第二章:「紅蓮、竜帝国の炎」
東の空に消えた燕の影。
その静寂も束の間、今度は南より地を揺るがす轟音が迫った。
甲子の南境、灼熱の荒野・伊賀門。
そこに現れたのは、炎を纏う竜の軍勢。
槍を打ち鳴らし、旗を燃やし、踏みしめる大地すら焼け焦がす――
竜帝国が、動いたのだ。
その先鋒を務めるは、竜帝国の爆炎王――細川成也。
燃える大槌を振りかざし、笑う。
「喰らえ、虎ども。火は、すべてを焼き尽くす」
⸻
その報を受けた阪神王国では、再び五虎が集った。
「……火を迎え撃つのは、水でも氷でもない。秩序だ」
静かに地図に指を滑らせるのは、剛虎・大山悠輔。
いつも寡黙な彼が、口を開いた。
「俺が行く。陣を崩さず、炎を断ち切る」
「剛虎……!」
中野が驚きながらも頷いた。
「了解。援軍は私が送る。戦線を崩さず、耐え抜いてくれ」
⸻
こうして、大山は甲子南境の防衛に赴いた。
炎と鉄の雨が降る中、兵たちは震えていた。
だが、戦場にあの姿が現れると、空気が変わった。
「構えを崩すな。俺が前に出る」
盾を構え、陣頭に立つ大山。
燃える鉄槌をも受け止めるその姿に、兵士たちは次第に勇気を取り戻す。
――竜の炎すら、大山の「意志」は焼き切れなかった。
⸻
一方、中野は冷静に全体の動きを読みながら、
敵の高速遊撃部隊の異常な動きに気づいていた。
「この斬り込み方……まさか――岡林勇希、か」
竜帝国の疾風将軍、岡林勇希。
まるで風の化身のようなその動きに、対抗できるのはただ一人。
「呼べ。風虎を」
近本が静かにうなずいた。
「また俺の出番か……悪くないな」
こうして、風と風の戦いが始まった。
荒野を駆け、数十回の接敵と離脱を繰り返す死闘。
だが最後、わずかに早く相手の動線を断ち切ったのは――近本だった。
「悪いが……王国の風は、お前よりも速い」
岡林、撤退。
⸻
そして夜。
静寂の中、突如現れた黒き影が本陣に迫る。
「敵だッ!本陣が狙われている!!」
現れたのは竜帝国の謀将、与田剛率いる影兵団。
狙いは王国の指揮系統そのもの。
だが、闇夜の戦場に一矢が閃いた。
「俺を忘れてもらっては困るな」
現れたのは、蒼虎・森下翔太。
若き弓将が一射ごとに敵の奇襲を潰してゆく。
最後の一矢が与田の肩を貫き、影兵団は霧散した。
⸻
夜が明ける。
焼け焦げた地には、大山の影が立ち、
その周囲には近本・森下・中野、そして遅れて駆けつけた雷虎・佐藤の姿があった。
「……遅いぞ、雷虎」
「すまん、油断してた。こっちはこっちで、火薬庫の誘爆を止めてたんだ」
笑い合う五人。
勝利の代償は決して軽くなかった。
だが、王国は守られた。
そしてその夜、ひとつの報が届く。
「北西――読売山より、巨人軍が動いた」
かつての覇王が、その重い脚を上げるとき。
王国は、最大の試練に直面する。