第70話 day X
(背景音)
https://youtu.be/2o9KfyPqQzY
》石上陽
「……瀬馬さん!? 瀬馬さん!! 大至急、119番! 消防と救急! 水都の家!!」
それだけ言って電話を切り、走りながらスマホをポケットにねじ込む!
「はあっ、はあっ、はあっ! ラ、ライト!」
練習通り、陽がヘッドライトを取り出そうとすると……
「ああっ! AED! ……くそっ、後だ!」
焦る手から、リュックのAEDが滑り落ちる。
だが、拾っている時間なんて無い!
毛布を道路に投げ捨て、ヘッドライトを装着し、道路を跨ぎ、河合家の垣根に身体ごと突っ込む!!
「はあっ、はあっ、水都ぉーーーーっ!!!」
当然、返事は無い。
静まり返った闇夜に、無機質な警告音だけが響いている。
河合家の庭に着いた陽は、リュックから養生テープとバールを出して、リビングの窓に手をかける。
「ん……開いてる!? 閉め忘れ!? よし!!」
テープとバールを投げ捨て、ライトを点け、靴下を脱ぎ、携帯酸素片手に持つ!
窓を、開ける!
"ピピピピ、ガス漏れです。ピピピピ、ガス漏れです。"……
けたたましく聞こえる、警報音。
鼓膜の中に、サイレンのように鳴り響く。
開けた瞬間、ムワアッと鼻をつく匂いに、クラっとする陽。
「うっ……これじゃあ……!」
陽は顔を一旦外に出し、携帯酸素から息を十分に吸い込む。
「水都ォーーーーッッ!!」
"ピピピピ、ガス漏れです。ピピピピ、ガス漏れです。"……
聞きたくない音だけが聞こえて、何も聞こえない。
普段から知っているリビングの景色が、奥深い闇のダンジョンのように見える。
空気が重い。
視界が、ぐにゃあと歪む。
「ふぅっ!! 火花を、散らすな!」
覚悟を決め、もう一度携帯酸素を深く吸い込むと———
突入する!!
"ピピピピ、ガス漏れです。ピピピピ、ガス漏れです。"……
谺のように、エコーがかかる警報音!
ぐわあん、と蠢く闇!
陽はリビングから玄関ホールにつながる扉を、静電気防止パッドに触れてからゆっくり慎重に開ける!
静電気一つで———
全てが終わる!!
《ばっくん!! ばっくん!! ばっくん!!》
(心臓が……口から飛び出るっ!!)
ドアが閉まらないように、最大の場所にストッパーを置く!
「ふーーーっ!! シューーー!」
酸素を吸い込み、階段を見上げる!
闇の向こう、わずかに常夜灯の光が見える!
裸足のまま慎重に、階段を登る!
そしてその足元には……
(水都…!? 水都ォオーーーーッッ!!)
水都を、発見!!
ライトの白い光に照らされて、パジャマ姿の水都が倒れている!
陽は駆け寄り、パッドに触れてから肩に触れる!
「水都!!」
反応が無い。
まるで人形のように、力が抜けている。
「ふーーーっ!! シューーー! ふーーーっ!! シューーー!」
陽は水都を横抱きにする。
軽い。恐ろしいほどに軽い。
階段を降り始める!
"ピピピピ、ガス漏れです。ピピピピ、ガス漏れです。"……
(うるさい!! 黙れェーーッ!!)
一段一段慎重に降り、リビングに向かう!
リビングに入ると、開けておいた窓に走る!
そしてついに……
窓から、脱出!!
「っっはあっ!! よしっ!! はあっ! ……っはあっ!! はあっ!」
水都を背中に抱え直し、息を切らしていることも忘れ、垣根を破り、道路に出る!
河合家からの距離を確認し、投げ捨てておいた毛布を広げ、水都をその上に寝かせる!
「はあっ! はあっ! だ、誰か来てください!」
冬、21時前の住宅地。
声が誰かに届いているかなんて、分からない。
水都の口元に、陽は耳を近づける。
「はあっ! はあっ! 呼吸……心拍……無し……っっ!」
すぐに、胸骨圧迫を開始する!
「いち! にい! さん! し!……」
固い訓練用の人形とは違う。
肋骨が折れてしまいそうな、華奢で柔らかな感触。
その感触が、逆に「死」をリアルに感じさせる。
(まだ温かい! 水都! 水都!! 頼む! 戻って来てくれ!!)
「にじゅなな、にじゅはち、にじゅく、さんじゅう!」
陽はすぐに、水都の顎と首を支え上げ、人工呼吸を行う!
一回目、まだ反応は無い!
でも二回目のとき———
「ケホ! ケホケホ!」
「あ……」
水都の胸が小さく波打ち、咳き込む音が夜気に響いた。
「あれ……陽……くん?」
「水都! わかるか! 水都!!」
「うん……ここは……?」
肩を叩いていた震える手を水都の背中に回し、力一杯抱きしめる陽!
温かい。
心臓が動いている。
「よし! よしよし! ヨォッッし!!」
汗と涙でメチャクチャになる、陽!
助かった!
助かったッッ!!!
———そう、確信した、その瞬間。
陽の家の窓から、激しく光る黄色の光線が放たれた!!
「ん……なっ……!?」
命書が自動的に開き、空中に投影された燃える文字で記載が増えていく!!
『ガス爆発による肺損傷 未発生 河合水都 +』
『石上陽 ー』
そしてその横で、対の数字が燃える!
一の桁、十、百、千、万……!!
スロットマシンのように桁が跳ね上がっていく!
《カッッ!!!!》
その瞬間、世界が真っ白になる!!!!!
《シュドォンッッ!!!!!》
「わあぁっっ!!?」
咄嗟に水都を庇う陽!!
河合家で引火、爆発!!!
バリバリッ!と吹き飛ぶガラス!
家そのものが内側から破裂し、ヒュン! バシュ! と頭上をガラスや灼熱の木片が通り過ぎ、いくつかが陽の背中に刺さる!!
腕をかざしてなんとか後ろを見上げる陽!
「あ……」
陽の視線の先には、爆発によって吹き飛んだ———屋根瓦の巨大な塊。
それが黒い影となって、真っ直ぐ、二人に向かって落ちてくる。
逃げ場はない。
陽は水都の頭を抱え込み、その小さな体を自分の全てで覆い隠し—————————・・・
明日も更新します。




