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デキる上司と秘密の子育て ~気づいたらめためた甘々家族になってました~  作者: コイル@オタク同僚発売中


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一緒なら

「すごい。大工さんに知り合いがいると強いですね」

「おじいちゃんのことを伝えたら、すぐに来てくださって、一週間で工事してくれたんです」


 彩音はそう言って、ケアマネージャーさんを室内に案内した。ケアマネージャーさんは部屋を見ながら、


「人徳ですよ。工事頼んでも最近はすぐに作業してくれないから。うん、しっかりした手すり。トイレも折れ戸にしたんだ、良いね」


 と頷いた。

 じいさんが事故で入院して二ヶ月半が経過。その間に彩音はデイサービスを契約した。

 そこは海野のおばあちゃんが高齢者用のお弁当を作っている介護事業所で、海野さんの知り合いならとすぐに対応してもらうことができた。

 ケアマネージャーさんは離れを見て、工事箇所を指摘、彩音が大工さんに連絡したらすぐに工事してくれたようだ。

 庭師と大工は長く付き合う人が多く、工事にきてくれた大工さんも昔じいさんに世話になったのだと言ってくれた。

 車椅子でそのまま入れる土間の台所、扉の変更、ほぼ全ての壁に付けられた手すりを見て、パーフェクトだとケアマネさんは言ってくれた。

 家の外を見るために、ケアマネージャーさんと彩音は出て行った。

 そして部屋に海野が顔を出した。


「おはようございます。わあ、キレイになりましたね」

「おはよう。一週間で終わらせてくれた」

「畳の良い香りがしますね。おじいさん畳が大好きだから喜びますね」

「病院にいくと『帰る!』しか言わなかったからな」

「治療スケジュールもできたんですか?」

「ああ、毎日病院通いになるけど、退院できるならそれでいいとじいさんも納得してくれた」

「良かったです」

 

 そう言って海野は微笑んだ。

 三日後にはじいさんがここに入るので、今日はもうこの家で生活できるように整える……そういう日だ。

 

「おはようございます、車ここまで入れて大丈夫ですか?」

「あっ、よろしくお願いします」


 海野と話していたら、宅配業者が来た。

 冷蔵庫はあったほうがいいだろうと考えて購入。

 電子レンジは俺のマンションから運ぶことにした。

 照明もリモコンで操作できるものに変えることにした。

 海野は雑巾で台所の棚を拭き、食器を置く用のクッション材を設置している。

 俺は古くなった照明を取ろうと思って室内に椅子を運ぶ。 

 すると海野が椅子を支えるために来てくれた。


「ありがとう」

「広瀬さんまで落ちたら大変ですから」

「ああ。うわ、まず埃だな」

「雑巾持って来ます……あ、椅子から降りて待っててください。危ないですからね」

「はい」


 子どものような扱いをされて少し笑ってしまうが、実際じいさんは脚立から落ちてああなったので椅子から降りて待つ。

 そして海野が持って来てくれた雑巾で照明の上を拭いて、取り外した。

 俺は照明を拭きながら、


「こんな古いものでも引き受けてくれるのか?」

「無料になりますけど、壊れてなければ何でも大丈夫なんですよ」

「それはすごいな。海野に教えて貰わなかったら、新品で買ってた」

「私もケアマネさんに教えてもらって知ったんです。市がしている中古リサイクル店。本当になんでもありますよね」

「いや、びっくりした。これなんて新品じゃないか」

「そうなんですよ。すごいですよね」


 そう言って俺たちは届いた照明を持った。

 実は一時的に家具を買うなら、ここが良いですよと教えられたのは市が持っている中古リサイクル店だった。

 まだまだ使える冷蔵庫と照明が3万円以内で揃ってしまった。

 俺が新しい照明を持って立ち上がると、海野は椅子を支えた。


「一時的な住まいになると思うので、新品は必要ないというか……十分使えますよね、これ」

「いや、本家の家電より良いやつじゃないか。俺の部屋なんて今も紐がついた電気を引っ張ってるぞ」

「それは新しくしたほうが良いですね。……紐」

「海野は部屋の電気に紐を付けて引っ張ってなかったのか」

「ないですよ、立って切れば良いじゃないですか」


 そう言って海野はクスクス笑った。

 俺は照明を変えながら、


「俺の部屋の紐で、リュウは今もシャドーボクシングをしているぞ」

「もう、笑わせないでください、照明変えてからにしてください」


 海野の笑顔が見たくてあれこれ話してしまうが、たしかに変えてからのが良いだろう。

 三つの照明を変えて、トイレの照明を変えることにする。

 ここはセンサー付きの照明に変える。でも真ん中にトイレがあるので椅子では出来ない。

 俺と海野は外に出て、じいさんの仕事用の脚立を持ってくることにした。

 本家の方に向かうと、リュウと仁菜ちゃんの笑い声が聞こえてきた。

 

「あら、おつかれさまだね」

「はじめまして。広瀬です」

「はじめましてかね。海野美子(よしこ)です」

「今回は事務所を紹介してくださり、ありがとうございました」

「何もしとらん。源治郎さん、早く帰ってきたいでしょ」


 そういって海野美子さん……海野のおばあちゃんは微笑んだ。

 今日は俺も彩音も海野もあの家の最終準備でリュウと仁菜ちゃんをみれる人がいない。

 だから海野のおばあちゃんが見てくれている。

 海野のおばあちゃんは、元々駅前の居酒屋を経営していた人で、今は高齢者向けのお弁当作りをしている。

 これからお世話になる事務所とケアマネさん、介護士さん、すべてこの方が紹介してくださった。

 俺と彩音だけだったら、たくさんある事務所を選ぶのもよく分からず、これから何をどうすれば良いのかも分からず、困り果てていたと思う。

 だから本当に助かった。

 海野は縁側に座ってため息をつき、


「……酷いね」

「楽しそうや。まあ酷いな」

「あの頭、何回洗っても泥が出てくるよ、きっと」

「プール出そうか」

「ありかも!」


 そう言って海野は目を輝かせた。

 今ふたりは、中古リサイクルショップで見つけた……いや、見つけてしまって買って貰うまでその場から動かず、床で暴れて転がり回って購入させた商品、水で滑るシートみたいなもので延々と遊んでいる。

 うちの庭には、少し小高い丘のような所があるのだが、そこに水が出るシートを設置。

 そのシートは噴水のようにサイドからチョロチョロ水が出る。 

 そしてそのシートの上を滑って遊ぶ……というか、本来ペットが水遊びをするためのものらしいが、中古リサイクルショップではじめて見た時から「これで遊びたいいいいうわあああああ」とふたりは大騒ぎ。

 最後には「お誕生日に何も要らないから、買ってくれ!! 一生のお願い!!」と主張。諦めて俺と海野はこれを買った。

 ちなみに海野曰く「一生のお願いを聞いたのは10回目」らしい。何度も一生があるようだ。

 丘の上から滑り台のように転がりおちて、泥だらけ。

 そしてまた丘の上にのぼって転がりおちて、泥だらけ。

 ふたりとも二時間以上朝からずっと遊んでいる。

 もう7月で連日暑いし、あそこは日陰なので、大丈夫だろうが……。

 海野は俺に向かって、


「去年使った小さなビニールプールが置いてあります。それを出しましょう。それに少し入ってくれてれば、お風呂が泥だらけにはなりません」

「なるほど」


 そして庭の隅に置いてあったビニールプールを持って来て、準備しはじめた。

 俺のころは足で踏む妙な音がするのを使っていたが、今は電動が当たり前のようだ。

 膨らませていると、泥の塊のリュウが来て、


「プールだああああああ!」


 と飛び込んできた。まだ水が貯まりきってないプールに突然リュウが飛び込んで、俺と海野に思いっきり水が飛んでくる。


「リュウ!!」

「リュウくん、ちょっと待って、入る前に洗って……! うわーーん……」


 うわーんという声を聞いて横をみたら、頭からずぶ濡れになった海野が髪の毛から大量の水をたらしている。

 笑っちゃいけないが、状況的に面白すぎる……が、笑っていられない。

 俺は慌てて縁側にあったタオルを持って来て海野の頭にかける。

 海野は俺がクシャクシャするタオルの真ん中で、


「もお……まだ駄目だって言ったのに!」


 とぶつぶつ文句を言っている。

 可愛くて顔が見たくてのぞき込むと、会社では見たことが無い唇を尖らせて眉間に皺を入れて片目だけ上がっている海野がいた。

 俺は思わず笑ってしまう。すると海野は俺からタオルを奪って、


「広瀬さんもすごい状況ですよ。頭拭いてください。着替えましょう、きゃああああああ!! 仁菜!!」

「菜穂ちゃん、汗かいてるねえ」


 俺の頭を拭こうと手を伸ばした海野の背中に仁菜ちゃんが水をかけた。

 海野は怒って、


「もう許さない。ちょっとそこに座りなさい!!」

「菜穂ちゃんは水てっぽう持ってるの? 仁菜ちゃんは持ってるけど」

「ぐうううう!!」

「あははははは!!」


 俺は爆笑してしまう。

 「ぐうう!」って。

 俺は慌ててタオルをかけて前を閉じて、お互いに着替えることを提案した。

 着替えて縁側に座っていたら、横に海野のおばあちゃんが来て、


「菜穂ちゃん可愛いでしょ」

「!! あっ、はい、とても仕事ができてすばらしい部下で……」

「菜穂ちゃん可愛いでしょ」

「……あ、はい、とても」

「可愛い?」

「か、可愛いです……」

「でしょうでしょう」


 そう言っておばあちゃんは「ほら、プールできたよ~~」とふたりに声をかけた。

 ……色々と勝てる気がしない……。

 着替えて離れに戻ると、海野もちょうど戻ってきていた。

 そして再びふたりで作業を開始する。まず段ボールを集めて……と思って手を止める。

 すると海野が俺のほうを見た。


「……あれ。私たち、あっちに何をしに行ったんでしょうか。そうだ、脚立を取りに行ったんですよね?」

「そうだった。なんで頭濡らして戻ってきたんだ。そうだ、トイレの照明を変えたくて」

「そうですよ、そのためにあっちに行ったのに!」

 

 そう言って海野は目を細めて笑った。

 その髪の毛はまだ水で濡れていて、無邪気な笑顔がすごく可愛い。

 俺と海野は警戒しながら再び本家に戻り、今度こそ脚立を持って戻ってきた。

 じいさんが戻ってくる。



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― 新着の感想 ―
ネットで、正しい高所作業の仕方の画像が流れていたなあ。脚立も使い方がきっちり決まっていて、それに従わないと色んな落下の危険があるとか。一番上に立ったらいかん、とかね。あと絶対いけないのが回る椅子の上に…
>好きな女の子  いや、あなた、31にもなって「女の子」って…(^^)  おばあちゃん、読んじゃったんだ。
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