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第4話 黒井ももか

翌日の目覚めは良かった。

昨日の出来事をキレイすっぱり吹っ切ることができた。

新しい朝を迎える。

なんと気持ちのいいことか。

心も晴れ晴れとする。

いい日差しが部屋を差す。


今日は午後から大学の授業がある。

お昼ご飯を(いえ)で取ってから大学に向かう。

午前は妹に用事がある。

妹は(いえ)にいる。

用事を済ますため妹のところへゆく。

まずはそれだ。


妹の名前は「黒井ももか」と言う。

モモカは俺と同じ大学に通う大学生だ。

モモカが1年生で俺が2年生だ。

歳も1歳しか離れていない。

仲のいい兄妹(きょうだい)だ。

同じ家族に生まれて良かったと思う。

妹のことも俺は大切に思う。


俺は自室からリビングへ向かう。

リビングではモモカがソファーに座ってテレビを見ている。

だらっとした姿勢でリラックスしている。

格好もだらしない。

いかにも自分の(いえ)にいるという雰囲気が出ている。


モモカは長い黒髪(くろかみ)の清楚系の見た目の女の子だ。

髪にはツヤがある。

髪の毛を分けておでこを出している。

なんとなく清潔感のある見た目をしている。

人から好かれそうな控えめな感じだ。


モモカはVtuberオタクだった。

実を言うと「星井ユキ」の存在もモモカから教えてもらった。

モモカがいなければ俺は「星井ユキ」を知らなかった。

昨日の出来事も起こらなかった。

そういう意味で重要な役割を果たしている。

俺をオタクにしたのはモモカのせいだ。


巧くいくか分からなかったけれど、俺は昨日の(よる)に身に付けた女性の声でモモカに話しかけるイタズラを仕掛けようと思った。

巧くいけば俺の声とバレずに話しかけることができる。

誰が話しかけたか分からずに反応するモモカの反応を見たい。


「おはよう、モモカ」


俺は女性の声色を使ってモモカに話しかけた。


「え? 誰?」


モモカはビックリしてだらしなくソファーに座っていたところを背筋を正してこちらを見た。

目を見開いて緊急性のある顔をこちらに向けてきた。

動物さながらの素早さだった。


「おはよ」


と改めて俺はモモカに挨拶する。


「おはよ。今の女の人の声ってお兄ちゃん?」

「そうだよ。分からなかった?」

「全然分からなかった。全く知らない人がウチに(はい)り込んで話しかけてきたのかと思った。お兄ちゃんが話しかけてきたなんて全く思わなかったよ」


嬉しいことを言ってくれる。


俺はモモカと同じソファーに腰かけた。

モモカはビックリした顔をしている。


「どうやって今の声を出したの?」


「昨日、両声類講座っていう動画を見てね……」


俺はモモカに(けい)()を説明した。


「へえ、面白い。すごい才能じゃん。お兄ちゃん絶対にその声出す才能があるよ」


モモカが太鼓判を押す。


「まるでお兄ちゃんの好きな星井ユキみたいだね」

「モモカ、星井ユキが両声類だって知っていたの?」

「もちろん知っていたよ。お兄ちゃん知らなかったの? あんなにファンだったのに。逆にそっちの方が驚きだよ。ファンなら知ってて当然のことじゃない? 違う?」


俺は言葉が出なかった。


「前にお兄ちゃんが『星井ユキが好きだ』って言ったとき、なんだか恋する乙女みたいな顔をしていたから妙だなとは思っていたけど。その時に教えた方が良かった? 勘違いを起こしそうな顔をしていたし」


「イシシ」とイタズラっぽく笑う。


「その話はもうええ」


俺は話を遮った。

金輪際、星井ユキの話は無しだ。

妹に馬鹿にされる。

兄の威厳を保つためにこの話は封印する。

いじられまくって顔が真っ赤になってしまう。

黒歴史の中に入れて封印されたい。


「モモカ、この前Vtuberのオーディションに最終選考まで行ったって言っていたけど、あれどうなったの?」


俺はこの話が聞きたかった。

この話を聞きに妹に会いに来た。

妹のオーディションが気になった。

合格でもしたら驚きだ。

大いに俺は興味があった。


モモカが企業Vtuberになりたいと言い出して、本当に企業Vtuberのオーディションに応募した。

「行動力あるな」と思った。

そして、選考で落とされずに最終選考まで行ったと話を聞いて更に驚いた。

「もしかして本当に? 本当にVtuberになるの? 受かってしまう? 冗談だろ?」という気持ちだった。


俺も調べてみたところ、新規Vtuber事務所で、一期生を募集するオーディションを開催して審査中とのことだった。

まさか妹が審査されているなんて露にも思わずビックリしたけれど。

結果は出ているのか気になる。

本当に受かったら兄として応援したい。

そんな気持ちだ。


「それがね。オーディションに合格したよ!」


モモカは言った。


「なんと企業Vtuberとしてやっていくことになったよ。もう決定。100パーセント合格だって。これから企業V(ぶい)としてやっていくからよろしくね」


モモカは笑顔で嬉しそうに話す。

俺も嬉しくなって笑顔になった。

笑顔が伝染する。

あれだけ「なりたい」と言っていたことを実現したんだから、応援したかった。

喜びがこっちの心にもあふれてくる。


「よろしくなんて言わなくても自分のやりたいことやりなよ。俺の部屋に声が響くことは気にしないでいいから」

「うん」

「気にするほどでもないから、やりたいことやってくれた方がいいよ。もし本当に我慢できないなら文句も馬鹿ほど言ってるよ」


モモカは普段、ときどき自分の部屋で配信をしていた。

俺の部屋に声が響いてうるさいことを少し気にしていた。

喧嘩になりかねないからだ。

「うるさい!」とお互いの自我が強かったら、ぶつかり合って戦争が起きてても仕方ない。


「そんなことよりおめでとう。俺はモモカの『やりたい』って言っていたことができるようになって嬉しいよ」

「うん」


モモカは真剣な顔で頷く。


「手伝えることがあるなら手伝うから、モモカの役に立ちたいから困ったことがあったらいつでも助けるよ」


モモカは照れ臭そうに「ありがとう」と俺に告げる。


このあとは、ああだこうだとVtuberになったらどんな見た目がいいかとかどんな活動がしたいかとか話し込んでいた。

いろいろと二人で妄想を膨らまして楽しく時間を過ごした。

夢を語ることはすごく楽しい。

語れる相手がいることはモモカにとって幸せであってほしいと切に思う。

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