恐らく森の中では蛇行しつつ進んだので実際はもっと長い距離を歩いただろう。せいぜい少しズレている程度、と考えていただけに驚きを隠せない。


「にしても、そっかぁー。ウルドは【魔法工学】志望か」

「……魔法都市行きグループには入らなかったの?」

「気付いたら置いていかれてました……」


 哀れみの視線を向ける二人。僕のせいじゃない。ぼくじゃない。悪いのはカツアゲ野郎だ。


「……でも納得。さっきも部屋のカギ閉め忘れてたし」

「なるほど抜けてるな。そりゃ、迷子にも置き去りにも合うわ」


 えぇ、お陰で風呂場では危うく男としての何かを無くしかけました。

 僕を弄ったあと、何やら考え始める二人。


「二人は科学都市でプレイするんですよね?」

「……もち」

「その為に解放イベントに挑んだからな。う~ん、しかしウルドが科学側だと良かったんだが……」

「……面倒なことにならないと良いけど」

「やっぱり迷惑でしたか……?」

「いや、ウルド“が”迷惑ではなく、ウルド“に”迷惑をかけそうでな」


 先程からどうも困惑している二人。リュウタが何か言いづらそうにしていた時、僕らのテーブルに近付く人がいた。


「すまん、遅れた」

「おー、遅かったな」


 メガネ君だった。


「村長の話が長くってな。あれ聞かないとお礼、くれないから」

「……おつ」


 個人やグループに対して与えられる報酬は村長直々に渡される為、こうして代表が会いに行く必要がある。メガネ君は村長に合い、すぐにここに来たようだ。お疲れ様です。


「あ、そういえば、こいつの名前知らなかったよな。こいつは──」

「ショウ。両手剣だ。よろしくな」

「う、ウルドです……。よろしく、お願い、します……」


 リュウタの言葉をショウが継ぐ。少し慣れたリュウタとマキナがいるとはいえ、初対面の人が三人いると緊張してしまい、少しどもってしまった。恥ずかしい。

 ショウは僕の左斜め前、リュウタの隣に座る。男と(アバターは)女で分かれて座る形になった。マキナはこれを考慮して隣に座ったのだろうか?少しマキナ株が上昇した。


「にしてもイベントボスの経験値ってすごいな。さっき確認したらキャラレベルが3つも上がってたぞ」

「まじで!?」


 キャラレベルが上がってもステータスとしては大差ないが、スキル枠の増加がある。結構大事なのだ。急いで確認するリュウタ達。僕もみてみる。


「うっわマジだ」

「……私たちが低レベだったにしても多い」

「あ、あの~」


 思わぬ副産物に喜ぶ二人。十ほどレベル上げをしてから挑んだ為、倒してもレベルは上がらないだろうと思っていたそうな。

 僕はと言えばなんだけど……。


「ん?どうかしたか?」

「い、いえ……なんか、レベルが二十も上がってるんですが……」


 そう。今の僕のキャラレベルは二八。他に戦闘をしていないので、レベル1から一気に上がったことになる。たった一回の戦闘で二七って……。


「あー、そりゃあれだな。格上との戦闘ってのもあるが、他の連中が一度イベントから抜けたからだな」

「イベントから抜ける度に経験値が半分になるけど、減った分の半分。つまり四分の一は抜けてなかった人に分配されるんだ」

「……私達が二五人だから六人分。ウルドに入った」


 リュウタの説明にショウとマキナが補足を入れる。ま、マジか……。レベルが上がる度にどれかステータスを一つ増やせるので、僕は初日で二十も上げることができる。極振りしても二つスキル取れば追い付かれるけどね。あと、スキルが二つ多く持てる。空きスキル枠は十個。

 驚く僕をニコニコと見ていたショウが、少し真面目な顔をする。僕も気を引き締める。


「さて、ウルドのお礼なんだが」

「あ、僕は、別に無くても…………」

「そういう訳にもいかねぇだろ」


 一気にレベルが上がり、アイテムもお金も得たので十分だと思う。が、彼らは『自分たちが何かした訳ではない』とのことで、僕の申し出は却下された。

 しかし、アイテムも金も、道案内も、村を解放した報酬やワープゲートによって満たされてしまった。ぶっちゃけ、やってもらう事などないのである。

 三人が提案し、僕が断る。十分程繰返し、一つ貸しにする事で合意した。


「すみません、折角考えて頂いたのに…………」

「しょーがなぇよ。初日だから出来る事少ねぇし」

「……いつか恩は返す」

「それに“こっち”にいるんだから、お互いに貸し借りするだろうし。その時にでも返して貰うよ」


 リュウタ、マキナ、ショウの順で励ましの言葉を貰う。――――って“こっち”?


「あぁ、ショウ、こいつ魔法都市希望者だぞ」

「……置き去りにされて、迷子になって、イベントボスに挑むような、おっちょこちょいだけど」

「えっ!?」


 誤解しているショウに、リュウタとマキナが僕の代わりに説明をしてくれる。


「お、おい、俺達以外の人に言ってないだろうな?」

「大丈夫だ。と言うより今さっき知った」

「なら良いが。ウルドも、あまり言いふらすなよ?」

「えっ、あ、はい」


 声を潜めるショウ。

 ふむ。彼らの様子からして【魔法工学】希望だと何か不具合があるようだ。それも損をするのは僕らしい。


「あの、【魔法工学】希望だと話すと、何かあるんです……か?」


 ショウが答える。


「仲間の中には魔法都市を目の敵にしてる奴もいてな。迂闊に話すと目をつけられるぞ」

「目の敵……ですか? なんで、また」


 三人は一度顔を見合せる。そして三人を代表してショウが口を開いた。





「俺達は魔法都市と戦争をする」





次回はなんだかなーって思う人もいると思います。また、今後は月末位に上げると思います。

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