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第73話 day X+10(3)


(背景音)

https://youtu.be/xS_rNLwB0fE



 窓の映像の中、

 ……病室のベッドに、私。

 そして陽くんが、私に話しかけている。


 少し、陽くんが幼い感じに見える……。



『……歓迎演奏で何の曲やるか、これから話し合って決めるみたいだよ。」


『…………(そっか。)』


『水都は…………何を演奏したら、いいと思う?』


『(私? う〜〜ん…………。)』



 これは……私?


 声が、出ていない。

 だいぶ、痩せて……。


 エルザ……が、枕の上にある音楽プレーヤーから小さく流れている。

 


『…………(“エルザ”、かな?)』


『“エルザ”、確かに、いいね。僕も好きだよ。でも、ハデ北のみんなができるかな〜……?』


『(……ふふ。)』


『木管中心の曲だから、レベルアップのためにも……チャレンジしてもいいかもね。』


『………………(わたし、もう、吹けないよ。)』


『…………ごめん。』


「…………(ううん。)」



 ……吹けない?



『……(陽くんは、優しいね。)』


『……? そんなこと、ないと思うけど……。』


『(ううん。)』



“……言わなきゃ。……言わなきゃ。”



 っ!


 これは……私の、心の声?



『…………(陽くん、もう、大丈夫。)』


『……?』


『(私は、もう、大丈夫だから。)』


『え…………どういう……。』


『(今まで……本当に、ありがとう。)』


『? え、何を…………?』




『……………(もう、来ない、で…………。)』




『……!!!?』



 え、私は、何を!?



『ゴボッ、ゴボゴホッ!! ゴホッ!』


『水都!』


 お母さんが駆け寄り、私の背中を支える!


『陽くん、…………………ごめんなさい。』


『……っ!! …………し…………つれい、します…………。』



 陽くんがカバンを持ち……出ていって、しまった。



『う゛っ、う゛っ、う゛………あ゛っ、あ゛あ゛〜〜……………!!!』


“行ってほしくなかった!! 一緒にいたかった!! でも! でも!!!”


『水都! 水都!』


『ゴホゴホッ! ゴホッ! あ゛あ゛〜〜っ………!!』



 これは……



『2024年12月20?日(確か下旬) 水都の家でガス漏れ爆発、火事。水都、逃げ遅れて肺を損傷』



 これは…………私に本来、起こったこと……!!



 手を扉の窓に当てたまま、立ちすくむ。


 中にいる女性が再び舞うと、タクトの先に、別の窓が開く——————・・・




・・・——————同じ、病室?



『水都! 水都!! 嫌ぁあああ!!』


 お母さんが、泣き叫んでいる……。


『ゴホゴホッ!! ゲホッ!!』


『では……本当によろしいんですね? これ以上強い麻酔は、ありません。ただ……もう目覚めない可能性が、極めて高いです。』


『ゴホッ!! ゴホッ!!』


 私が、咳をしながら頷いている。


『水都……!!』


 お姉ちゃんが、私の手を握っている。

 お父さんは、お母さんを抱きしめている。


 お医者さんが私に一礼した後、看護師さんから注射を受け取る。


『ゴホッ!! ゴホゴホッ!!』


“みんな、ごめんね。本当に、最後までありがとう。”


 お医者さんが、点滴に注射の液を入れていく。


“陽くん———。元気で、頑張ってね。ただ———。”


 ()が、目を閉じた。


“一度でいいから、手を繋ぎたかった、な———。”


——————・・・



 …………。


 これが……

 これが……本来起こった、こと。


 こんな……。


 ……舞とともに、次々と窓が開いていく。



・・・———

 私の、お葬式———・・・




・・・———

 陽くんが、私の家に来た。

 お母さんが、私の手紙を渡している。


『ぐ……………う……ぁああああっ……………!!』


 陽くんが、私の手紙を握り締め、うつ伏せで泣いている———・・・




・・・———

 これは……吹奏楽コンクール?

 夏の……。


 私が、いない。


 アンドー先生が、振ってる。

 アルメニアン・ダンス……。


 これは、2025年に起こったはずの、コンクール……。

 あのシエラの時に見た光景———・・・




・・・———

 陽くんが、飛行機に乗って……。


 ここは、ドイツ?

 大佐渡さん?

 大佐渡さんに、教えてもらってる。


 夜まで、勉強して、ずっと、ずっと、ずっと———・・・




・・・———

 すごい、華やかなステージ。

 これは……コンクール? 指揮者コンクール?


 陽くんの名前が呼ばれた。


 あ……陽くん?

 あれ、30代、くらい?


 会場の、割れんばかりの拍手。


 優勝?

 これは……シャルズールの、指揮者コンクール?


 すごい———・・・




・・・———

 陽くんが、ヨーロッパの楽団員さんを指揮してる。


 けれど、何かぎこちない。


 あ、途中で帰り始めちゃった。

 子供たちがステージに乱入してきて……。


 独り、机で楽譜の書き込みを消している。

 息を白くしながら、独りで……———・・・




・・・———

 陽くんが、指揮をしてる。

 また、年をとった? 50代手前くらい?


 ここは……テレビで見たことある。


 ベルリンフィルの、ホームの劇場。


 陽くんが、大きく振りかぶって、フィニッシュした。


 ……すごい。

 会場中、スタンディングオベーション。


 演奏者、観客の皆さんも、輝いている。

 みんな、一つになって———。


 陽くんが、泣きながらコンマスの男性と抱き合っている。

 ベルリンフィルで、大きな成功を収めるんだ———・・・




・・・———

 陽くんが、倒れている!?


 交通……事故!?


 ブロンドの女性と、子供が陽くんに向かって叫んでる……。


 うっ……

 血が……たくさん……!?


 陽くんが……死んじゃう!?


 え……!?


「これ、どういうこと!? どうしてこんなことが起こったんですか!?」


 指を差し、舞っている女性に訴える!



“水都。僕は、役に立てたのかな。“



 え……?



”指揮者に、なったよ。

 それなりに、ヨーロッパでも頑張った。


 でも———本当は、一番に君の力になりたかった。

 あの時の音を、もう一度……聴きたかったな。


 今の力が、あの時にあったら……水都の夢を、叶えられたのかな———。”



 陽くん……!?



 あ……!


 舞を舞う女性が、窓の映像の中にも現れる。


 天が開いて……女性が舞い降りて……

 微笑みながら陽くんに、触れる。


 一面、黄金の光がいっぱいになって———・・・




・・・———

 この窓の映像は……?


 日本?

 の、団地?


 陽くん?

 小さい?

 小さい陽くんが、ベッドにいる?


 陽くんが起きて、驚いている。


“これは———小学生の……自分!?”


 驚いてる? 自分に?

 小学生の、って……。


 これは……


 ———陽くん、小学生の頃に、戻った、ていうこと?


 え……

 転生、ってやつ?


 小学校から帰ってきた陽くんが、急にノートを開き、何かを書き始める。


 これは……

 あのノートは……さっきの……!!



『2020年4月12日14時31分、東岡崎駅前交差点で轢き逃げ事故、水都、右大腿骨損傷』



 そう書いて、陽くんが呟き出す。


「———よし。」


 “こんな、訳のわからない状況だけど。これは、チャンスなんだ。

 試す価値は、ある。寿命が、どうなっても。

 寿命がどうした。

 運命がどうした。

 もう一度、奏で直すんだ。

 あの日の、続きを。


 水都、必ず助ける。”

———・・・



 舞の光が、私の額を照らす!


 ——————っ!!!!


 全部……。


 全部、記憶、思い出した……!!


 全部……分かった……!!


 こんな……


 こんなっ………!!


 陽くんがどうして、未来を知っていたのか……!

 陽くんがどうして、そんな無茶をしだしたのか……!!


 陽くん…………っ!!



———そこからの映像は、怒涛のようだった……。


 小学生の陽くんが、アプリや投資に取り組み始める。


 瀬馬さんに、取引を持ちかける陽くん。


 単身ドイツに旅立ち、音楽学校で朝から晩まで勉強して。

 後ろ指差されながらも、必死に、必死に。


 大佐渡さんにも、()()会って。ホテルに飛び込んで……。


 指揮者コンクール。さっき見た会場だけど、今度は陽くんが中学生。若い。

 あ、演奏者に樫本さんも……。

 陽くんの名前が呼ばれ、優勝……。


 日本に戻って……。

 あ、これは美島中?

 美音ちゃんや、大翔くん、莉緒ちゃんを指導して……。

 アンコンにも出て……。


 これは……矢北の校舎の階段?

 陽くん、視点?


 階段を上ってる……。

 1−1の教室に入り、視点がキョロキョロしている。


 あ……


 私と、未来に近づいて来て———



『石上です。よろしく!』



———・・・




「うっ………うっ…………。」


 窓に両手を当てて、下を向く。


 涙と息切れで、どうなっているか、よく分からない。


「バカ…………バカだよ、陽くん……。」


 なんで……なんで全部一人で……。


 私なんて……私なんかより、陽くんの方がずっと……っ!


 ふと前を見ると、女性が舞を止めて、私の方を見ている。


 女性は私に近づき、再び私の手に、窓の反対から手を当てた。


 そして———。



『汝らの歌———見事なり。』


 私は驚いて、顔を上げる。


 そう言うと女性は、体を向こうに向けられ、両手を下げられた。


 タクトは、いつのまにか筆になっている。


 女性は顔だけ振り返り、私向かってニコッと笑われた。


 そして舞を構えられ、下を向いて———唄われた。



天津空(あまつそら)———()でし調べに 八千代(やちよ)()———

一つに編みて 明日に繋がん———』



 再び舞を始められると———


 黄金色の世界の中に、さっきまでとは違い、彩りのある窓が現れ———



 その全ては……………



 私たち、矢作北高校吹奏楽部の演奏だった。




———“アルヴァマー序曲”。


 スネアのみんなが6人並び、陽くんの指揮に合わせて一斉に叩く。

 陽くんの後ろに桐谷先輩や宇佐美先輩たちが集まりだし、陽くんを中心とした円のような合奏体形で、ハーモニーが築かれていく。


 ……覚えてる。

 ぎこちなさはあったけど、みんながつながり、響き合い、理解し合って、温かい演奏だった。

 

 みんなの笑顔から、小さくほのかな、若葉のような黄緑の光の柱が生まれていく。


 女性は舞いながら、その柱の光を集め、紡いでいく———。



———プレコンの、“エルザ”。


 私が、フルートで入る。

 あの時、私はまだ自信がなくて……

 でも、陽くんが信じてくれた、音。


 女性は映像に映っている私を見やり、嬉しそうに舞を続けられる。


 桐谷先輩、愛菜ちゃんも入ってきて……

 柵木先輩たち、仁くんのファゴット。

 対位法を模したメロディーが、きれい。

 宇佐美先輩のホルン。

 一人一人から、光の柱が現れる。


 陽くんが、天を見上げる。

 天からはわずかに光が差し、その光が陽くんの光とつながる。

 陽くんは涙を溜めながら、指揮をする。

 対話……物語…………価値。


 金管のフォルテシシモ、大翔くんたちの強烈な倍音。

 美音ちゃんのハイトーン、恵麻ちゃんのシンバル。

 樋口先輩のチューバ。


 心の底まで響くような純正律の和音で終わり、会場からの大きな拍手。

 会場の多くの人からも光の柱が現れ、

 涙を流していた池上先輩、莉緒ちゃんからも、現れる。


 それは、優しく包み込むような、太陽のような温かい黄色の光。


 そして、それらも紡がれていく———。



———シエラとの、“ホルスト”。みんなが稲妻のようなものでつながった、あの感覚。


———三校交流練習での、私たちの“さくらのうた”。


———コンクールでの、“メルヘン”、“アルメニアン・ダンス”。


 全てにおいて、陽くんの指揮と私たちの演奏で光が現れていく。

 女性はその演奏に心を寄せ、微笑みながら舞を踊り、筆で光を紡いでいく。

 観客のみなさん、市川先輩、紗希ちゃん、みんなからも光の柱が現れる。


 ホルストの窓からは、激しく脈打つ、稲妻のような青白い光。

 さくらのうたの窓からは、儚くも芯の強い、薄紅色の光。

 コンクールの窓からは、歓喜を表すような、白銀の光が。


 そして———紡がれた光は徐々に大きな塊になり、筆先に三角形———正四面体のような形をとりだし始める。



———吹奏楽祭の、“BAD MOON〜ハイカラミックスモダン”。


 会場中を巻き込んだ、あの熱狂。

 柵木先輩の超一流のサウンド、未来の力強いソロ、美音ちゃんのハイトーン、みんなのダンス。

 音楽は祈りだけじゃない。こんなにも楽しくて、自由なものなんだと教えてくれた曲。


 私たちだけじゃない。お父さん、お母さん、樫本さん、大佐渡さんからも、熱狂を吸い込んだような、極彩色のネオンのような光の柱が浮かび上がる。


女性は、楽しそうにクルクルと舞いながら、溢れんばかりの全ての光を筆先に集める。

 

 黄緑、黄色、青、紅、白、極彩色。


 私たちの青春の全てが、

 陽くんと歩んだ軌跡の全てが、

 混ざり合い、

 溶け合い———。


 それは、直視できないほどの「純白の正四面体」となって、筆の先に宿った。



 そして女性は舞を止め、両手と筆を、高々と天に向けた。



 すると——————


 天に「岩の戸」が現れ、

 筆先の強烈な光線を受け、

 徐々に戸が開きだして———



 私たちは、その隙間から出る光の中に、溶け込んだ。




   *  *  *




 ………………………。




 気がつくと、そこは、闇。



 真っ暗な、真っ黒の、世界。

 何の音も、聞こえない。



 ……その世界の少し先に、黄色の立方体が見える。



 なんだろう……。

 近づいてみる。



 だんだん、大きくなる立方体。

 それは、音楽室くらいある、大きなものだった。



「陽くん…………?」



 その部屋に、ただ一つピアノがあって……

 陽くんが独り、ピアノを弾いている。


 でも……

 何か、様子が変。



 何も、音が聞こえない。



 泣きながら、ピアノを弾いている。


 少し、身体が幼く見える。

 時折スマホを触って、うずくまっている。


 これは……。

 そしてこの光景は……


「公……民館?」


 あの、ソロコンの練習を二人で約束していた、公民館?


 …………。



()の者は、長い年月、ずっと泣いておる』



 え……?


 さっきの女性が、私の横に立っていた。



『汝無き世界に、彼の者の音は鳴っておらぬ』



 女性は寂しそうに、立方体の中の陽くんを見つめている。

 長い時間、ずっと……。



 そしてゆっくり私を見ると……


 切なそうな表情で、私に———

 手を差し伸べてきた。


 少し、顔が決意がかっている。



 そして私がそれに合わせて手を伸ばすと……

 女性は私の手首の奥、腕のあたりを握ってきた。


「……?」



 不思議そうにしている私の顔を見ると、口元を微笑えませた。


 私は、同じように彼女の手首の奥を握ってみた。


 ……女性の手から、温かい熱流のようなものが流れ込んでくる。

 同時に、女性と私との間に、“契り”のようなものを感じた。


 陽くんがずっと私に向けてくれていた「信じる力」と、

 私自身の「愛したい心」が一つになるような、そんな気持ちも感じた。


すると……



 女性の反対の手にある筆が……


 フルートになった。



「……!」


 女性は、私に向けて、フルートを前に出す。


 そして……頷く。



 ……。


 私は黙って、それを受け取り、頷いた。

 手に馴染む、銀の感触。



 これで、あの壁を、壊す———。



 その意志を、フルートからも感じた。


 女性は渡した手を下ろすと、再び陽くんのほうに視線を向ける。

 陽くんはずっと、泣き続け、弾き続け、うずくまったりしている。


 ……そして女性は私に向かい、私と目が合うと、

 再び頷いた。



「……はい。」



 私は女性に返事をし、立方体に近づいてみる。



 そして、その境界に近づき、触れてみた。


 あまりに強固に見えたその壁は、私が触れると……

 あっけなく透き通った。



「…………!」



 私は半歩踏み出し……一歩、中に入ってみる。



 そこは———中に入っても、

 無音の世界だった。





 

明日も更新します。

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