1話 話を聞く
お約束回
駆け足で進みます
「コンフリクト・オンラインってしってっか?」
終業式も終わり、帰ろうと席を立ったところで話しかけられた。
春前啓太。以前同じゲートをプレイしていたことが切っ掛けで仲良くなった。
「いや、しらない。オススメ?」
「オススメだが、まだ発売してないぞ。来週発売で今日は話だけでもって」
面白そうなゲームを見つけるとこうして情報交換という勧誘を行う。ちなみに、お互いに勧誘が失敗したことがない。
「βテストやってたんだけど、ジャンルはMMORPG」
「ってことはVRかぁ」
VR技術が実現し、普及してからウン十年経った今でもテレビゲームなる、スクリーンを用いたゲームの人気は根強い。特に家庭用ゲームにはその傾向が強く、一人プレイ用は大体テレビゲームだ。VRは高い自由度と他者とのコミュニケーションが売りなのであって、ストーリー展開に支障がでないように行動が制限される一人用RPGではVRにする意味がない。高度なAIを乗せるほど容量にも余裕が無いのも理由の一つだ。まあ、戦闘系とかのストーリーに支障のない物はVRだし。個人的にはリアルになったら二次絵やドット絵の良さがなくなるのが一番嫌だな。
「とりあえず、立ち話もなんだし、座って詳しい話し聞かせてくれないかな?」
「お、ならマ○クよろうぜ!今回のオモチャには結構期待してるんだ」
「・・・・・・貰えるもんなの?子供限定じゃないの?」
僕の家に近い、啓太の家から遠い位置にあるハンバーガー屋さんに来た。僕に席の確保を頼み、自身は二人分の注文をしに行く。人がされて嬉しいことをよく分かっている。だがら、モテるし友達も多い。まあ、オモチャ狙いだから今日は僕が注文しに行っても意味ないけどね。ポテトかジュースを奢ろう。
二階にちょうどボックス席が空いていたので、そこに座る。
―――チラッ、チラッと視線を感じる。
一人で座る僕を気にしているのだろう。いつものことだ。好意的な視線ではない。僕はイケメンではないのだ。むしろ、その逆の意味が込められているだろう。
中学の頃、本ばかり読んでいて脆弱だった僕は“女の子みたい”と馬鹿にされ続けてきた。男子だけでない。女子にもだ。休み時間になると僕に群がり、髪を乱し、痛くない程度に身体に触り、のしかかる。それらの行為は女子によるもので、男子は大きな荷物を持っていると取り上げたり、ことあるごとに髪を乱された。彼らはバレない方法を熟知していた。
そんな彼らを見返そうと筋トレを始めた。身長も伸び、筋肉も付いて以前とは別人のようだ。長かった髪もバッサリ切った。髪を切った翌日の皆の驚愕に歪む顔は今でも忘れられない。
その後、男として自信のついた僕は皆と和解し、友達も出来た。結構いい奴ばっかりだった。
昔とは違い、今の僕は半袖からでている筋肉質な腕と、常に顎を引き睨み付けている強面な顔をしている。つまり、ここにいる人達は僕に畏怖しているのである。事実、そちらに視線をやればサッと慌てて顔を背ける。――やべぇ、目が合った、と呟く声が聞こえる。ふふん、これが今の僕だ。参ったか!
「その辺にしとけよ。目立ってんぞ」
「あ、おかえり」
トレイをもって啓太が向かいに座る。確かに意味もなく怖がらせるのは良くない。反省だ。
「オモチャ貰えた?」
「おう!」
嬉しそうに見せて来る。日曜の朝に放送している戦隊物のロボットをデフォルメしているようだ。バネ式らしく、ボタンを押すとロケット型の部品が飛び出す。子供には電磁式の飛び道具より、押し込む動作が必要なバネ式のほうが人気らしい。
「んで、コンフリクト・オンラインって、どんなゲーム?」
「ああ、そうだったそうだった」
自分のコーラとポテトを取りつつ、ハンバーガーそっちのけでロケット飛ばす啓太に聞く。僕はモ○派なのでこれだけだ。
「簡単に言うと、モンスター倒して領土奪い返す、スキル制のゲーム」
「領土を奪い返す?」
突如襲ってきた魔物から街を守り、分断された町を解放していくゲームらしく、βテストでは人間国までだったが、製品版では他の国にも行けるらしい。また、解放した町によって、始まりの町は強化され、新しい施設ができるそうな。そして、オススメの理由が、
「アニメとか漫画とかを再現できる」
なんでもスキルの組み合わせで出来ることが増えるという。魔法使いの中には【軌道補正】で【火炎魔法】の軌道をぐにゃんぐにゃん曲げたり、速度強化系スキルを取りまくって一瞬で背後にまわるアサシンとかいたそうな。でも、
「んー、それだけなら他のゲームでも出来るしなー」
そう、それだけならよくある。なにもこのゲームだけではないのだ。啓太も知っているはずだ。
「そうだな。“技だけ”ならその通りだ」
「“技だけ”なら?」
「――このゲーム最大の魅力は生産にある」
啓太はニヤリと笑いながら言う。
「このゲームでは好きなようにデザインできる」
「ん?普通じゃない?」
「デザインを変えるんじゃない。デザインをするんだ」
スキルによる製作と完全プレイヤーメイドによる製作があるらしく、前者は通常のゲームと同じく、一部のデザインの変更しかできないし、それによってステータスも変化しない。それに対して後者は全く新しいデザインにできる。ただし、性能はAIがデザインや材料、プレイヤーのステータス等から決めるので腕がないと出来ないらしい。
「そして、βテストではロボットの一歩出前まで完成しているのだよ」
フッフッフッと怪しげに笑う啓太。それが本当なら夢が広がるな。
「なるほどなー。巨大ロボは男の夢だものな」
「お、興味出たか?」
「うん。ちょっちね。僕も乗りたいし」
「あー、お前なら似合うだろうな。うん」
分かっているじゃないか。“漢”の僕にはロボットがピッタリだ。某汎用人型決戦兵器の指令の如く、両手を組んでその上に顎を乗せてニヤリと笑う。
「それで、どうすればロボットを作れるようになるの?」
「あ、ああ。始めに科学都市で【工学】スキルを取得して、魔法都市に移って【魔法工学】にするんだよ」
なにやら焦ったように返す啓太。そんなに怖かったのだろうか?しかし、結構面倒そうだな・・・・・・って、科学都市?
「え、なにそれ?科学都市?科学があるなら、そんな面倒な手順要らなくない?」
科学で造ればいいじゃない。
「いや、科学都市だけではどうにも大した物は造れないっぽいんだわ」
それから啓太はβ時代について話してくれた。
要約すると、不運が重なった結果、科学都市は機能しなくなったそうな。それにしても、科学、科学都市かぁ。
「うん。わかった。やるよ、コンフリクト・オンライン」
「マジで!?よっしゃ!」
「そんなに喜ばなくても・・・・・・」
殺されなくて良かった~、と呟いているが、そんなに怖いのだろうか?少し凹む。ゴソゴソと鞄を漁って、「ほい」と渡される。コンフリクト・オンラインのソフトだった。
「え、なんでもってんの!?発売来週でしょ!?っていうより貰えないよ!!」
「いや、科学側で兄貴もプレイしてたけど、心折れてもう見たくないって。これ、β特典の製品版。勿体ないからやるよ」
心が折れたってどんな状況だったんだろう。
「んー、それじゃあ、今度お返しさせてね?」
「わかった。まあ、俺はお前と一緒に遊べるだけで十分だし、気にすんなよ」
よくもまあ、さらっと言ったものである。ちょっと真似できないな。
そのあとは、だらだらとしてから帰った。送ろうか、と聞いたが逆に送り返されそうになった。なにか巻き込まれないか心配ならしい。確かに、絡まれることは多いが、大抵は睨めば恐怖で一瞬固まるから、そのうちに逃げられる。怖くて泣きそうになるけども。
さて、久しぶりのVRだし身体情報の更新とかやっとくか。