0話 プロローグに入る前に
あらすじの内容と同じです。
―――SFと魔法、最強はどちらか。
いつだったか、そんな感じの古い本を読んだことがある。神話から現代書籍まで、幅広い世代から代表的な本を選出し検証した、これで決着を着ける!!と前書きには記されていた。
僕は夢中になって読み進めた。当時の僕からすると斬新な切り口からの検証は刺激的だった。考えもしなかった運用方法にドキドキした。“彼方”が最強でもいいかも、と以前は決して認めなかったことも思った。
引き分け
300ページ程の検証、その結論が“互角”であるらしい。
がっかりだ。
理由はどちらも最終的に同じようなことが出来るから。
本当にがっかりだ。
前書きでは自信満々な癖に、『優れた技術は魔法と変わらない』なんて昔から言われている言葉を持ち出した。結論を出すのを怖じ気付いたのだ、この作者は。
もちろん納得なんてできない。宝石みたいに大切だったその本は、読む前の期待を裏切られ、読んでいるときの興奮から覚めた僕には唯の石ころにしか思えなかった。もう何処に仕舞ったのかも思い出せない。
そして、その“決着”が着いたのはそれから何年も後、僕の知らない所であった。
《コンフリクト・オンライン》
βテストが終了し、来週発売されるVRMMOだ。
基本的にスキル制で、キャラレベルは各種ステータスに雀の涙程度の補正と10レベ毎に一つスキル枠が増えるだけ。初期スキル枠は10個なので100レベで倍の20個になる。
スキルレベルが5つ上がるとスキルポイント“SP”が一つ貰える。SPをいくつか消費して新しいスキルを一つ覚える。また、一定レベルで必殺技である〈アーツ〉を覚える。
つまりキャラレベル、スキルレベルが大きい程に多くの、新しいスキルを着けることが出来る。
システムとしてはあまり珍しくもないこのゲームの売りは“科学と魔法の共存”である。
そう、異なる世界観同士を比較するしかなかったあの本とは違い、同じ世界で同じ人間同士を同じ条件で比べられるのだ。そして、同じように様々な分野で優劣を競い合ったという。その結果は―――科学側の全敗。
そもそも科学側はあまり人気がなかったらしい。
と言うのも、プレイヤーは始めに科学都市と魔法都市のどちらに住むかを選ぶのだが、様々な種族を選択できる魔法側に対し、科学側は人間しか選べないのだ。科学の世界に亜人がいるのは、それはそれで違和感があるので当然の処置なのだろう。
また、戦闘面で魔法側より劣ることも理由の一つだ。科学側には魔法側のような【剣】や【槍】といった武器スキルが存在しない。全て平等に扱える。その代わり、スキル補正がない分、威力が若干下がり〈アーツ〉による決定打に欠ける。
しかし、これらは些細なことである。事実、総人口は魔法側よりも少ないとはいえ、種族に拘らない、香水よりも硝煙や油の匂い、シルクの肌触りより金属の重厚感を好むような漢どもが集まっていた。腕力が足りないなら強化スキルと装備で補えばいいじゃない、の考えである。
一番の問題は、その“生産”が全く使えなかったことである。
科学側と魔法側は共通の【武器製作】や【防具製作】などの生産系スキルに加え、各々に専用の生産スキルがある。科学専用スキルの一つ、多くの生産職プレイヤーが取った【工学】スキルである。
プレイヤー達は、ここから派生して機会工学やらロボット工学やらになってマイ巨大ロボットに乗ったり、ファイ○ルフュー○ョンとか、ハーハッハ人がゴミのようだ!!と光学兵器ぶっぱなしたりとか考えていた。
しかし、取ってはみたもののレベル上げの方法が分からない。スキル説明には「様々な製作に必要」とあるだけ。使い方が分からないからレベルが上がらない状態だった。ならば、と他のスキルも取って組み合わせてみようと闇雲に取得してもSPを消費しただけだった。
一週間の時間とSPを無駄にしたプレイヤー達は、なんらかのフラグが必要と判断し、とりあえずSP補充の意味も兼ねて【武器製作】などのスキルレベルを上げた。すると【武器製作】レベルが5に上がる頃に、なんと【工学】レベルも2になっていたのだ。つまり何か作れば自ずと【工学】のレベルも上がるのである。ついにレベル上げの方法が判明し喜ぶ反面、今までの努力は一体・・・・・・と多くのプレイヤーを 哀しませた。
そのうえ、さぁこれからだ!というときに、生産職プレイヤーは金欠に陥った。レベル上げで作ったは良いものの売れないのである。
【工学】スキルの研究、【製作】によるレベルアップが判明するまでの時間、合わせて10日の間に魔法側は科学側よりも強力な装備を作れるようになっていた。当然、装備によって強化するしかない科学側の戦闘職は、弱い科学側の装備なんて進んで買いたがらなかった。
そうなるとNPCに売るしかないのだが、定価価格の半額で買い叩かれる。しかも、レベル上げバブルによって材料となるアイテムの価額は高騰し、プレイヤー経由でアイテムを得ようとすると、お金はほとんど消えてしまう。
なら自分で取りに行こうとすると、強化スキルをろくに取っていない生産職ではモンスターに襲われて、長い時間かけて採取しても大した数にはならない。戦闘職のプレイヤーに護衛を頼もうにも、彼らに渡す報酬がない。金もないし、まさか作った装備を渡すわけにもいかない。そして、採取している間に魔法側はさらに強化な装備を作るという、負のスパイラルに陥った。
そのうち、一回だけ行使できる所属変更権で魔法側に就くプレイヤーが出てきた。戦闘職は勿論、それに伴い顧客の減った生産職である。少しずつ人が減っていく。
しかし、その流れを絶つ、ある出来事が起きた。
なんと【工学】がレベル10になったとき、【武器製作】で火縄銃らしき物を造れたという。コスパも効率も最悪な武器だったが、ついに科学の武器が生まれたのだ。これには街中が歓喜に沸いた。やっと、やっと報われるのか、と。一発撃つのに弓以上のお金が掛かるのにも関わらず、戦闘職のプレイヤー達は競って火縄銃と火薬と玉を買い求めた。この銃から科学都市は始まるのだ。ここからだ、と皆が思った。
そんなとき、魔法都市に移った生産職プレイヤーから、ある情報が入った。【魔法学】と【工学】をスキル統合すると、【魔法工学】というスキルになったという。
ある一定の条件を満たすと、二つのスキルを合わせて新しいスキルを創ることが出来る。これをスキル統合と呼ぶ。所属変更をすると、元いた所のスキルを新しく覚えられない。勿論、今覚えているスキルの派生先もだ。レベルは上がるが、進化はしない。代わりに、二つのスキルを覚えられ、新しいスキルの創造に当たる統合は出来る。
しかし、これだけなら大した話ではない。ふーん、で済む程度だ。なんたって今は火縄ひぃ~ば~だ。お祭りだ。重要なのはそのスキルで製作した武器――魔法銃。
火縄銃以上の威力を一定のMP消費で与える。しかも、一発あたりのMP回復薬のほうが火縄銃より安い。
このとき、科学側プレイヤーは目が覚めた。自分達は一体何を喜んでいたのか。たかが火縄銃で。
大半のプレイヤーが魔法都市に移り、すっかり寂しくなった科学都市だが、それでも残り続けた人達がいた。彼らはまだ信じていた。いつか自分達で“夢”を叶えるんだ、と。
そんな彼らに新たな情報が入る。――金属ゴーレムの作製に成功した。【魔法工学】のレベルが上がれば巨大化と、人の搭乗も可能になるのではないか――
このとき、ついに心が折れた。火縄銃しか作れない科学側に、いくら居ても無駄だ、と。
彼らが去った後には、銃を愛する者達と一部の人々だけが残った。その人々は改善を要求したが、運営は【工学】で拳銃を作れるようにしただけだった。
そうして、βテストは終了した。
―――この話を僕が聞くのは夏休み直前、終業式の日。