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第2話 星井ユキショック

ユキちゃんは順調にゲームを進めてゆき、始めてのボス戦となった。

ボスは手ごわく今までのザコ敵とまるで違った。

白熱したバトルが配信に乗る。

それをリスナー達が見守る。

みんな一心にそれを見ていることだろう。

俺も一心になって見ている。

ときどき唸ってしまう。


ユキちゃんにボスモンスターの攻撃が襲う。

不意を突かれたユキちゃんは「うお!」という男性の低い声を発した。

「誰!?」と俺は思わず思った。

いつもの可愛い女の子の声ではなかったからユキちゃんの声とは思えなかった。

しかし、間違いなくユキちゃんの声だったので、「ええ?」と思った。


ユキちゃんの口から男性の声が聞こえてビックリした。

「ユキちゃん、大丈夫?」と俺はコメントする。

「大丈夫?」「風邪引いてる?」「なにがあった?」とチャット欄にコメントが流れる。

間違いなく男の声だったので、ほかのリスナー達も驚いたらしい。

そりゃ、女しかいない場所で男の声が響くと何事だとビックリしちゃう。


()(さん)らしきリスナーたちは


「あwww」

「おっとwww」

「ユキくんwww」


と今の状況を楽しんでいる。


「半年振りか?」

「素の声を久々に聞いた」


素の声?

今の男の声がユキちゃんの素の声だって言うのか?

よく分からない。

普段はあんなに可愛い女の子の声なのに。

素の声が男性の声とは?

俺は訳が分からなくなり始めていた。


「信じられるか? 男がこの声を出している」

「初見は騙される」

「こちらの世界へようこそ」


チャット欄のコメントを読むと、本当に星井ユキは女の子の声を出しているけれど、中の人は男らしい。

今まで知らなかった。

嘘だと言ってくれ。

信じることができない。


「この声はボイスチェンジャーなしで出している」


コメントに書かれる。

今はもう普通の女の子の声をしている星井ユキのこの声は、男が地声で出している。

信じられない。

コメントを総合的に判断するとそういうことになる。

一切の不自然さもなくどうやって出している?

これは驚いた。

今まで男なんてこれっぽっちも考える隙のない声だったから。

考えられない感じがする。


「よし! 当たった!」


ユキちゃんの声に耳を澄ませる。

ボイスチェンジャーを使っているなら感じるであろう機械的な不自然な感じがひとつも聞き取ることはできない。

間違いなく地声だ。

地声で声色を変えて男が女の声を出している。

すごい技術だ。

なにも不自然な機械的な音はない。


俺はずっと星井ユキの中の人は女の人であると疑わなかった。

だから、勝手に俺は異性を意識し、彼女に恋をした。

けれど、本当は中の人は男だった。

男の人に恋していた。

その事実に背筋から電撃が走る。

衝撃が頭を巡る。


俺は男だ。

女が好きだ。

俺は星井ユキが女だと思っていたから好きになった。

アバターとしての星井ユキもごちゃまぜになっていたけれど、デートする妄想もした。

キスする妄想もした。

けれど、それは男だったんだ。

全部嘘だったんだ。

リアルと混じるものはなかった。


星井ユキというアバターを通して俺は星井ユキの中の人に恋をした。

今も好きだ。

けれど、彼女は男だった。

もともとが恋愛対象ではなかった。

俺は勘違いしていた。

彼女を好きになっても仕方なかった。

そう思うと残念だ。

俺の恋心は無下になった。

なんて(むな)しい終わり方なのだろう。


本当に彼女のことが好きだったのに。

本当に無邪気な反応や健気な姿に惹かれていたのに。

どうして女性じゃなかったんだ。

女性に変わってくれ。

無茶苦茶なことを考え始める。

お願いだ、ユキちゃん、今からでも女性になってくれ。


「あともう少しで倒せそう!」


ユキちゃんのこの高くて感情豊かな声を聞いて誰が男性が出している声と思うだろう?

たぶん誰も思わない。

それほど完成度が高い。

完全に目を閉じて聞くと女の声だ。

これを見破れというのは少々酷だ。


「ユキちゃんって男だったの?」

「そうだよ」

「星井ユキショックの被害者がまた出たか」


コメントは流れてゆく。

女と思って見ていたら男だと知ってショックを受けたリスナーは多くいる。

コメントを読んで確信した。

俺だけかと思ったけれど多くいることで安堵した。

していいのかな?


俺は星井ユキを数か月のあいだ追っていたけれど、古参と言うほどのリスナーではなかった。

男が完全に女を演じる星井ユキ(Vtuberの姿)を配信で見るのみで詳しく調べることもなかった。

これだけの状況で正体を見破れる?

見破れるわけがなかった。

本当に騙された。

そういう芸風みたいだけれど。


「やった! 倒した!」


ユキちゃんはボスモンスターを倒した。

「おめでとう」「すごい」「面白かった」などのコメントが流れる。

俺も「すごい」とコメントする。

みんなで彼女を祝福する。

複雑な気持ちであったけど、配信は楽しんでいたから、いつも通りにコメントする。

本当は気持ちは複雑な思いがあったけれど、気にしないでいく。


「今日はこの辺りで終わろうかな。『エーテリアの大地』面白かったね。それじゃあ、おつユキ」


そう言って配信はエンディングの動画が流れる。

リスナーのみんなも「おつユキ」とコメントする。

俺も「おつユキ」とコメントする。

衝撃もなにもなかったかのように楽しい時間はこの世の全てを洗い去ってゆく。

苦しいことも頭の中の混乱も。

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