表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/42

第9話 カラオケ

大学からの帰りの途中、大学の正門(せいもん)の前でモモカとバッタリと会った。

「お兄ちゃん」

モモカが俺に声をかける。

「モモカ」

俺もモモカの声に対応する。

俺もモモカも帰り道だった。

偶然、場所と時刻がピッタリ重なる。


もう時期は9月になっていた。

最も暑い時期を乗り越えたけれど、まだ日の出ている昼は暑い。

このまま二人で立っているだけで汗が吹き出す。

太陽を爆発させたいような気持ちになる。


大学は未だに夏休み、俺とモモカは別々に行動して、次の学期のための資料を取りに学校にやってきていた。

二人とも一人で来ていたので、友達もいない。

ただ、大学に行って帰るだけの用事を済ませて帰る途中だった。


「一緒に帰るか」

俺はモモカに言った。

「それもいいけど、お兄ちゃんがいるんだったら、二人でカラオケ行きたい」

モモカは俺に提案する。

「いいよ。カラオケ行くか」

遊ぶ予定になった。

どうせ暇だしいいか。


そんなわけで俺とモモカはカラオケボックスにいる。

大学近くのカラオケ屋だ。

こうやってモモカと二人でカラオケに来るのは久々だ。

なにを歌おうかな、ボイストレーニングの成果を出すぞと密かな目論見もある。

モモカに俺の美声を聞かせてやりたい。


俺は密かにボイストレーニングを行なっていた。

両声類の声の練習をしているときに色々な動画を漁って、ボイストレーニングにのめり込んだ。

美声になっているかは実のところ期待は薄いけれど、成果が出ていれば、感動するような心を震わす声を出せるに違いない。


俺とモモカはカラオケボックスのソファーに座り、モモカは真っ先に俺に指示する。

「お兄ちゃん、SNSに『お兄ちゃんとカラオケに来た』と投稿して」

「分かった」

俺は言われた通り、モモカのVtuberのアカウントで投稿する。

彼女が管理しているアカウントだ。


なんやかんやあってモモカのVtuberの2D(つーでぃー)のアバターが完成した。

まだ初回配信はしていないけれど、既にSNSでアカウントを作り、活動している。

本格的な配信活動の前に、SNSで活動することはまだデビューしていないVtuberにはよくあることだった。

そして、それの投稿を俺がしている。


モモカのVtuberのアバターの名前は「海風(うみかぜ)ナギ」と言う。

「普通に考えて俺がモモカと事務所のアカウントを使えるのはマズいと思うが」

「大丈夫。そうそうバレないよ」

モモカは言う。

「バレなきゃ大丈夫」

倫理観がなさすぎて俺は呆れる。


海風ナギはピンク色を基調にした髪の色やドレスを着ている。

非常に見た目の可愛らしいアバターだ。

デコ出しでロングヘアーで清楚系だ。

なんとなくモモカみたいな女の子の見た目と合致する。


「お兄ちゃんとカラオケに来た」と投稿すると、フォロワーから早速返信が来る。

「お兄ちゃん!?」

「お兄ちゃんいるの?」

「ここにもお兄ちゃんがいっぱいいるよ」

普通の返信もあれば、気持ち悪いのもある。

多様性だ。


「コンプライアンス研修とかなかったの?」

俺はモモカに尋ねる。

「あったよ。著作権についてとか、アカウントの管理方法とか。もちろんSNSのアカウントを事務所の関係者以外に共有するのは駄目だと言われた」

それを破っていいのか?

平然として大丈夫か?


「いつか『重大なコンプライアンス違反がありました』とアナウンスされて契約解除されないか心配だよ」

俺はモモカに述べた。

「そのときは一緒に謝ってくれる?」

「いいよ。謝り倒してどうにか許してもらおうよ」


「どう? 勉強になる?」

「確かに。PR(ぴーあーる)の勉強になるよ」

俺はモモカの質問に答える。

実のところモモカの思いやりで俺がアカウントを操作しているところもある。

SNS活動のやり方をモモカが俺に教えてくれようと考えてくれた。


「お兄ちゃんもVtuber活動することを考えているんだったら、役に立つよ。偉そうな指示してごめん」

「いいよ」

いずれ俺がVtuberになるんだったら、企業のPR活動の仕方を学んで今後の自分の活動に役立たせたらと、良くないこととは分かっていたが、モモカがそう言って俺にやらせている。


「それより早く歌おうよ」

モモカは俺に急かす。

「一曲目はわたしから歌うね」

モモカは早速歌い始めた。

キレイな声だ。

歌がうまい。

心の塵や埃を掃除機で吸い取るように気持ちがよい。


二人で交代しながら歌う。

俺が歌い始めると、俺の曲を聞きながら、モモカは先ほど俺が投稿したメッセージを確認し、レスポンスに返信している。

フォロワーと交流するのもモモカの仕事だ。

「さっきは投稿してくれてありがとう」と俺に伝えてくる。

俺は歌いながらそれどころではない。


歌い終わるとモモカがパチパチと拍手をした。

「知らないあいだにめちゃくちゃ歌上手になってる!」

やった。

ボイストレーニングの成果だ。

「ボイトレをずっとやっていたからかもな」

俺は胸を張り、強く主張した。


「ねえ、どうやったの? わたしにも教えてくれる?」

「もちろん。今度自宅でどんなボイストレーニングをしたか教えるよ」

俺はモモカに答えた。

「嬉しい!」

モモカは無邪気に喜ぶ。

子供っぽい仕草で喜ぶ姿が可愛い。


モモカは一旦SNSで反応するのをやめる。

まだVtuberとしてSNSで文字を送るだけのような活動しかしていないのに、千人のフォロワーがいる。

多いか少ないかはさておき、ファンを既に獲得してきているんだなと、まだまともな活動もしていないのに感じる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ