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3話 初めてのログイン その2

「はぁ、はぁ……」


 どれくらい経っただろうか。崩れ落ちそうになる膝を根性で堪え、空を仰ぐ。

 走っているとき、何かに引っ張られるような妙な違和感があり、それが気になってスタミナを無駄に消費した。この体に慣れていないせいか?


 息が苦しい。喉が渇いた。辺りを見渡すと周囲に人影はなく、四方を金属の壁に囲まれていた。どうやら工場区に来てしまったようだ。

 この街は4つの区域に分かれている。

 2つの大通りの交点に“魔法都市”で言うところの“教会”と“冒険者ギルド”の役割を担う“セントラルビル”があり、そこから同心円状に、様々な店がある“経済区”、ホームやギルドなどの拠点を持つことのできる“居住区”、研究所やラボなどがある“開発区”、そして現在地の生産やメンテナンスを行う“工場区”である。大部分を開発区と工場区が占めており、街の外周を見上げるほどの壁が取り囲んでいる。これは科学都市に結界がないからである(設定)。


 しかしまあ、我ながらよく来たものだ。科学都市は直径4km程と無意味に広いので2kmか。壁際ではないのでもっと短いと思うが、その距離を全力疾走して息切れだけなのは流石ゲームってところか。


「はぁぁ……さて、門〈ゲート〉も近いし、ワープして戻るか」


 大通りから行ける、東西南北それぞれの門にワープ装置があり、セントラルビルと各区域、訪れた村に繋がっているという。ワープ装置あるならもっと発展しろよって突っ込んじゃダメなんだろう。ゲームだもん。


 ───pipipi、pipipi


 電話を知らせる電子音が鳴る。画面が開き、相手の名前が表示される。啓太だ。

 右手で親指と小指を伸ばして“電話”の形を作り耳にあてる。画面のボタンを押すか音声操作でもいいのだが、味気ないから好きじゃない。


「はい。もしもし」

『よお、オレオレ、啓太だけどさ』

「やっほ。どうかした?」

『ん?お前声が……いや、何でもない。それで今何処にいるんだ?見当たらないんだが……』


 そういえば伝えてなかったっけ。


「実は今、科学都市にいるんだよね」

『はあ?何でまた……って【魔法工学】か!』

「そそ。やっぱり専用機は自分で造りたいじゃん?」

『そりゃそうだが、魔法都市までどうやって行くつもりだ?』

「【魔法工学】目的の人も多そうだし、適当にパーティー組むつもり」


 途中の村や町を無視するにしても、必ずフィールドボスを倒す必要があるため、ソロでの移動は困難だ。


『コミュ障のお前が野良パーティーぃ?』

「な、なんだよぅ……」


 啓太は呆れたように聞き返す。

 そんな声を出されるとなんか不安になるだろ、って誰がコミュ障だ誰が。


『人とまともに顔を合わせて話せられないのに、野良パーティーでやっていける訳ないだろ』

「なっなにおう!今日は二人も“会話”したんだぞ!それに僕は知らない他人と話すのがちょっと苦手なだけだい!!」

『ほー、それはすごいなー』


 なんか馬鹿にされた気分。いや、馬鹿にされてるな。ムカつく。


『なら“王都”まで来いよ。あそこまでなら初期ステータスでも行けるし、魔法都市まで案内してやるから。ま、来れればの話だがな』

「っ!?馬鹿にしてぇ~!!もう怒った!!絶対に魔法都市にたどり着いてやる!」

『遅くなるようなら迎えに行ってやるよ』


 どこまで馬鹿にすれば気がすむんだ、この男は。


『こっちはお迎え用のグループ組まれてるし、そっちも同じように魔法都市行きのグループあるんじゃね?多分3日もあれば着くだろ』

「言われなくても分かってるよ!待ってろ、すぐに行ってやる!!」

『おう。出来るだけ早く来いよ』


 それだけ言うと挨拶もなしに電話を切られた。なんなんだ、あいつは。


 とりあえずセントラルビルに戻ろう。




 はい、戻ってきましたセントラル。

 王都に行く、ということで小塚い稼ぎにモンスターの討伐依頼を幾つか受けました。

 それでビルから出たら人っ子一人いやしません。完全に置いていかれた……。


 男なら、有言実行。例え買い言葉でも。

 ということでソロでも向かいます魔法都市。まずは所持金、全部傷薬にした。初期装備は壊れないし、魔法都市まで戦闘しかしないし。回復手段それしかないし。因みに1500Gで30個になりました。一個50G。


 買い物も終え、王都のある西側の門に移動しようとしたときだった。


「お前さん、“科学”志望か?」

「ふぁい!?」


 変な声が出た。決して油断してた訳じゃない。決して。


「いや、すまんな。驚かせるつもりはなかった。ただ、未だに“ここ”にいるから興味が沸いてな。他のプレイヤーはもう出発しただろう?」

「え、は、はい……」


 振り替えると、まさにオヤジ!って感じの男がいた。加齢臭がする方ではなく、ヤの付く自由業の方の。


「みんな出てってしもうたなぁ、寂しいなぁっておもっとったら、お前さんが見えてな。つい……」

「い、いえ……」


 逃げたい。今すぐ走り出したい。けど、背を向けた瞬間、くびり殺されそうだ。逃げたい。


「そう固くなるな。捕って食ったりはせんよ」


 なら頬の傷痕なでるの止めてもらえませんかね?


「むぅ。震えるほど怖がらんでも……」

「うぅ……」


 どうする?どうすればいい?このおっさんは僕が科学都市に住むと思ったから話しかけてきたんだよな?なら──


「あ、あの……!」

「なんだ?どうかしたか?」

「ぼ、僕!魔法都市に住みます!」

「お、おう。そうか……」

「そう、なんです……」

「……置いてかれたか?」

「………はい」

「そうかー」

「……」


 なにこれ気まずい。


「うーむ。送ってやりたいが、何日も拘束されるのはちょっとな……」

「い、いえ大丈夫です一人で行けます行きたいです」

「そ、そうか?なら良いが……」


 何日も猛獣と一緒とか、どんな罰ゲームだ。


「村とかは避けて、フィールドボスだけ倒して帰って来るのだろう?何か作って欲しかったら、言ってくれれば作ってやろう」


 王都は西側にあり、その向こうに魔法都市がある。つまり、王都の東に科学都市、西に魔法都市がある。ただし、間にいくつか村があり、それらを回避しないと強制的に解放イベントの戦闘に巻き込まれたりする。なので、ただ西を目指していると無駄な戦闘をするはめになる。目的は魔法都市だからね。余計なリスクは負いたくない。

 ただし、村が解放されないので、途中で宿を取れず、一旦科学都市に帰る必要がある。それでも、一度倒してしまえば次からは戦わずに通れるので、村を解放するより断然早い。しかし──


「い、いいんですか?魔法都市に移ったら、もう会わないと思いますけど……?」

「袖振り合うも多生の縁と言うだろう?それにスキル上げになるし、こんな“可愛い嬢ちゃん”に使って貰えるなら、作り甲斐があるってもんよ!」

「……ん?“嬢ちゃん”?」

「あ、そうそう。いくらVRといえど、そんな格好はいただけないな。目の毒だ」

「ち、ちょっと待って下さい僕おとこ──」

「いやいや、確かにお前さんの体は貧相よ?しかし、自分を男だなんて言っちゃダメだ。お前さんは自分に魅力がないと思ってるかも知れんが、男の中にはお前さん位のが良いって奴がいるんだからな?あと、僕って言うのも直せよ?貧乳僕っ子とかエロゲかよ、たまんねぇなおい!!あ、勿論そういう輩がいるってだけで、おじちゃんは違うからな?セクハラじゃないからな?えーと、それじゃあな、またな!ロリやっほい!」


 一瞬本音が混じったな中身変態かよ、こいつ。って──


「ま、待って──ぷぎゃ!」


 脚がもつれて転けた。ペチンッと良い音がした。


「……いたい」


 手をついて起き上がる──?なんだこの黒いの?

 視界の大部分が黒っぽい何かで埋まっている。試しに引っ張ってみる。


「……いたい」


 どうやら頭部と繋がっているらしい。帽子だろう。あのオヤジ、去り際にプレゼントとはやるな。

 とりあえず起き上がって、砂を落とす──プニ。

 …………ぷに?

 胸部に小さいながらも確かな膨らみを感じる。転けた拍子にコブが出来たんだろう。2つ。


 いや、無理があるか。素直に認めよう。




 僕のアバターが女の子になってました。

 恐らく妹達のせいで。


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