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第69話 day X-1 この日じゃない


》12月13日(金) 吹奏楽部部室 石上陽



 鍵を持って部室を開ける。


「お、大分あったかいな……。」


 昨日は雪が待ってたこともあって廊下は寒いけれど、部室の中は日差しが入り込んで温かい。


 今日もここは賑やかになるな。

 残り……一週間、悔いの残らないようにやろう。


 アンコン出場メンバーのスコアを棚から出して、いざ開こうとした時。

 入ってきた扉がガラガラと開いた。


「あれ、みんなはまだ?」


「ああ、うん。」


 水都が部室にやってきた。

 急いで来たのか、少し息が上がっているようだ。


「どうした? 急いできたの?」


「えっと、うん。今日は特にね、ちょっと相談があって。」


「相談?」


 水都が扉を閉める。


「アンコン、出られなくなっちゃったけど、その代わり、2月のソロコン、チャレンジしてみたくって。」


「———!!」


「……陽くん?」


「ああ、ごめん。凄く良いと思うよ。曲は?」


「えっと……これにしようかなって。」


 水都がスマホから動画を見せてくれる。


「『さくらのうた』の……フルートソロバージョンだね。」


「うん。すごく速いパッセージとかは無いんだけど、一音一音を歌い分ける難しさはある、ね。でも……この曲すごく好きだし。思い出の曲だし。やってみたいな……って。」


「……いいね。水都に合ってると思う。すごくイメージできるよ。きっと良い演奏になる。応援するよ。」


「ホント? ありがとう。ソロコンで頑張ってレベルアップして、みんなの役に立ちたい……っていうのもあって。」


「そっか。」


「で、相談なんだけど……。」


「うん?」


「陽くん、伴奏……お願いできないかな。」


「…………僕でいいの?」


「うん、陽くんにお願いしたくて。」


「そんな、もっと上手い人、吹部にもいるじゃん。僕はドイツでも、ピアノは専攻してないよ?」


「ううん。陽くんがいいの。……どうかな。」


 ……。

 逃げられない、か。


「よし、チャレンジしてみようかな。楽譜、手に入ったら合わせてみよう。どうしようか。」


「実は……もうネット印刷で昨日買って…………あ〜るんだ。」


 そう言うと、カバンからクリアファイルをサッと出す。


「早いな!」


 水都がクスクスと笑う。

 

「……貸してもらっていい? そこのエレピでちょっと合わせてみよう?」


「うん!」


 …………


 この出来事、()()()()()()、だっただろうか?


 確か、週の頭だったような気がする。


 ……何日か、()()()とズレている?


 そんなことを考えながら、伴奏を続ける。

 何度も、何度も、何度も、独り練習したあの楽譜と同じ楽譜は、身体に染み付いていた。


「陽くん……すごいね。本当に初見?」


「あ、いや、たまたま予測しやすかっただけだよ。水都もすごいね。これは審査員もみんな感動しちゃうよ。」


「えー、そうかなあ。」


「楽しみだね。」


「……うん!」


 冬の日差しの逆光の中、水都は嬉しそうにニコッと笑う。


 昨日のアンコン予選で、悔しかったはずなのに。

 みんなの成長を喜んで、しかも自分もチャレンジ、か。


 ……本当に、逞しくなった。

 僕がいなくなっても、歩み続けられるだろう。


「仮にもし全国なんて行けたら、それこそ『桜』の季節になるね!」


「……そうだね。」


 僕は今、笑えているだろうか?


 向こうでは、水都がいなくなった。

 こっちでは、僕か……。




》12月14日(土) 陽自宅



 夜一人、デスクに向かう。


「あのズレ……。」


 水都が()()()で『さくらのうた』を持ってきたのは、多分12月16日(月)。

 そこはよく覚えていないけれど、その週の土曜に「やはぎかん」の予約を入れた。

 そして、ガス爆発に巻き込まれて、水都は来なかった。


 ということは、ガス爆発は12月20日。そのはずだ。


 だから、その金曜からの家族旅行を、無理を通してでも受け取ってもらった。

 取引先からいただいたもの、だと。


 もうそれで大丈夫と思った。

 でも、ズレが出ている可能性もある……?


 まあ、気にするほどのことでも無いか?

 もしガス爆発の日がズレたとしても……水都が、怪我のために逃げられないということも無い。

 今まで散々、いろんな人の未来を変えてきてしまってるのだから、ズレが起こるのは当たり前、だよな……。


 引き出しを開け、命書を見る。

 そこには八人の名前が書かれている。

 「●●日」という単位とともに。


「で、水都の寿命が仮に80年として、僕の寿命が48年。僕が今16歳だから、差し引いて32年。単位が『日』だから……」


 電卓を弾く。


「……『万』の単位までマイナスのケタが行くと、もうアウトだな。」


 はは、と投げやりに笑う。


 光筆も、結局見つからないしな。


 大翔の訳には、三神が神器を使いこなせなかった、ともあった。

 おそらく、僕の音楽はまだ、天の領域には届いていないんだろう。


「……ふぅ。」


 ボロボロのノートを前に、一人シャーペンを回す。


「水都は大丈夫かな……。」


 昨晩、水都が高熱を出したらしい。

 彼女とのLINEのやり取り。


{ごめんね。今日の部活、休みます。}


[了解です。どうかした?]


{えっと、熱出ちゃって。今、病院に来てる}


[え!? 大事にしてよ? 大丈夫?]


{うん、お母さんが一緒に来てくれてる。また、診断結果が出たら教えるね。}


[了解、無理しないでね。]


……


{結果、インフルでした。}


[そうかー。安静にして、しっかり休んでね。薬はもらった?]


{うん。今日のリーダー会、出たかったから残念だけど……}


[こういうとこまでしっかりしなくていいから。自分を大切にしてね。]


{それは陽くんもだよー。}


[まだ冗談言えるなら大丈夫……じゃないでしょ!今、家?]


{うん。}


[なら、メッセージも無理しないで、ゆっくり休んでね。]


{そうさせてもらおうかな。そろそろ眠たくて。}


[そうしてね。連絡ありがとう。ゆっくりお休みね。]


{陽くん、ありがとう。}


……


[水都、調子はどう?]



 ……それから、既読は付かない。

 まだ休んでいるんだろう。


 カーテンを寄せて、窓を少し開ける。

 河合家の方を見ると、家族は出掛けているらしく、リビングの電気は消えている。

 水都の部屋の常夜灯がついているのが、隙間から見える。


 ……まあ、大丈夫だろう。

 万一のチケットも、渡しているしな……。



 ———待てよ。


 命書を再び開く。


『運命に逆らい 人の寿命に直接作用して生じた歪波は 自身に返る』……


 チケットを渡すこと自体、人の寿命に直接作用することじゃないのか?


 ガス爆発を回避させるのだから。

 

 それなら、チケットを渡した時点で、この命書には記載が増え、僕は死んだはずだ。


 しまった……


 でも、どういうことだ?


 記載は増えておらず、僕は死んでいない。


 カレンダーを見る。

 赤丸がついているのは、来週の20日。


 彼女たちが旅行に出発した瞬間に、運命が変わる? だから今はまだ———


 いや、待て。

 そんな訳は無い。

 チケットを渡しても、運命を変えられていないということだ。


 まさか———


「この日じゃ、ない……!?」


 向こうでは、水都が怪我をしていて、逃げ遅れた。

 こっちでは、水都は怪我をしていないから、逃げられる、はず。


 でも、今の状況は?


「インフル……?」


 ゾワリ、と背筋に冷たいものが走る。


 高熱で動けない。

 家族は看病疲れや買い物か何かで出払っている。

 家には一人きり。


「水都が逃げられない条件みたいなものが揃ってる……まさか、運命が『帳尻』を合わせにきてるのか……?」


 そんな……まさか……。


 ……ピピ、"……です"


 うん?

 何だ?

 どこかの目覚まし時計か?


 耳をすます。

 窓の隙間から、冷たい風と共に、その音は入り込んでくる。


 "ピピピピ、ガス漏れです。ピピピピ、ガス漏れです。"


 その方向は。

 窓のすぐ向こう、暗がりの中に常夜灯だけが寂しく光る、北側の隣家————



 河合家から!?



 ————————————ッッ!!!!



 今日、かッッ!!!



 僕は道具一式を入れたリュックを掴み、窓から外へと飛び出した!!





》数十秒前 河合水都



 ……ピピ、"……です。"

 ……ピピ、"……です。"


 ・・・。

 あれ、何だろう。

 誰かの目覚まし?


 外は、もう暗い。

 大分寝てたみたい。


 ベッドから起き上がってみる。


(熱、まだあるなあー。)


 フラフラする。

 薬……は、下か。


 お姉ちゃんたち、出かけるって言ってたし、何とか自分で取りに行こう。


 壁を伝いながら、ドアノブに手をかける。

 ん? 何か匂う?

 玉ねぎが腐ったような、鼻につく嫌な匂い。


 ドアを開けてみる。


「……っ!?!」


 "ピピピピ、ガス漏れです。ピピピピ、ガス漏れです。"


 開けると同時に鼻をつく、すごく強いガスの匂い!


「あ……」


 グラリ、と視界が回る。

 たおれ……た……?

 床が、冷たい。


 ガス、漏れ……?


 これは、マズい、か、も……。


「陽……くん——————・・・





明日も更新します。

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