表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/71

9話 4月13日 勝利の方程式の『How』(1) プレコンに向けて

》2ndフルート 河合水都



「「「かんぱーい!」」」



 土曜午前の練習の後、みんなで学校近くのサイゼに来て、ご飯を食べようということになった。

 何の乾杯なんだか、と言いながら、みんなで笑い合う。

 いいな、こんな雰囲気。


 いつもの同じクラスの五人と、オーボエの愛菜(まな)ちゃん、あとパーカッションの柳沢(ゆう)くんも、みんなで行くと聞いて、ついてきた。



「石上ぃ、お前いったい何モンなんだ?!」


「ブッ!」



 ポテトフライをつついていた悠くんからの質問に、陽くんが飲み物を吹きそうになり、少し咳をする。



「ケホっ、・・・いきなり何だよ?」


「わりぃ、だってよ〜、あんな練習、やったこと無かったなってことがほとんどでよ。ブレストレーニングとか。」


「それよ、わざわざ先生まで呼んでくれてさ、すごいよね! あれ。」


 未来が手振りをしながら話す。



「はは、僕も教えてもらったことだけど……ユニゾンって結局『息を合わせること』をしないと、合わないんだよね。

 倍音、ミックストーンのことについて先輩たちの理解をもらえたから、次は一気に盛り上げるために、教えてもらった人に来てもらうのが、一番かなって。」



 陽くんのあの話の翌々日、陽くんのお知り合いというミュージカルの先生が矢北まで来てくださって、素早いブレスや発声を合わせる練習など、腹式呼吸を意識した特訓を受けた。

 先輩たちも含めてみんな最初は戸惑っていたけど、基礎合奏の前に同じ練習を続けることで、何となく違いが出てきたように感じる。



「懐かしいね〜。私たちも、あそこから始めたね〜。」



 話を聞きながら、美音ちゃんが頬杖をしながらニコニコ言った。


「? 美音、どういうこと?」


「9月に美島中に陽くんが来てから、教えてくれたんだよね〜。文化祭が終わったら引退って時だったけど〜。」


 未来がメロンソーダをストローで飲みながら、?と首を傾げると、大翔くんが付け加える。


「三年生はもうすぐ引退って時、日本に戻ってきた陽が吹部に入ってきたんだ。頭を下げながら、『上手くなる方法、勉強してきたので、少しだけでも一緒にやってみませんか』って。

 コンクールも終わって受験もあるし、ほとんど誰もやらなかったけど、俺と美音、他何人かは練習を続けてみることにしたんだ。それで、一気に上達したんだ。」


「そうそう〜。アンコンまで頑張ってみようって話になったけど、その五人で勝ち上がったんだ〜。私たちもびっくりだったよ〜。」



「……あーーー! それでかーー! ウチらが負けたの!」



 未来が、ぐぬぬと呟いている。



「一人は竜海、もう一人は静岡に引っ越しちゃったけど、みんな、陽くんの練習で上手くなったって思ってるよ。水都ちゃんも、ブレストレーニング、一番熱心に練習してたね〜。先生に言われてもみんな恥ずかしがってたけど、一番最初に始めてたね。残ってもやってたし〜。」


「! そんな……。とにかく、上手くなれるなら、なんでもやりたいって……だけだよ。」


「実際やってみて、どう感じた〜?」


「うん、そうだね……なんか、楽しかったよ。上手くなってる感じ、してる。」


「ふふ〜、よかった。私たちも、今週やったブレストレーニングも、ソルフェージュも、ずっと続けてきたよ。一緒にできるね〜。

 水都ちゃんなら、すごく上手くなると思うよ〜。」



 美音ちゃんが嬉しそうに話すと、陽くんが付け加えてきた。



「ブレストレーニングは水都と柵木(ませぎ)さんにとって、特に良いかなって思って。」


「えっ……どうして?」


「二人とも音量が足りないことを気にしてそうだったし、ユニゾンを合わせにくいオーボエや、息が足りなくなりやすいフルートは特に、全員で息を揃える練習は大切なんだ。」


「……! そ、そうなんだ……。あ、ありがとう……。」



 隣にいる愛菜ちゃんが、感激を我慢しているような表情をしながら返事をする。

 すると向かいの未来が、不貞腐れてストローを咥えてしまったまま、聞いてきた。



「…………ねぇ、あのアプリも?」


「……ああ、そうだよ。あれで俺たちは基礎力が上がったんだ。」



 大翔くんが続けて話す。


「ユニゾン練習とは違い、音の形・リズム感・タイミング・アーティキュレーションとかの練習は、個人練習の裁量が大きい反面、自分がどれだけズレているかはわかりにいけれど……あのアプリに録音しながら練習することで、自分にどういうクセがあるかが『視える化』されるから、すごくわかりやすいんだ。」


「アレな! すげぇよな! 太◯の達人みたいでよ!」



 陽くんが紹介してくれたあのアプリ、本当にすごい。

 一人一人のスマホにマイクを接続して、基礎練習の楽譜が画面に流れて来るのに合わせて数回録音すると、楽譜を見直す際に、赤はタイミングが早い音、青は遅い音というように表示されるようになっている。

 音の形も認識できるみたいで、難易度のレベルを変えると、十六分音符の強拍・弱拍、スタッカートやアクセントの違い、フォルテピアノなどの練習もできるみたい。



「普通、自分の音を録音して、それを聴いて、ということを繰り返すことが効果的だけど、そんなことやってたら夏までに時間が無いからね。

 基礎練習のパターンも楽器ごとに入っているよ。

 特に、アプリの中に入っているメソッドは名京大名電も行なっていて、『個人のためのチェックリスト60』と、『曲練習のためのパターン18』は、ゲームのように攻略していってほしいから、個人レクチャーの時にも使おうと思っているよ。」


出典


「なぜ彼らは金賞をとれるのか~10人の吹奏楽指導者が語る強さの秘密~」ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス

「吹奏楽新時代の指導メソッド: 今日からはじめる!すぐできる! 」オザワ部長 著

「吹奏楽のための読譜とソルフェージュがわかる本」広瀬勇人 著

「パワーアップ吹奏楽!オーボエ」宮村和宏 著

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ