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さて、どうしたものか。
入学式が終わり、現在は異世界学園もの恒例のレベル測定中である。
私の悩みの種は勿論、ダニエラ・エヴァンズだ。ちらっと横目で様子を伺うと、どうやら今も攻略対象と談笑中のようだった。
彼女は既に攻略対象の幼馴染として関係を構築していた。
これは紛れもない事実であり、なにより私が「詰み」であることの証拠でもある。
そして恐らく私と同じ転生者であることは間違いない。言動や恰好などがあまりにも主人公を模しすぎている。
まさか幼少期から関係を築くとは。私にはなかった発想だ。
彼女が攻略に勤しんでいる間、私は何をしていたのか。答えは鍛錬である。あまりにも脳筋すぎた。
「次、ダニエラ・エヴァンズ」
どうやらダニエラの番が来たようだ。
彼女は水晶に向かってそっと手をかざした。
「レベル30」
辺りにどよめきが広がる。
「レベル30だって?下手したら王国騎士団に入れるんじゃないか…」
「この歳で30か…末恐ろしいな」
レベル30は中ボスのドラゴンが倒せるほどのレベルである。育成傾向にもよるが、間違いなくクラスメイトよりは強いだろう。
ちなみにゲーム内での彼女はレベル15だった。まさか攻略だけでなく鍛錬もしていたとは。いよいよ本当に勝てるところがなくなってきたな…。
「次、アンジェリーナ・クラークス」
「はい」
そうしているうちにいつの間にか私の番である。変に目をつけられても困るからあまり目立たない結果になると嬉しいのだが。
恐る恐る水晶に手をかざした。
「レ…レベル、80」
どよめきも通り越して辺りが静寂に包まれてしまった。
しまった、レベル上げしすぎた。
ちなみにレベル80はラスボスの魔王が倒せるぐらいのレベルである。
いそいそと自分の席に戻る。それにしても周りの視線が痛い。
「レベル80だって…?何かの故障じゃないのか…?」
「レベル80なんて聞いたことがないぞ」
この反応である。
さて、ダニエラの反応は____
「…」
先ほどまでの愛嬌たっぷりの顔から打って変わり、これまでに見たことがないレベルでのドン引きである。転生してからというもの引かれることが多いので、こちらとしても段々と見慣れてきた。心外だが。
「流石です、アンジェリーナ様」
ふと聞き慣れた声が聞こえる。黒髪に翠色の瞳、気怠そうな視線はいつもと変わらない。変わったのは短髪になったという点だけである。
「アンディ…」
アンディもとい、私の侍女であるリンディ・ベネットは小馬鹿にしたように笑った。彼女は今男装中である。
「幼い頃からあれだけ鍛錬してきたのですから当たり前ですね、今や僕をも超越した存在ですから」
「そんなことないよ、リン…アンディには最近たまに勝てるようになってきただけで…」
「剣術だけだったらまだしも、魔術も同等のレベルだから問題なのです。魔王にでもなられるおつもりですか?」
「はは…」
魔王。それは古くから人々に恐れられてきた存在である。モンスターを使役しているのも彼であり、人間界を滅ぼそうとしているらしい。
実は作中では、そんな魔王とも結ばれることができる。隠しエンディングだが。主人公が聖女としての使命を全うするために魔王を倒しに向かう。その魔王との戦闘シーンで「ある技」を使うことで、魔王が浄化され世界に平和ももたらされ、と良いことづくめのエンディングである。
ちなみに、普通に倒すこともできる。かなりのレベルが必要だが、今の私なら倒せるだろう。
「…攻略される前に倒すのもありだな」
「?」
ぼそぼそと呟く私を見てアンディが不思議そうに首を傾げた。
そうだ、アンディに気を取られ忘れていた。いまはラスボスの魔王だのどうのこうの言っている場合ではない。問題はダニエラである。彼女は一体どこまで関係値を築き上げているのだろうか。果たして出遅れていても攻略できるのだろうか?
そんなこんなで私は攻略対象と接触してみることにした。




