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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

以て血を

我が愛しのゴールディ

作者: 志摩鯵




俺たちの祖父母にとって獣化は、子供たちに聞かせる作り話。

ある日、人が獣になるという怪奇現象。

だが俺たちの世代にとってそれは、ただの現実だ。


新聞にもハッキリと獣の事件が載る。

もう、これがイカレた事態だという感覚さえ俺たちにはない。


獣にとって街は、食べる物に事欠かない。

だから獣は、街に潜む。


とはいえ生きた獣を実際に見た奴はいない。

獣に出くわせば命はない。


俺たちが知っているのは、見せしめにされている獣の死体だけだ。

いったいどうやってこんな奴らを仕留めるのか想像も付かない。

ただただ震えが来るばかりだ。


獣を始末するのは、獣狩りの狩人の役目だ。

上等なスーツとコートを血と泥で汚し、裏路地、駅の中、公園、高級レストラン、ホテルのロビーでぐっすり眠っているところを見かけたことがある。


狩人は、俺たちを獣から守ってくれる守護者に違いない。

だが凄まじい怪力、人の生き血を吸う噂があって誰も近寄らない。

感謝してるができれば無縁でいたい。


狩人も獣と同じで俺たちが生まれる前、童話の中の存在だと信じられていた。

それがこうして常識になってしまったのは、獣が異常に増えているかららしい。


だが俺も実際、獣に街で出くわすことになるとは。


「×××××ァ××。」


最初、聞いたこともない()に興味を持って覗き込んだ。

獣の鳴き声は、動物の鳴き声とも人の声とも似ていない。


初めて見た時、野良犬か何かだと俺は、思った。

だいたい枕ぐらいの大きさの()()が動いているのが見えた。

不用意に俺は、路地裏に入り込んでしまった。


「×アォ××××××ゥ。」


そいつは、真っ白な獣でピンク色の毛がひと房混じっていた。

路地裏のゴミ捨て場で、とても悲しそうな顔で倒れている。


食い物でも漁っているのだろうか。

ゴミに囲まれ、すっかり疲れている。

どうも拾った餌を入れていた袋が破れたようだ。


白い獣は、起き上がって近くのゴミ箱を覗き込んだ。

代わりになるようなものを探しているらしい。


俺は、ゆっくりと獣に近づく。


「×××××ゥ××××…。

 ××××××××ァ××××…。」


よほど勘が鈍い獣なんだろうか。

人間が近づいてもまるで気が付かないようだ。


俺は、すっかり獣の傍まで近づいた。


「!」


ようやく人間の気配に勘付いた獣は、ゴミの山に隠れる。

そしてゆっくりとこちらを伺うように顔を出した。


「……×××ァ×××?」


「こっちにおいで。」


何を馬鹿なことをやってるんだろう。

俺は、獣に声をかけてしまった。


それというのも、この獣が物凄く可愛らしかったからだ。

まるで生きたぬいぐるみのようだった。


俺たちが生まれる前は、犬や猫をペットとして飼う家庭もあったらしい。

動物園なんかもあったりして人間と動物は、もっと身近だった。


だが今は、そんなことをすれば気味悪がられる。

普通の動物を見るだけで獣を思い起こすからだ。


それに動物に触れると獣化するという噂もある。

病気だとか寄生虫を人々は、迷信じみて怖がっている。

おかげで畜産農家は、酷く差別されていた。


「××××××ォウ。」


白い獣は、ゴミの山から出てくると2本足で立ち上がった。

流石に元人間ということらしい。


獣になった人間がどれぐらい元の人格や記憶を残しているのかは知らない。

ただ噂によればほとんど残っていないという話だ。


でも、コイツは、どうだろう?

少なくとも狂ってるように俺には、見えなかった。


「こんなところで暮らしてるのか?

 …俺に着いてこないか?」


俺は、そんなことを獣に話しかけた。

獣は、しばらく俺の様子を観察している。


獣は、俺のことをじっと見ている。

やがて獣は、嬉しそうに俺に近づいて来た。

ぴょこぴょこと飛び跳ねてじゃれ付いてくる。


「×××ァ×××ォ!」


すごく可愛い。

こんなことってあって良いんだろうか!

俺は、嬉しくなってこの獣を連れて帰った。




故あって孤独の身だった俺は、白い獣を家に連れ帰った。

だが近所の人間に知られないようにしないと。


「××××××~!」


「君、名前はなんていうの?」


俺は、獣にペンを持たせてみる。

思った通り、獣は、()()を使って自分で紙に名前を書いた。


「すごいな、本当に書いた。

 ………Goldie(ゴールディ)…。」


「×××!

 ×××!」


白い獣は、自慢げに胸を反らせている。

ひょっとして子供の獣なのかも知れない。


(でも、ちょっと古臭い名前だな。

 本当は、もうお婆さんなのかも…。)


ゴールディは、100年ぐらい前に流行った中性名だ。

ちょっと今では、聞かない名前になっている。


そう思うと字の書体にも特徴がある。

教養を感じる筆跡だ。


「そうだ。

 筆談できるならもっと書いてよ。」


俺は、そう言って白い獣に紙とペンを突き出した。

しかし獣は、受け取ろうとしない。


「×××ァオ。

 ××××××××ゥ×!」


何か不都合があるのだろうか。

人間だった頃の話を明かしたくないようだ。

深くコミュニケーションを取りたくないのか。


「そうだ。

 体を洗ってやろう。」


俺は、白い獣を浴室で洗ってやろうとする。

だが獣は、物凄い剣幕で嫌がった。


「×××××××××ッ!!

 ×××××××××××××ァァ!!」


「ちょ、ちょっと…!

 なんで急に暴れる…!?」


しばらく格闘して俺は、獣が自分一人で体を洗いたいのだと理解した。

それは、そうだろう元人間なんだから。

他人に洗ってもらうなんて気色悪い。


いや獣の内に潜む寄生虫や悍ましい怪異が俺にうつると考えたんだろう。

少し俺がはしゃぎすぎだ。


夜が更けて俺は、寝室に入る。


「一緒に寝る?」


「×××!

 ××××ゥ!」


俺が声をかけると白い獣は、ベッドに飛んで来た。

そして俺の隣でくるっと丸まった。


「……はあ。

 癒されるな。」


俺は、白い獣を抱きしめて眠った。

長い一人暮らしで凍った心がほどけるようだ。




それから幾日か経った。

ゴールディは、すっかり俺に懐いたようだ。


「ん。

 ………これ、お前がやったのか?」


ある日、俺の仕事を白い獣が代わりに片づけてくれた。

ややこしい書類をすべて終わらせてある。


「×××ゥ!」


白い獣は、自慢げに体を揺すって答えた。

どうも人間だった頃は、相当、賢かったらしい。


その日から獣は、銀行とか税金の難しい書類を俺に書かせた。

どれも俺には、ちんぷんかんぷんだ。


「ああ、こうしろっていうのか?」


「××××××!」


俺は、白い獣の指図する通り書類を準備して記入した。

最初は、小さな蓄財だったが徐々に扱う金額が跳ね上がる。


白い獣は、人間だった頃、弁護士か銀行員だったのか。

この手の話にかなり精通している。


恩返しのつもりだろうか。

こんなことしなくても俺は、十分、この獣に感謝してるのに。

ある日、そう思いながら仕事から家に帰った。


すると白い獣は、一人で泣いていた。

なぜ泣いているのか俺には、見当もつかない。


獣になったことか。

家族や友人のことや彼女自身の夢のことか。

それらをすべて奪われたのだ。


「ゴールディ、泣いてるのか…。」


俺が声をかけると涙をこぼしながら獣は、ゆっくりと振り返った。


「××××××ァ××ォ………。」


「おいで。」


俺には、獣を抱きしめてやることしかできない。

この街で俺と獣は、互いに寄り添うことしかできなかった。




「………グレアスタン・セドヴィーク・ド・カルヴェルノだな?」


ある日、職場に狩人がやって来た。

疲れた目をした黒髪の若い女、いや、まだ子供だ。

齢は、18歳ぐらいだろうか。


「はあ。

 いや俺は、セドリク・ハッベルですが?」


「そうだ。

 書類上は、そうなっている。」


女は、同席している鳥のクチバシが着いたマスクの狩人に目配せする。

この衣装は、病院騎士団ホスピタル医師ドクターだ。


「腕を出せ。」


医師がいった。

俺は、突っぱねる。


「なんで。

 何の権利があって?」


「これは、ここだけの血統鑑定だ。

 国の記録には残らん。」


「拒否します。」


「拒否しない方がお利口だぞ。」


確かにこいつらが許可証を持って来たら法的な効力を持つ。

俺は、しぶしぶ腕を出した。


「………間違いないカルヴェノ伯爵の三男だ。」


鑑定器を操作しながら医師は、そう言った。


「本当だろうな?」


訝しげに女の方が医師に訊ねる。

医師は、頷く。


「本当だろう。

 父親の血質と比較した結果だ。」


「…本物のセドリクを自分の息子として育てた。

 だが、どうやって誤魔化ロンダリングした?」


「手の込んだことはやってない。

 セドリク・ハッブルは、カルヴェノ家と生物学上の繋がりがあった。」


「庶流か。」


「家名は地に落ちても実の息子が生き残る。

 俺が父親ならそうする。

 龍心院ドラクールの栄誉より肉親の情が勝るね。」


会話が落着して二人の狩人は、改めて俺を見た。


「……俺は知らない。

 確かにカルヴェノ伯爵家で俺は、働いてた。

 …でも伯爵一家がいなくなって職を失った。」


俺にとって10代のころの昔話だ。

それが今更、どうして。


伯爵、シヨルドア様が俺の本当の父。

そして俺が仕えていたグレアスタン様は、伯爵の遠縁ってことか。


「だが本当は、お前が伯爵の息子だった。

 シャディザールに向かったのは、セドリク・ハッブルだった。」


「………知らない。

 分からない。」


何の話か本当に俺は、分からなかった。

今、頭の中にあるのは、ゴールディのことだ。

こいつらがゴールディを探してるんじゃないかと冷や冷やした。


自分の過去よりゴールディのことで頭がいっぱいだ。


「グレアスタン、いや、セドリク。

 こちらの狩人は、ヴェロニカ。

 ”ランクサストル公の大鹿”という獣を探しておられる。」


病院騎士団の医師は、俺に女狩人を紹介する。

俺は、嘘を見抜かれまいと手が震えた。

幸い狩人を前に青くなって震えても連中は、怪しいと思わないようだ。


「鑑定の結果、君は、血質672と出た。

 狩人として超一級の血質だ。

 何か感じることはないか?」


とヴェロニカは、俺に質問する。


「何かって?」


俺は、失笑した。


「伯爵様が…か、狩人の家系だとしてもです…。

 俺は、狩人として訓練されたこともないんだ。

 何も感じませんね。」


俺がそう言うとヴェロニカは、不吉な微笑みを作った。


「先代のカルヴェノ伯は、”大鹿”の狩りに参加した。

 もちろんお前が”大鹿”について知っているとは思ってない。

 私が騎士団から指令を受けたのは、あくまで”大鹿”の情報を調べる()()()だ。」


「…俺は、伯爵家の物は何も受け取ってませんよ。

 盗んで持ち出したりもしていない。」


そう話しながら俺は、焦っていた。

もし今、こいつらの仲間が家を調べていたら。


「ところで………。

 騎士団は、狩人のなり手を欲している。

 興味ないか?」


「俺は、興味ないです。」


俺が素っ気なく答えるとヴェロニカは、首を傾げた。


「ふふっ。

 本当か?

 かなりの高給取りだぞ。」


「…か、狩人様に失礼ですが。

 あ、あんたたちは、狂ってるって…。」


俺がそう答えるとヴェロニカは、残忍な微笑みを浮かべた。

ゾッとするような血と暴力を感じさせて。


「その気持ちを忘れるな。」


「え?」


思い掛けない言葉に俺は、呆気にとられた。

ヴェロニカは、俺に釘を刺した。


「カルヴェノ家の連中が揃いも揃って継承に失敗したのは、暴力的な素質に欠けていたからだ。


 お前は、良く知っているだろう?

 先代の伯爵シヨルドアもその妻も兄弟たちも不可解な死を遂げたな。

 あれは、獣狩りに参加して正気を失ったせいだ。


 連中は、家名だとか騎士団のもたらす財に固執した。


 お前は、一族の伝統から解放されたんだ。

 血と殺しに無縁な生活を送れる。

 父親の小細工に感謝して賢く生きろ。」


「そうさせてもらいます。」


俺がそう言うと二人の狩人は、頷き合った。


「じゃあ、私は、これで。」


と言ってヴェロニカは、姿を消した。

しかし鳥マスクの医師は、俺の前に残った。


「心配だろう?

 君の家を調べられたら。」


矢庭やにわに医師がそう言ったので俺は、血の気が引いた。


「………は?」


会社の応接室に6人の医師が入って来る。

隼のマスクの医師が先頭に立っていた。


「本来ならここで君と別れても良いのだが。

 会いたいだろう?

 君の小さな白い同居人に…。」




俺は、街の外れにある宿礼院ホスピタルの施設に連行された。


「ご、ゴールディをどうした?」


俺は、隼マスクの医師に訊く。

隼マスクの医師は、虫を潰して遊ぶ子供の残忍な声色で答えた。


「ふふふ。

 獣に名前を付けてるのか?」


「か、彼女が自分でそう名乗っている。」


「本名ではないだろうがな。」


隼マスクの医師は、俺に手招きをする。


「こちらにどうぞ。」


そこは、拷問部屋らしかった。

もう俺の全身の血が逆流しそうだ。


部屋の中に彼女がいた。

小さな白い獣は、医師たちに囲まれている。


「………ご、ゴールディ。」


「××××××ァ×!」


白い獣は、俺に向かって走って来る。

だがガラスの壁によって遮られた。


「目的はなんだ!?」


「あわてるな。

 別れを惜しむ時間をやると言ったじゃないか。」


隼マスクの医師は、そう言った。


「別にお前に用事はない。

 だが半年ぐらい一緒に暮らした相手と別れるんだから会わせてやるのも人情だろう?」


「教授のご厚意だ。」


別の鳥マスクの医師が言った。


「獣は、殺すんじゃないのか?」


俺が質問すると隼マスクの医師は、肩をすくめて答える。


「特別な獣だ。」


「これが”ランクサストル公の大鹿”だ。」


鶴のマスクを着けた狩人が言った。


「ランク…さっきの狩人が探してたっていう!?」


俺がそう言うと隼マスクの医師は、頷く。


「ああ。

 騎士団オーダーに渡しても殺すだけだからな。

 ”大鹿”は、特別な獣だ。」


隼マスクの医師は、腰に手を当ててそう話した。


「一緒に暮らしていれば分かっただろう。

 ”大鹿”は、人間以上の知能と能力を持っている。

 単なる獣化を超えた現象だよ。


 ()()()、啓蒙的変質と呼んでいる。

 人間にない能力をひらいた生物の変質だよ。

 もっとも()()、進化という言葉を使いたいがね!」


「進化?」


「理事長は、この言葉を慎重に禁止している。

 変質に進歩も後退もないとね。」


どうやら秘密の研究を他人に話したくて仕方ないらしい。

閉鎖された世界で発表できない研究に不満があるのだろう。

だが俺にとっては、ゴールディを返して欲しい気持ちしかない。


「ゴールディを返してくれ!」


「馬鹿な真似は止めろ。

 騎士団に見つかるだけだ。

 そうなったら二人とも無事では済まない。」


そう言って隼マスクの医師は、顔の前で手を振った。


「×××ォ××××ッ!!」


ゴールディがガラスの向こうで叫んでいる。

何が言いたいんだ?

俺は、胸が締め付けられる。


「ある日、突然、いなくなるのは可哀そうだと思ったが…。

 …諦めてくれないか。」


そう鶴マスクの医師が言った。

するとガラスの向こうで医師がノコギリみたいなモノでゴールディを斬りつけた。


「××××ォォッ!

 ×××××××………ッ!!」


ゴールディは、血を流して痛がっている。

俺は、医師に掴みかかった。


「何のつもりだ!」


「こいつらが何をやったか知れば、そんな言葉は出て来なくなるぜ。」


そう言って鶴マスクの医師は、凄んだ。


「教授は、君に別れを惜しむ時間をあげたいと言った。

 だが私は、そんな君が苦しむところが見たかったんだ。」


「は?」


「交換条件だ。

 ここは、私の管轄する病院だからな。」


鶴マスクの医師は、そう言って隼マスクの医師の方に顔を向けた。

隼マスクの医師も小さく頷いて答える。


「君の言いたいことは分かるよー。

 こいつは、イカレてる。」


「あえてこの拷問に意味を持たせるとすれば…。

 そうだな。」


鶴マスクの医師は、ヘラヘラしながら合図する。

するとガラスの向こうで医師がゴールディを痛めつけた。


「×××××××!」


「君のゴールディの安全を守りたいなら大人しくしててくれ。

 騎士団やランクサストル公の狩猟官ヴヌールに嗅ぎつけられたくない。

 あの白い獣のことは、忘れるんだ。」


「わ、分かった!

 だから、もう止めさせろ!」


俺は、鶴マスクの医師に掴みかかりながら訴えた。

だが奴は、満足していないらしい。


「ええ?

 ………焼きゴテを用意したのに…。」


その言葉に俺は、ハッとなる。

振り返ると真っ赤に焼けた鉄の棒をゴールディに医師が…。


「×××××××!!!」


地獄のような光景に俺は、言葉を失った。

泡を吹いて失禁してしまいそうだ。


だが鶴マスクの医師は、静かに言った。


「私は、狂ってるように見えるだろォ?

 でも獣の狩りを知ってるかァ?

 私の、私たちの感情は、どこに向ければいい?


 ………オットー教授は、この獣を保護したいという!

 私たちは、こいつを引き裂きたくて堪らないんだよォ!!」


鶴マスクの医師は、激発した。

力が抜けて俺は、尻餅をついてしまった。


「獣と一緒に暮らすだとォォォ?

 ふざけたことしやがって。

 お前は、敵のスパイを匿うような真似をしたんだよなァ。」


「そこまでにしておけ。」


隼マスクの医師がそう言うと鶴マスクの医師は、首を振った。


鶴マスクの医師は、俺に背を向けて少し離れた。

俺に向き合って隼マスクの医師が言った。


「こいつの言い分も分かって欲しい。

 二度と獣に興味を持たないと誓えば命は取らない。

 我々は、仮にも医師だからね。」





「死ね…。

 …死ね死ね死ね死ね死ね死ね。

 死んじまえ、あいつらーッ!!!」


俺は、家の中、一人でいつまでも喚いていた。

俺は、ぬくもりを、家に帰って来る楽しみを失った。

どんな理由があれ、家族を狂人に引き渡してしまった。


ゴールディを守れなかった。

あの血に狂った殺人狂どもから!


「う、うあ………うわあ……。

 ふわああああ!!」


そうだ。

俺にだって狩人の血がある。

連中からゴールディを助けることぐらい。


「やめて。」


突然、誰もいない部屋で声がした。


「ええっ!?

 だ、なん…誰だ!?」


俺は、飛び上がって部屋を見渡す。

確かに誰もいない。


「セドリク。

 この戦争は、もうすぐ終わる。」


夕焼けの逢魔が時、薄暗い部屋に姿なき声がした。


あるいは、悪夢か。

あるいは、美しい悪夢が目覚めの世界に溶け出したのだろう。

俺の狩人の血と獣の悪夢が呼び合って。


「せ、戦争?

 北方戦争か?」


「獣と人間のです。」


ゴールディなのか?

姿なき声は、来るべき希望を俺に説いた。


「すべての狩人が死に絶え、獣と人の境はなくなる。

 安心して、セドリク。

 人は、×××××××××××××××××××××××××××××××××。」




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