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『虎ノ國戦記〜五虎大将軍伝〜』  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
『虎ノ國戦記 外伝〜継ぐ者たち〜』
15/25

第二章:「智、無数の線をつなぐ」



――小幡竜平の章――



王国の中心、「策の塔」。

そこは、かつて参謀将軍・**中野拓夢(翠虎)**が居を構えていた場所。

無数の巻物と地図、兵法と予言書が並ぶその空間に、今は新たな影がいた。


小幡竜平。


文官のような顔をしながら、誰よりも“現場”を愛する新参の将。

彼は、師と呼べる中野の遺した記録を、夜ごとすべて写し取り、

独自の判断で再構成し続けていた。


「“戦は、点ではなく面”――違う。

 いまは、“点をどうつなぐか”の時代だ」


かつて中野が布いた采配は、全体を読む“座標の戦術”だった。

だが時代は変わった。

敵は複数の小規模集団に分かれ、同時多発的に仕掛けてくる。


そんな中、王国北部にて報が入った。


「“黒金の残影”、再び活動の兆しあり」


かつて岡本和真が率いた巨人軍の末端が、山岳地帯で集結を始めている。

しかも、補給線を通さず、王国の村落を拠点に潜伏しているというのだ。


討伐部隊は何度も失敗。

剛力で攻めれば村が巻き添えとなる。

小隊では返り討ちに遭う。

完全な“戦えぬ敵”――


小幡は、対話ではなく「構造」で解決を目指した。



「俺が行く」


策の塔にいた参謀たちがざわつく。


「直参部隊なしで?自ら現場へ?」


「いや、それがいい。俺は、“将棋”じゃない。

 “囲碁”で戦う。線と線をつなぐのが、俺のやり方だ」



小幡は、現地に入り、村民ひとりひとりの動線をすべて記録した。

敵がどこで補給し、誰が協力しているのか――直接問うのではなく、

**“沈黙の対話”**を通してそれを見抜いていく。


やがて、村の古老がぽつりと口を開いた。


「……あんた、話さずとも、よく見とるな。

 あの男らは、夜に炊く煙だけで息をついとる。

 西の林を焼かれたら、動くしかなかろうよ」


それは、戦術ではない。

“暮らし”に根ざした情報だった。


小幡は、ただ一手――西の林に、煙を焚いた。


炊煙は敵の補給線を断ち、

山を下りてきた残党を、無傷のまま包囲することに成功。


戦わずして、勝った。



王都に戻った小幡は、塔に巻物を一つ納める。


「戦術は変わっていく。

 だが“見る目”と“聴く耳”があれば、勝てる」


誰かが言った。


「あなたは中野将軍に似ていますね」


小幡は、ふっと笑う。


「違う。中野様は“道筋”を示した人。

 俺は“交差点”を作る人間です」


策の塔の灯が、また一つ灯る。


そして次なる戦場は、遠く東の丘。

ひとりの若き射手が、空を見上げていた。



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