第1話:「静けさの裏に、炎は蘇る」
終幕後の未来編開幕
――前川右京・小幡竜平の章――
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虎暦三十三年――
王国には、久しぶりに“平穏”という名の風が吹いていた。
国の隅々まで農地は整い、街道には旅人が笑い、
王都の広場では子どもたちが「五虎ごっこ」と称して走り回る。
王国の新たな五虎は、それぞれの役目を果たしていた。
風牙の若虎・前川右京は、王国南部・播磨の地で巡察を行い、
翠光の智将・小幡竜平は、王都の中枢「策の塔」で次代の軍略を育てていた。
だがその平和に、ほころびは静かに近づいていた。
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ある日、王国南方の辺境村「火見ノ里」が突然の火災に包まれる。
天候は晴れ、風も穏やか。
雷もなければ、火元も見つからない。
だが村は焼け、住民の一部が忽然と消えていた。
前川右京が現地に急行したとき、
そこにあったのは黒く焦げた土と、赤い灰の山。
「これは……火事じゃない。火を“使った”攻撃だ」
右京は、瓦礫の下から古い鉄箱を見つける。
中には、火薬と紙が混ざった手記が残されていた。
「赤炎同盟は再び集う。
竜帝の遺志は、地に沈んではいない。
燃えよ、再び。
我らの復国は、炎とともにある」
それは、かつて滅びたはずの竜帝国の残党が、
“赤炎同盟”という名で再び活動している証だった。
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一方、王都。
小幡竜平は、北方交易路の報告書に目を通していた。
紙の端に付いた微細な焼痕、そして数字の不一致。
「……数が合わない。積載された荷物が途中で抜かれている。しかも、精密に」
ただの盗難ではなかった。
敵は明確に、“燃料”となる火薬や油を奪っていた。
「……偶然じゃない。これは、仕組まれている」
小幡は急ぎ、右京へ伝書を送った。
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夜――
播磨の駐屯所。
前川右京は、焼け跡に膝をついたまま、伝書を受け取る。
小幡の書状には、こう記されていた。
「右京、敵は“竜”を名乗りはしているが、
既にあの頃の竜帝国ではない。
奴らは“炎の使い方”を進化させている。
焼き払うためではなく、脅しと統治の武器としてだ」
右京は空を見上げた。
夜空には月も星もなく、代わりに赤い霞が漂っていた。
「……見えたよ、小幡。
火を恐れる時代は終わった。
今度は、“火に支配される時代”が来ようとしてる」
彼は立ち上がり、腰の風刃に手をかける。
「なら、俺がその炎を切り裂く。
風が沈黙する前に」
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同時刻、遥か南の“火砦”と呼ばれる廃都の奥。
焚火を囲んだ男たちが、仮面をつけて静かに首を縦に振っていた。
中央に座る、赤い外套をまとった男が笑う。
「風が動き始めたか。
よかろう、ならこちらも……次の火を放つまでだ」
男の名は未だ不明。
だが、彼の存在は確実に――
王国最大の“試練”を、招こうとしていた。




