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第1話 ワガハイはネコである。名前はまだニャイ。


 ワガハイはネコである!

 名前はまだニャイ!


 冗談はさておき、ワガハイの名前は…… えっと…… ニャンだっけ? 最近は一人でゴロゴロばっかりしていて、名前を呼ばれる機会もないから忘れ…… いや! ……まあ、人間だったころのことなんてどうでもいいじゃないか。


 なにせ、ワガハイが人間であったことは間違いないのだ!

 記憶はあまりないけれど、かつて人間だったワガハイが命を落とした時のことはよく覚えている。目の前にはトラック。気がついた時には、こんな毛むくじゃらの姿で、見知らぬ世界にいた、っていうわけだ。


 ネコになってしまったワガハイのこと、不幸だと、思うかい?

 いやいや、それは甘いね。


 この姿になってわかったことがある。

 ネコ生活は最高なのである。

 好きな時に昼寝し、気が向いたら好き勝手に歩き回り、自由気ままな暮らしがここにはある。かつて人間だった頃、労働やらなんやらで精神をすり減らしていたのがバカのようだ。


 それに、ワガハイはただの猫じゃない。

 この体には強大な魔力が宿っているのだ。


 ……とまあ、そんなことに気づいたのは、異世界に転生してから間もなくのこと。


 まだ訳も分からず混乱しているワガハイの前に現れたのは、一匹のドラゴン。

 後からわかったのだが、この世界にはドラゴンがそこらかしこにいて、火を噴いているのだ。なんて恐ろしい。


 もう駄目だ、と思った瞬間、ワガハイは気がつけば魔法を使っていた。

 ドラゴンは跡形もなく消えており—— 同時にワガハイは自分自身に恐れをなしたね。


 やばい。このままじゃ世界が終わってしまう、って。

 それからのワガハイは、しばらく人里離れた山奥で、魔力のコントロールの修行をしていた。最初は思うように使えなかったけれど——


 今やもう、この森の主として、近寄ってくるうざったい奴らもいなくなった。もう、毎日ゴロゴロし放題なのである。


 おっと、不穏な気配。森の奥から何か巨大な影がこちらに近づいてくる……。

「これは…… 危険のニオイニャン!」


 ちょうどいい。おそらく小型のドラゴンだろう。

 どうやら興奮状態らしいが、ワガハイの敵ではない。鍛え上げた魔力を披露するにはちょうどいい相手だ。

 

 それにしても妙なのは、ワガハイという存在はもう森の中で知れ渡っているのに、いくら興奮状態とはいえ、ワガハイの縄張りを荒らすようなことをするのだろうか?

 いや、まあドラゴンはワガハイと違ってアホだから、仕方ないのニャン!


 おっと…… 

 どうやら相手はドラゴンだけじゃないらしい。もう一体、何かがこちらに近づいてきている。

 これは…… 人間の気配?

 弱小すぎて気がつかなかった。だけど、ワガハイは有能なネコだから気づいてしまったのだ。さすが、ワガハイ!


 それにしても、こんなところに人間なんて、また珍しい奴もいたものニャン。

 おおかた、ドラゴンに襲われ—— 逃げているんだろうか。


 しゃーない。こちらに向かってきているようだし、ワガハイの力で助けようじゃないか。別に人間のためじゃないニャン、全てはワガハイの平穏な暮らしを守るためなのニャン。


 直後、草木の陰から人影が姿を現し——

 息を切らしながらこちらへと走ってきたのは、まだあどけなさの残る少女。金髪、白い素肌。なんとも健全極まりない少女である。

 整った服装を見る辺り、近くにあるらしい魔法学校の生徒らしい。ブレザーの制服姿の少年少女が、時々ワガハイの潜む森を荒らしにくることがあるからわかるのだ。


「誰か! 誰か、助けて!!」


 ふむ。あきらかなピンチ。

 これはワガハイの力の披露にはうってつけであろう。


「そこのニンゲン!」


 ワガハイが声をあげると、少女は声に気づいた。


「誰!? 誰かいるの!」


「ワガハイを信じて、しゃがむのニャン!」


 少女はそのまま地面へと滑り込むように伏せる。

 同時に、ワガハイは自分の魔力を解放し——閃光が周囲を包み込む。


 少女の背後は更地へと変わっており——

 少女を襲っていたドラゴンは、ワガハイに恐れをなして、飛び去って行ったようだ。


 ふう。と、まあワガハイの実力はこんなもので。

 ワガハイはただの猫ではない。

 世界最強の猫なのだ。


 すると、突然にぼふん、と何か柔らかいものに包まれるような感触が走り——


「すごい! すごいよ! あなたすごい!」


 少女はワガハイを抱きしめて、まばゆい笑顔でそう告げた。


「そう…… そうかニャン??」


 人助けも……悪くない。

 そんなことを思っていたワガハイ。

 すると、ワガハイの身体が、少女の細い腕にグイっと持ち上げられ。


「私はアリス! ねえ、あなた! 私の使い魔になってよ!」


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