目的
しばらく車を走らせていると山が見え麓には人がいた痕跡がある。
「おそらく集落があると思われます。エマ今必ず行かなければいけないというわけではありませんが行きますか?」
「街中にある集落は見たことあるけどこういう集落は初めて見るな」
近づくと街側には防壁を山側には堀を設置している。何か意味があるのだろうか?せっかくなので行ってみようと思うが。
「行ってみよう」
車で近づき集落に近づく。ここも門番がいた。だが、特に身体検査などはされずにこの集落についての説明をされた。
門番の男は、
「この集落について説明させていただきます。まず名前を教えてください。それとこの集落は入る時も出る時も確認が必要です。この集落にバレないように潜む輩がいたら困るのでご了承ください。そして午後10時から午前6時までは許可がなければ外出は出来ません。隠れて出ようとしても我々門番が交代しながら巡回するのでやめてください」
警告ではあるが絶対にこちら側が規則を守るために丁寧に教えてくれているようにも思える。
入ってみると今まで行ったことのある集落に景色は近い。しかし少し静かだ。というか、落ち着いた雰囲気って感じがする。正直色々あって精神が疲弊していた俺には嬉しい限りだ。
お金を節約するため買い物はせずに散歩をする様に歩く。周りの音や自身の足音が頭に響く。人が少ないのかそれとも子供が少なく大きな声が飛びかわない。けれど、別に暗い雰囲気だというわけではない。むしろ大変そうにしながらも力を合わせていて雰囲気は今までで一番よく落ち着いている。
少し暗くなってくる。エマは荷物をまとめて
「そろそろここを出発しましょう」
そう、提案してくる。だが俺は、「今日はここの宿屋に泊まろうと思う」
お金こそあまり余裕はないがちゃんと休めるところで今日は休みたかった。
山奥の宿から見える朝の景色はやはり素晴らしい。いつまでも見入るように見ていたい気持ちもあるが悩みが晴れていないからかすぐに感動は薄れてしまう。
今はもう翔馬のことを引きずっているわけではない。
…嘘だ少しは引きずっている。だがあんな思いをしても俺は旅を辞めようとは思っていないそれがすごく不思議だった。旅が好きだからってだけでは説明できない。もう俺に残されたものはないしエマが俺の自殺を止めると言ってもバレずにやる方法はいくつもある。それをやらずに俺は旅を選んだ。
同じ疑問が頭をループしている。すると部屋のドアをノックしてここの宿主の老婆が姿を表す。
「朝食をお持ちしました」
「え?ありがとうございます」
こんな世界になっても食事を出してくれるのか。今まではこんな宿はなかったが…いや、確かに他よりも高い宿代だった。それにしても朝食を入れたら全然安い方だ。
朝食は漬物とおにぎり二つという簡単なものだったが凄く満足感があった。
老婆は皿などを片付けようとするが少し手を止めて急に聞いてくる。
「お客様は悩み事があるのですか?」
少し俺も驚いて体が一瞬止まってしまった。エマも老婆に注目している。
「はい、ですが大丈夫です」
「人に言ってみたら案外納得する理由が見つかるかもしれませんよ」
何か確信した様な目を見せながら老婆は話を続ける。確かに、少しは話してもいいかもしれない。面倒ごとを避けるためにもあの集落のことやエマのことは極力隠して話す。
「ふむ、じゃあお客様はこの度で何を得たいのですか?」
「いや、それがわからなくて困っているんだが…」
「わからない…なら案外他の人は持っていた様な当たり前の事などで気付けないのでは?例えば抽象的ですがシンプルに幸せになりたいや、安全を確保したいとかはどうでしょう?」
「幸せになりたい……確かになりたいが別に豪邸が欲しいとか他よりも大きな幸せを得たいとは思ってないし…」
「別に幸せになることは裕福になることではないでしょう。例えばお客様は今精神的にも疲れています。他の人よりも不幸な位置からスタートしているのでいきなりそんな裕福な願いは抱けないでしょう」
「つまりまずは当たり前を得る……確かに俺は今人生で一番不幸な状態、いわば人生のマイナスになる位置にいる。だから、ゼロへ登っていくところからってことか」
確かにそう言われるとかなり納得できた。俺の人生は今は下り坂、つまりマイナスだ。だからこの度でまずはゼロに向かっていくというわけだ。
少しだらけてから出発するのも手だったが今日はすぐに集落を出る。門番に挨拶をして名前を確認。その後、車で再び次の集落へ走り始める。
そして次の集落で俺は人生が変わる出会いをする。




