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なぜ私?スパダリCEOに捕獲され推しの秘書になりました  作者: あいすらん
2章

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9/19

8 棘のある再会

 青いハイブランドスーツを身に着け、店の前で烏丸さんを待つ。

 彼はたくさんの購入品を自宅へ送る手続きをしてくれていた。

 中にはドレスも一着混ざっている。

 パーティーに出ることがあるからだ、と説明されたが、ドレスにはトラウマがひもづいており少々複雑な気分だった。


(発表会……私だけ講師演奏をさせてもらえなかったんだよね……)


 新人だから、という言い訳は2年後、後輩が入社した時点できかなくなった。


(本当は弾きたかったなあ。生徒たちの前で私のピアノ)


 少しだけメランコリックになっていたら、「あら。倉田さんじゃない」と聞き慣れた声がしてハッとした。

 目の前に音楽教室の先輩がいた。


棘山(とげやま)さん……」


 棘山麗華(れいか)28歳、ピアノ講師。


 大きな企業の一人娘で、超セレブな彼女は、私を一番敵視していた人だ。

 元々派手めな美人だったが、真っ赤なルージュに長い付けまつ毛、ピンク色のポニーテールウィッグとかなり盛っている。すれ違った程度なら気づかなかっただろう。


「なんだか雰囲気変わったわね。まさかもうパトロンが出来たの? あなたってうまくやるわねえ」


 お互い様だったらしく、私の全身を舐めるように見ながら棘山さんは言う。


(どうしよう。烏丸商事の秘書なんてバレたら、何を言われるかわからない)


 今回ばかりは確実にショートカットでこのポジションにいる。

 自分でもズルいと思っているほどだ。


「あの、いえ、その……」


 後ろめたさに、ついしどろもどろになってしまう。


「そうだ。ビッグニュースを教えてあげる。今夜、栄保(えいほ)グループ創立10周年パーティーで私たちがピアノを弾くの。全世界に配信されるわ。凄いでしょう」


 栄保グループ!

 ショートドラマが大当たりして、世界にまでファンを広げている気鋭のエンターテイメント企業だ。そのパーティーでピアノを弾けるなんて……。

 すごすぎる。


(そうか。だから舞台用のメイクなんだ)


 ドレスには楽屋で着替えるのだろう。

 彼女はニッと笑いかけてきた。


「羨ましいでしょ。たとえ在籍しててもあなたの順番は来ないけどね」

「確かに」


 同調したら、棘山さんの目がつり上がった。


「あ、これは別に意地悪されたからとかではなく、他にも理由が」

「意地悪? 人聞き悪いわね」

「あ、すいません」


 ナチュラルに本音が出てしまい、頭を下げる。いけないいけない。

 ストレート過ぎた。しかし。


「あなたが辞めてから、ついてるのよね。ビル内のパーティーだから、あなたも暇なら来てみれば? レベルの差をたっぷり見せつけてあげるから」


 うん。やっぱり意地悪だよね。

 どういう生き方をしてきたら、こんな嫌味を立て続けに繰り出せるのだろう。


「あの……」


 私は言った。


「何?」


 棘山さんはにやついている。


「頑張ってください。応援には行けないけど……素晴らしい晴れ舞台だと思いますから」


 うん。自分が在籍していた時にはそんな話、全然なかった。

 心からその価値がわかっているからこそ、全力を尽くしてほしい。

 それに。


(私には……そんな舞台に立つ勇気なんて……なかったかも)


 確かに、と言ったのは、それもある。

 私は自分の弱さを知っている。だから、誰かに嫉妬なんてしようがないのだ。


「余裕ぶっちゃって……! あんた、私をバカにしてるでしょ。そういうところが大っきらい」


 棘山さんはみるみる険しい顔になり、つん、と思いっきり顔をそむけて立ち去っていく。


「はああ」


 緊張が解け、私は思わずため息をついた。

 なんで今、気分を害したんだろう。先の「意地悪」発言の時はさほどでもなかったのに。

 どっちにしても彼女は苦手だ。いつも喧嘩腰で気分がコロコロ変わる。

 そして絶妙に罪悪感を煽ってくるから神経が削られる。

 と、拍手が聞こえてくる。いつの間にか烏丸さんがいた。


「君、やるな」

「え?」

「格の違いを見せつけただろう」

「格……? あっ!」


 私は青ざめた。


「もしかして話を」

「ああ。最初から聞いてた」


 烏丸さんの目が細められた。


「よく頑張ったな。君の勝ちだ」

「勝ち……」

「そう。圧勝」


 翻訳が上手な烏丸さんを私はマジマジと見上げた。

 今のやり取りを勝負にたとえて、何故か私の勝ち、だなんて。


(全然理屈に合わない。でも……)


 烏丸さんの目に嘘はなくて、私の胸は温かくほころぶ。

 そう言ってくれるなら、そういう事にしておいたので、いいのかも。

 烏丸さんはニヤリと笑った。


「しかし俺は君ほど人間が出来てないんでね。攻撃されたら完膚なきまでに叩き潰す。というわけで栄保のパーティー、チケットが届いてる。俺達も行くぞ」

「えっ」

「ドレスを買っておいて良かった。腕が鳴るな」

 

 烏丸さんはまっすぐに私を見る。


「君はきらめくダイヤモンドだ。その価値を、節穴どもにわからせてやる」


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