序章:「虎、眠らぬ大地に目を開く」
この地に、かつて“秩序”と呼ばれるものがあった。
それは力で押しつけられた静寂、または恐怖に染まる平穏だった。
覇を唱えし「黒金帝国」、
空を裂く「燕連邦」、
炎を纏う「竜帝国」、
流れを制す「鯉国連盟」。
彼らが大陸を分け合い、百年に渡り「均衡」という名の偽りの安定を築いてきた。
だが、その中に、ひとつの“異端”が生まれた。
東西南北、いずれにも属さぬ――
中央に息づく、小さくも激しい獣。
それが、「阪神王国」である。
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最初、誰もが笑った。
この国には力がない。金もない。領土も狭い。
ただ、あったのは――
虎の誇り。
荒れ果てた城に、一人の若き王が立ち、
「ここに、民のための国を作る」と誓った。
彼の呼びかけに応え、次々と現れたのは、
五つの才と魂を持つ武将たち。
風の如く駆ける【近本光司】。
戦を読み、陣を支配する【中野拓夢】。
射の道を極めし若き逸材【森下翔太】。
雷鳴の如く一撃を繰り出す【佐藤輝明】。
そして、絶対不動の守りを誇る【大山悠輔】。
彼らは、ただ王のために集ったのではない。
それぞれが、“守るべきもの”を抱え、
己の「誇り」に賭ける場所を探していた。
そう、これは国の戦記ではない。
五人の男たちの、魂の戦記である。
虎が集いし国は、やがて列強の目に映るようになる。
その牙が鋭く、
その爪が深く、
その吠え声が、風を震わせるようになる。
そして今、風が動いた。
燕が空を裂き、竜が炎を吹き、
巨人が動き、鯉が流れを染める。
全ての強者が、“虎”を滅ぼさんと迫る。
だが、虎は眠ってなどいない。
目を開け、牙を剥き、
いま、吠える。
「俺たちが、阪神だ」
――ここに、
『虎ノ國戦記〜五虎大将軍伝〜』、開幕。