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第63話 【オーメンズ・オブ・ラブ】9月13日 夢の続き、北高フェス!


》岡崎市民会館 あおいホール



「すみません……そこ、詰められたりします……か……?」


「……あ、はい! どうぞ! おい、詰めろ!」


「本当にごめんなさい。」


「いえいえ、ぜひどうぞ。」


「ありがとうございます。」


「ありがと。」


 通路から、親子連れが座る。

 席を詰めた男子生徒三人組が、お礼をしてくれた三歳くらいの子どもにニコッと笑う。


「でも……スゲェな。」


「……ああ。」


 一人が振り返りながら言い、残る二人も視線を後ろに向ける。



———満員の、あおいホール。



 二階席も一杯どころか、後ろの方は通路にも立ち見ができている。


「去年もこうだっけ?」


「いや、あまり覚えてないけど……北高生だけだった気がする。」


「去年も保護者、来て良かったんだろ?」


「変わってなければ。」


「今年は、あれか? 吹奏楽部。」


「……じゃないのか?」


「よくわからん。うちの吹奏楽部って、そんなにすごいのか?」


「東海大会行ったって聞いたけど……。」


「ホラ、あれ。」


「うん?」


 一人の男子が指差す先には、腕章を付けた記者と、TVカメラが。


「わお……。」


「……俺は音楽、よーわからんけど。なんか……空気が、ビリビリしてね?」


「そーかもな。」


 そこに、男子生徒のブラウスを引っ張る小さな手が。


「ん?」


 男子生徒が気付き、他の二人もそれを見つける。


「みくちゃ、すごいんだよ。」


「……みくちゃ?」


「みくちゃ?」


 男子二人が顔を合わせた時、


 ブーー・・・、と会場のブザーが鳴った。



   *  *  *



 北高祭、最終日。



 体育祭、文化祭と続き、最終日は“あおいホール”を午前貸し切っての、ステージ演目が開かれる。

 進学校であるため、矢作北高は体育祭と文化祭をまとめて行う。

 そして三年生はいよいよ大学受験に向けて120%舵を切るため、最後の祭とも言える。


 音楽部、演劇部、書道部パフォーマンス、ビブリオバトル部と、次々と披露され、その度に大きな拍手が送られた。


———そしてステージのラストを飾るのは、吹奏楽部。


 これを目当てに来ている保護者も多く、始まる前から会場はソワソワとしていた。


 大翔が簡単な曲紹介をした後、いきなりフルアクセルのハデ北サウンドが———

 爆発した。


『ドンッ!ドドンドン ドンッ!ドドンドン!———』


 みんなが知っている“アフリカン・シンフォニー”。ホルンの倍音が100頭以上の象の鳴き声に聴こえるサウンドで、会場はど肝を抜かされる。


 曲が終わって大きな拍手が起こるが、さらにステージ上に緊張感が走る。

 それを感じた観客も、「何かが起こる」と察し、息を呑む。

 ———そして始まる、


『パパパーーーーン!!』


 というファンファーレ!


 “アルメニアン・ダンス パート1”。


 コンクールからさらにパワーアップしている完成度の“三象限の音楽”が、たちまち観衆とステージを一つにした。

 男子三人組も然り、吹奏楽に興味が無い観衆のほとんどを飲み込み、一緒に笑い合う音楽が目の前で演出された。


「ワアアアーーーッ!!」


 と歓声が上がると思いきや、すぐさま“J-POPバズりメドレー“がスタート。

 会場の空気は一気に華やかになる。


 吹奏楽定番曲、コンクール曲、J-POPと、七色に変わる音色と演出は、素人の一般高校生すらも引き込むものだった。



———そして、大翔が再び前に出る。


「……次が、最後の曲になります。」


 えええーーっ? と大きな声で子供のように反応する、会場の高校生たち。

 それを確認して大翔がニコっと笑うと、最後の曲、”オーメンズ・オブ・ラブ“が紹介され、音楽がスタートする。


 ティンパニから始まる壮大な導入。

 中低音から積み重なるように盛り上がっていく前奏。

 チャイムと同時にテンポアップすると、ステージの全員が手拍子を促し、会場全体に伝播する。

 Aメロからパートが主役になるごとに、陽が立たせ、マイクで紹介していく。

 その度に愛ある大きな拍手が送られる。


(……見てください。先輩たち。これが、皆さんが作った景色です。)


 指揮台から見える、満員を超えたあおいホール。

 揺れるペンライトのような手拍子の波、弾けるような笑顔。

 そして何より、目の前でキラキラと楽器を吹く、先輩たち。


 あと数分で、終わってしまう。

 この時間が……止まらないでくれたらいいのに。

 心臓が痛いくらいに、幸せだ。


 そしてサビ!

 パーカッションはステップを踏みながら、ジャンプしたりして一緒にパフォーマンス!


 ———みんなで吹う音楽。


 最初から最後まで、「聴いてくれる人を大切にする音楽」を貫いてきた、矢作北高校吹奏楽部。


 今日ここに来た誰もがそれを分かるパフォーマンスだった。


 中間部、木管ユニゾン。

 二年生の木管全員がステージ中央に集まり、一斉にユニゾンを吹く。


 会場全体も、「ああ、この子たちが今日、引退するんだな」と分かり、温かい眼差しで見ている。

 オーメンズ特有の難しいパッセージを吹き切り、手を振りながら解散する。

 会場からは大きな拍手が送られ……


 続いて、金管。

 一段高い段に同じく二年生が集合し、全員でユニゾンを吹く。

 今度は手を振るどころか、全員でポーズを決め、()()()()()笑いが起こる。


 最後のサビが終わり、フィナーレへ。

 前方のパートから順番に立ち上がり———ベルアップ、ドラムアドリブでフィニッシュ!


「ワアアアーーーッ!!」


 会場から、鳴り止まない拍手。


 陽が指揮台を降り、改めて合図を出して全員を紹介すると、一層拍手が強くなる。


 舞台袖に移動をしようとした瞬間から、


「「「アンコール!! アンコール!!」」」


 パチ、パチというより、『ザンッ! ザンッ!』というように、大ユニゾンになっている手拍子!


「「「アンコール!! アンコール!!」」」


 陽が出し惜しみせず、舞台袖に下がる途中で引き返すと、


「「「ワアアアーーーッ!!」」」


 絶叫が含まれる歓声とともに、大拍手がステージに向けられる。


「スゲェな……。」

「ああ。吹奏楽でこんなゾクゾクするの、俺初めてだわ。」

「俺もだ。」


 先ほどの三人組も手を叩きながら目を合わせる。


 すると、拍手が静まらない中、数人のメンバーが前の方に出てくる。


「きた!」


「うん?」


 隣に座る紗希の声に、驚く三人。

 紗希は、身構えるように、背筋を伸ばした。


 ライト、ダウン!

 スポットが、真ん中に当たる!


 ドラムのフィル!『ダルル・ダ・ダルルルッ!』


『パッパッパパッパ!!』


 結愛の“BAD MOON”、発進!

 サックスの、サックスによる、サックスのための音楽、ここに見参!


「うわあ!」

「ライヴ!?」

「待ってたの!これ、待ってたの!」


 さっきまでの拍手からか、歓声を自由に出しながら観衆が聴く。


 熾烈な十六分音符!

 ピシャリと揃うリズム!

 スカ・バッキングがサビを盛り立てる!


 悠とヒデシーのセッション!

 スカ・チームのキュートン(ポーズ芸)!

 結愛の超・超高校生級のアドリブ!


「わあ、マジかよ!」

「プロやん!」

「おい、鳥肌! 腕見てみろって、ヤベェ!」

「心臓に音がドカドカ来てるって!」

「本当に高校生かよ、これよ!?」

「これ、金払わんでいーの?」

 

 あちらこちらで歓声が飛ぶ!


 全員合奏の後の、フィニッシュ!


 両手を上げる結愛に、最大級の歓声と喚声が送られる!


 そしてすぐさま、”ハイカラ・ミックスモダン“へ!



———・・・



 これは、夢なんだろうか?



 見ているみんなで、合わせて手を振り、歌う。



 こんなに、一体感って、起こるものなんだ。



 ステージの上だけが、キラキラしているわけじゃない。



 私たちも、キラキラしてる?



 こんなに、吹奏楽って、楽しいんだ。



 吹奏楽って、すごいな。



 ステージの上の景色が、涙でキラキラと滲む。



 もう、終わっちゃうなんて、嫌だな。



 1秒でも長く、この景色を見ていたい。



 この時間が、止まらないでくれたらいいのに。



 ずっと、こうしていたい———。



———「一緒に(レッツシング)吹おう(トゥギャザー)!!」



 アンコール曲が、終わった。


 大きな大きな、拍手。歓声。指笛。

 それにカーテンコールのように応える、七人とステージ上の全員。


 大きく手を振ってから、ステージ上の全員が再び、配置につく。


 会場が、静かになっていく———。



 ……再び、大翔が袖のマイク前にやってきた。



「———それではこれから、この場をお借りして、恒例の引き継ぎ式を始めさせていただきます。」





引退式——————。

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