第五章(完結):「沈黙、守るという覚悟」
――中川勇斗の章――
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静かだった。
いや、何も喋らなかったと言うべきかもしれない。
中川勇斗――
王国最年少の守備将として王都を任されながら、
彼は常に「沈黙」で物事に向き合っていた。
兵士に激励の言葉をかけることもなく、
作戦会議でも、ほとんど意見を発さなかった。
だが、誰もそれを咎めなかった。
なぜなら――彼は“守っていた”からだ。
言葉の代わりに、行動と存在で、周囲の不安を受け止めていた。
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虎暦三十二年。
王国の本丸「聖甲子園城」に、不穏な報が届く。
「大地を這うような連中が、地下から接近している」
かつての巨人軍の残党。
地上戦では勝てず、いまや坑道を掘り、地下から王都を揺さぶるという策に出ていた。
この戦術は、防衛線では防げない。
罠を仕掛け、迎撃せねばならぬ。
会議は紛糾した。誰もが口を出す中、
唯一、ただ一人だけが、何も言わずに立ち上がった。
――中川だった。
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数日後、彼は最小部隊を連れて地下へ降りた。
全員が無言で、無灯の坑道を進む。
湿気と腐臭が充満し、敵か岩かも判別できぬような空間。
その中で、彼はすべての音を消した。
そしてついに、地下三層目――
敵の主力と鉢合わせたその瞬間、
彼は叫ばず、命じず、ただ拳を握った。
それが合図となった。
部隊が一斉に伏兵を展開。
仕掛けた落盤とガス封鎖によって、敵は逆に孤立し、壊滅。
地下から王都へ通じる通路は、完全に守られた。
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地上に戻ったとき、将校のひとりが問うた。
「なぜ何も喋らなかった?」
中川は、短く答えた。
「言葉は、必要なときだけでいい。
守る者は、**“揺るがない”ことが一番大事だろ」
その姿に、参謀が呟いた。
「……まるで、大山将軍のようだな」
中川は何も答えず、ただ空を見上げた。
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その後、彼の名前は王国全土に静かに浸透していった。
「鋼壁の若城」――中川勇斗。
民からは、「声なき守り手」とも呼ばれ、
その佇まいだけで、周囲に安堵を与える将となった。
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そして今、五人の後継者たちが、再び一つの場所に集う。
前川右京、小幡竜平、井上広大、渡邉諒、中川勇斗。
誰もがまだ若く、誰もが未完成。
けれど――
風は走り、智が巡り、矢が貫き、拳が吼え、城が構えられた。
その瞬間、王国に再び声が響く。
「俺たちが、次の虎だ」
終幕:そして、継がれし五虎へ
かつて五虎が守った王国は、
新たなる五虎によって、また新しい風を迎えた。
これは伝説ではない。
これは、未来の歴史だ。
いま、虎ノ國に
新たな戦記が刻まれ始める。
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