プロローグ
「運命の相手は一目でわかる」
その人は、よく通るバリトンでそういって……。
私の胸はきゅん、と震えた。
まさかこの時、サバンナを駆ける肉食獣にロックオンされてたなんて、気づきもせずに。
会場の空気が変わった。
舞台袖から、背の高い男性が現れて長い足であっという間に中央の演台へ到達した。ざわめいていた会場がしん、と静まる。私は胸のペンダントにそっと触れた。待ち焦がれていた人の登場にワクワクが止まらない。
「……まるでスーツの海だな」
独り言のようなつぶやきに私は思わず身をすくめる。
会社説明会に集まったスーツ姿の学生たちの中で白いワンピースは悪目立ちしていた。
後悔しても遅いけど。
と、壇上の彼と目が合った。見開かれる目にどきっとする。熱っぽい目で見つめられた気がするなんて、自意識過剰にあきれてしまう。
人間の魅力を底上げするのは、ルックスよりも声。
ずっとそう思っている。
しかしそんな私でも――さらりとした黒髪に高い鼻、整い切った顎のライン――彼の美青年ぶりには圧倒された。
視線が離れるまでの数秒間、やたら心臓がドキドキする。
(スペシャルを絵に描いたみたいだわ。こんな人、本当にいるんだなあ)
ただ、立っているだけなのに、圧倒的なオーラを放つなんて、生き物としての素材が違いすぎて、嫉妬心すら生まれない。
彼は正面を向くと語り始めた。
「人間には生まれつき配られたカードがある。しょぼいのもレアなのもあるだろう。だが、チャンスのカードは平等で、それを掴むのは自分次第だ」
声がホールに響き渡る。
まるで希望の光みたい。
「カードを掴め。運命を変えろ」
彼は突然ネクタイを手早く緩めた。
「悪いな。モードが変わった。俺は直感で動く人間なんだ」
どこかセクシーなその仕草。
「烏丸商事CEO、烏丸怜です。どうぞよろしく」
両手を大きく広げ、台に手をつく。
拍手の中、私は首から下げた黒いペンダント式録音機器のスイッチを押した。
一目惚れした彼の声をコレクションするために。




