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なぜ私?スパダリCEOに捕獲され推しの秘書になりました  作者: あいすらん
2章

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6 セレクトショップ

 烏丸さんと2人で烏丸本社ビルのファッションフロアへ。


「あ、あれが例の?」

「逃げたのに、会長を助けてまた採用されたんでしょ」

「運がいいよね」


 耳のいい私は通りすがりのそんな声を拾ってしまう。

 水上さんといい今の人たちといい、昨日の出来事を把握している情報網に驚いた。

 そして。

 運がいい。

 決して咎められたわけではないのに、楽してその座を射止めたと言われている気がしてつい、身をすくめてしまう。

 私は他の人たちみたいに、吟味を重ねて選ばれたわけじゃない。

 運命のカードが落ちてきて、たまたま拾った文字通りのラッキーガールだ。


「注目されてるな。期待に応えろ」


 烏丸さんも聞いていたらしく、短い言葉で発破をかけられる。

 私はハッとして「頑張ります」と拳を握る。

 分不相応な運をつかんだのだから、せめて役に立つ存在にならねば。





 彼が私を連れてきたのは、高級感漂うセレクトショップだった。

 落ち着いた内装のフロアにはスタイリッシュな夏のスーツやワンピースが並んでいる。


「烏丸様。ご来店誠にありがとうございます」


 黒スーツの店員が頭を下げる。

 烏丸さんも丁寧に挨拶を返し、「私が選びますので」と店員を退けた。

 烏丸さんのスタイリング……。

 どうしよう。今からドキドキしてしまう。

 こっそり値札を見ると、桁が違い過ぎて心臓が止まりかけた。

 どれだけ働いても払えない。緊張はすっかり焦りへと置き換わる。

 私は烏丸さんをフロアの隅っこへと引っ張っていった。


「……私、昨日まで無職で……! 金欠なんです。私が購入できる範囲の店で、それなりに良いものを買わせていただけないでしょうか?」


 恥ずかしいけれど、正直に告げる。


「俺が出すから君は心配しなくていい。秘書を磨くための正当な投資だよ」


 つまり、烏丸さんが買ってくれるって事?

 私の服を?


「そんな……そこまで甘えられません!」


 烏丸さんは腕を組んだ。


「倉田」


 うわ。名前を呼ばれた。


「はい」

「俺が最も大切にしているものは何か知ってるよな?」


 もちろんだ。


「時間です……だから! 申し訳なくて」

「このやりとりこそが無駄なんだ。それに昨日のワンピースは似合ってた。今からセンスを磨く必要はないだろう」

「え? そうなんですか?」


 ただひたすらTPOを外した、だめコーディネートだと思いこんでいた。


「ああ。まるで川べりに咲く花のようだったぞ」

「えっ」


 もしかして褒められた?

 嬉しさよりも驚きに目を見開く私の前で、烏丸さんは続ける。


「俺はな、野の花が華やかなバラへと変わる瞬間を見たいんだよ」


 え?

 ちょっと待って。

 ひどすぎる。昨日もそうだったけれど、烏丸さんは妙に人を褒める癖がありそうだ。

 そんなの駄目だ。


「お、耳まで赤くなった」


 不躾な視線とセリフに私はあたふたと弁解する。


「烏丸さんのせいですよ。駄目です。そんなに褒めちゃ。勘違いされますよ」


 そう。特に男性に免疫のない元音楽講師なんて、チョロいんだから。

 彼の何気ない一言で、雲の上まで舞い上がってしまう。


「君なら勘違いしてもいいんだがな」

「えっ?」

「まあ、四の五の言わず俺のワガママにつきあえ」


 烏丸さんはひょいひょいと洋服を選び、用意されていたコロつきのラックへかけかえる。


(もしかして……楽しんでくれてるのかな。こういうの。いや、きっと私の気持ちを軽くしてくれたんだ)


 思った以上にいい人なのかも。

 真剣な目でスーツを選ぶ彼の背中を追いながら、いつしか胸の奥が温かくなった。




「広い!」


 広々としたフィッティングルームに私は感嘆の声をあげる。  

 壁一面が継ぎ目のない巨大な鏡になっており、フロアの中央には革製のソファと、木製のローテーブルが置かれている。  

 烏丸さんは小部屋のドアをあけ、壁のフックに選んだ洋服をかけていく。無駄のない動きについ目を奪われた。

 振り向いた彼と目が合って、内心かなり動揺した。そういえば、ここはなんとなくホテルに似ている。

 密室に2人きり、なんて思ってしまう。


「何? 俺に見とれてんの?」


 ニヤリと笑うその笑みは少年みたいで、ドキッとした。

 これはもしかして、からかいモード?

 烏丸さんのパターンが読めてきたけれど、それでもお約束のように心臓が震える。


「すみません、そんな風にテキパキ動けたらいいのにな、って……ちょっと思って」


 本当はカッコいいな、なんてミーハーな事を考えていた。

 でも内緒。ただでさえ、半分ストーカーだったとバレているのだ。

 邪な気持ちは絶対に隠すべき。


「へえ。俺の美貌に目がくらんだかと思った」


 煽るかのようなセリフが返ってきた。


「そんなっ! 絶対に! そんな事は! ありませんっ!」


 大嘘だった。

 なんて綺麗なんだろう、神様が特別扱いしてこしらえたみたいだ、と心の中で称賛しまくっていた。

 私は声フェチ。ルックスにはこだわりがないはずなのに。

 烏丸さんはフフッと、全てを見透かすかのような胡散臭い笑みを浮かべた。

 ああ、このモード。あたふたしてる私を見て面白がってる。


「まあ、そういう事にしといてやろう……今日の主役は君だからな」


 烏丸さんは私を鏡の前に立たせると、背後から肩に手を置いた。

 ちょっと本気で待ってほしい。これは、この体勢は反則でしょう!


「あ、あ、あの」


 鏡に縦に並ぶ烏丸さんと私。

 鏡の私が見つめられていて、その顔はトマトみたいに赤くなっていて、いたたまれなさに気が遠くなる。

 密室に2人、なんてワード、どうして思いついたんだろう。

 酸欠で息が止まりそう。


「今の自分を覚えておけ。俺がシンデレラに変えてやる」


 彼の声が鼓膜に響く。麗しい姿と声のダブルコンボに私の胸は大きく跳ねる。

 シンデレラの物語は空で言えるほど知っている。

 村娘を変身させるのは魔法使いだ。


 でも。


 鏡に映る烏丸さんは白馬の王子にしか見えなかった。




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