4話 初めてのログイン その3
「……どうしよう」
僕は今、セントラルビルの窓に映る自身のアバターを見ていた。
お尻まであるお姫様カット。ちょうどキャラ設定のときの髪の束と同じくらいの長さ。横の髪は顎くらいまでの長さに切り揃えられている。顔は補正が入って女の子らしくなってた。僕とも妹達とも違っていて、変な感じ。
実は中学までこの髪形だった。当時は疑問に思わなかったけど、そりゃ、いじめられる。今はバッサリ切って肩くらいまでになったけどね。
だから、中学の頃に戻ったみたいで、性別以外に特に違和感を感じない。
「ま、選択肢なんてあってないようなもんか」
アバターはパソコン内の身体情報を元に作られており、性別の設定も含まれる。変更するにはもう一度更新しなくてはならない。胸はプレート着ていれば隠せるし、そもそも“こういう事”は普段の“英才教育”で慣れている。女装なんて日常茶飯事だ。
「プラグは建ってたし、気付かない僕の自己責任だよね……」
普段は30分程の身体情報の更新に一時間かかったり、起きたら隣に妹達が寝てたり、ログインしてからの他人の反応とか。
「よし、忘れよう」
このアバターは男だ。誰が何と言おうと。
とりあえず、当初の目的を達成しよう。
僕は装備を元に戻し、西門にワープしてからフィールドに出た。
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はい、迷いました。
道なりに行くと村に着くので、回避するために森に入ったら薬草を見つけ、採取していたら気づけば迷子です。【地図製作】でも取っておけば良かった。その代わり薬草は沢山手に入ったから、【調薬】スキルでも取ろうかな?
そういえば、何一つスキルを取ってなかった。とりあえず【工学】と【速度上昇】を取っておく。【速度上昇】は上昇率が少ないが、移動だけでなく、『腕を振る』などの動作の速度も上昇させるらしいので、取っておいて損はないだろう。
さて、速度も上がったところで、この森から脱出しよう。
喉が渇いた。すっかり忘れていたが、喉が渇いていた。2000m全力ダッシュした後だった。
「うぅ……全額傷薬とかするんじゃなかったぁ」
空腹時とか考慮してなかった。どうやら置いていかれて動揺していたようだ。
「モンスターにも会わないから、死ねないし、死に戻りしても何も買えないし……」
依頼も達成できないし、良いとこなしだ。
しかし、一匹も会わないなんて、何かあるんだろうか?
と、考えていたとき、
──────ィン、キィン
「……ん?」
どこからか金属がなる音が聞こえる。
「戦闘音……?ということは近くにプレイヤーがいる…………?」
つまり────迷子じゃなくなる?
「き、キターーーーー!!」
フィールドに出てから一時間、ようやく流れが変わってきた。待ってましたこの時を!!
音のする方へ進む。
────ィィン、ガッ
────ぁんだこの……
────かこまれ……きを…けろ!
音が大きくなっている。順調に近づいているが、なんか嫌な予感しかしない。
──み………ぁぁあああ!!よくも……やがったな…………野郎がぁぁああ!!
──まて、………!はやま……な!!
最初は駆け足の速さだったが、今は歩き程度になっていた。近寄りたくない。
しばらくして、視界が開けた。
そこには2m越えの狼と、十数頭の野良犬に囲まれている3人のプレイヤーがいた。
──ポーン。一定区域に入りました。これより、村解放イベントを開始します。
アナウンスが流れた途端、狼達が一斉にこちらに目を向ける。それにつられてプレイヤー達も振り返る。
どうやら初戦闘はレイドボスのようです。
次回戦闘予定