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「今日の稽古もお疲れ様でした」


 中庭から戻ると、リンディが待機していた。

「どうでした?特訓の成果は発揮できましたか?」

「成果は発揮できたけど、どうやら大人2人を困らせたみたい」

「でしょうね」

 彼女もまた当たり前だ、と言わんばかりの呆れ顔である。

「そんなにおかしいかな、この力」

「まあ規格外ではあるかと」

 そうなんだ。同年代の子どもを知らないから何とも言えないけど。

 彼女はあれ以来、剣術の練習に付き合ってくれたり雑談をしてくれたり、私の様子を気にかけてくれたりするようになった。気怠そうなところは何一つ変わっていないが。

「アンジェリーナ様は、同年代の子どもに関して少々知識が少ないかと思われます。お友達を作ってみたらよろしいのでは?できるかは分かりませんが」

 訂正しよう、どうやら失礼さも備わったらしい。

「うーん、今はいいかな。剣術と魔術教わるので手いっぱいだし、何より自主練の時間が減るじゃん」

 そう言ってリンディの方を見ると、彼女もまた引いていた。まるで私がおかしいみたいじゃないか。

「婚約者の話もそろそろ逃げられませんよ」

「あー…」

 そうだった。ここ最近婚約者について急かされている。勝手に決めずに私の意見を聞こうとするところは両親のいいところだとは感じるが。

「まあそれは置いといて、どうせ結婚するならウォード様とかラードナー副団長みたいな人がいいけどね」

「…あまりにも年齢差がありすぎるかと」

「そのぐらいの包容力ってこと」

 ああ、とリンディは納得したように頷いた。分かってくれたようで何よりだ。おじさん好きだと思われたら困る。

「まああんな男のどこがいいのか私には理解しかねますが、そのお二方にはどうやら現在ご子息がいらっしゃるらしいですよ」

 あんな男とはどっちの男の話だろう。そう言わせる何かがあったのだろうか、と思いながらも触れないでおくことにした。誰にだって触れられたくない過去の1つや2つあるだろう。知らないけど。

 そうなんだ、とだけ相槌を打つ。

「どうやら顔立ちが整っていることから、ご令嬢から人気があるようで」

「ふーん」

 同年代にあまり興味はない。言われてみれば、ウォード伯爵もラードナー副団長もイケオジなのであの血を受け継いでいれば間違いなくイケメンだろうな、という感じである。


「まあ、どうせなら自分より強い人と結婚したいかな」

「ご冗談を」


 あれ冗談じゃないんだけどな。割と真剣に好みのタイプを考えて言ったつもりだったんだけどおかしいな。

 そんな私の勇気も虚しく、リンディのから笑いにかき消されてしまったのであった。


 ***


 さて、やっと場面は進みに進んで入学式の前日である。


 私は鏡の前で頭を抱えていた。


「ダサすぎる…」

「ださ…?」

 聞き慣れない言葉にリンディが眉を顰める。

「格好悪いってこと」

「何がですか?」

「このファッションと髪型」

 そう、今まで気にしていなかったが主人公であるアンジェリーナ・クラークスは可愛さ全振りのキャラである。肩ぐらいまでのボブに、手の込んだ三つ編み。さらに片側にだけあるお団子&リボンヘア。髪色は言わずもがなピンク色だ。なんて女子力に全振りされた見た目だろうか。明日から着る制服についても、フリフリやらリボンやらがあしらわれた特注品である。利便性など皆無だ。

「今更ですか?私はアンジェリーナ様なりのセンスかと」

「否定はしない」

 実際のところ、元々のアンジェリーナはこういう格好が好きだったのだろう。可愛らしく、ドジっ子でお菓子作りが趣味の無邪気なアンジェリーナ・クラークス。そんな彼女はもういない。

 いるのは、死んだ目をしている剣術と魔術が趣味の15歳の少女である。

「リンディ、新しい制服を用意して。普通の生徒が着るやつ」

「良いのですか?貴族は装飾してこそ、自らの地位と品格を誇示するものです。何も装飾してないとなると、アンジェリーナ様の貴族としての立ち振る舞いを疑われます。周りからは批判されたり嘲笑の対象になり得るかもしれません」

「いいの。元々制服がつくられた理由って、同じ格好をすることで身分や家柄にとらわれないためだし」

 だから私はみんなに紛れさせてほしい。正直目立ちたくない。あとフリフリも着たくない。

「…そうですか。それでは制服の手配をしておきます。髪型はいかがなさいますか?」

「髪型は明日から三つ編みもリボンもなし!シンプルにいきます」

「承知いたしました。私としては準備が楽で助かりますね」

 そう言えば、ゲームではリンディが学園の中でも付き人としてずっと側にいた。それは今回も適応されるのであろうか。一般生徒らしき人物の横に付き人がいるの想像したらめちゃくちゃ面白いな。

「リンディも入学するの?」

「はい。一応」

「あんまり目立ちたくないから、友達のフリして側にいてほしいな」

「友達…ですか。考えておきます」

「意外とどんな格好してても似合いそうだけどね。なんなら男の子の格好でも全然いけそう」

 艶やかな黒髪、長い睫毛、切れ長の目、気怠そうな表情。これでメイド服さえ着ていなければ確かに美少年と言われても納得していたであろう造形美である。学園でモテること間違いなしだろう。私が楽しみなまである。


 さて、明日からいよいよ恋愛ゲームの物語が始まる。


 気合いは十分に、心地よく安らかに眠ったのであった。

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