表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/61

1話 プロローグ

 …………何か、音が聞こえる……。



 僕は、どうしたんだ?

 いつの間に、空を見て、寝ているんだ?



 ……誰か、寝ている僕に叫んでいる。


 ブロンドの女性と……子供?




 …………ああ、さっきの……車に轢かれそうになった……。




 そうか、庇ったんだっけ。




 子供…………ああ、助かったんだ。良かった………。



 それで、僕が寝ているの、か。



 …………身体が、動かない。


 というか、手足の感覚が、無い。



 これじゃあ、もう指揮棒は、持てないな…………はは…………。


 それどころか、痛みも何も、感じないな……。




 女性が、大粒の涙を流しながら、僕に何かを叫んでいる。


 これは、もうダメなのかもな……。寒い……。






 ……水都(みと)、僕は、役に立てたのかな…………。



 指揮者、なったよ。それなりに、ヨーロッパでもがんばった、よ。




 でも、一番に……水都の力に、なりたかった、な…………。




 今の力が、あの時にあったら…………水都の夢を…………叶えられたの……か…………な………………






———————————-……






 ……目を開くと、天井がすぐ目の前に、ある。


 いや、天井……じゃない。二段ベッドの、上の段の底?


 誰かが運んでくれたの、か?



 ここは……知っているような……うん? 身体が、動く。



 なんだかよくわからない。

 とにかくベッドから降りて…………って……



「ええ!?」



 身体が小さい!?


 このパジャマも…………小学生用、か?



 周りを見渡すと………知っているような、知らないような…………いや、ここは子どもの頃住んでいた、団地!?



(よう)? おはよう。どうしたの? 変な声出して。」


「母さん!!?」



 日本にいるはずの母さんが、なぜここに? あれ、白髪も……というか、若い!?



「どうしたのよ? 寝坊はしてないわよ? しっかりしなさいよ。ほら、ご飯できてるわよ。」



 ……意味がわからない。



「寝坊って………何の?」


「…………あんた、頭大丈夫? 小学校に決まってるじゃない。今日はまだ金曜よ。……寝ぼけてるの?」



 …………小………学校?



 僕は洗面所に走り込み、鏡を見た。


 ……鏡に、背伸びしてようやく顔が見える。


 これは…………小学生の……自分!?



「母さん、僕、何年生…………だっけ?」



 ……母さんが、いよいよ疑いの目でポカンとしている。



「……はいはい、顔洗って。ちゃんと着替えといで。4年3組、石上(いしがみ)(よう)くん。」



 ……4年生……。 4年生?

 僕は、過去に戻ったの、か…………?



 さっきまでのは、夢?

 …………じゃない。記憶も、今までのことも、はっきり覚えている。



 ……ベッドの部屋に戻り、出されている洋服に着替える。 

 ……確か、こんな服。あった。昔着ていた、母さんチョイスの、服だ。



 じゃあ、これは小学生の時の、僕と弟の部屋、か…………と思ったら………




 僕の枕元に、何か光る物がある。




「…………?」




 近づくと…………それは、本。

 黄色く光っている、本。

 

 しかも、何だ!? 浮いてる!?



(え? え……? な、なな何だ? こんな、こんなファンタジーな物!?)



 本を、手に取る。

 ……特に痛みや、嫌な感じは無い。


 冷たくも、熱くもない。


 表紙に、何か書いてある。



「『歪波(ゆがみ)の…………命書(めいしょ)』?」



 表紙に、『歪波(ゆがみ)命書(めいしょ)』と、大きく日本語で書かれている。



 ……分厚い表紙をめくると、冒頭に説明書きのようなものが、インクではなく燃えた跡のような文字で、このように書かれている。



 『運命に逆らい 人の寿命に直接作用して生じた歪波は 自身に返る』



(…………運命に逆らう? 寿命に作用すると、返る……?)



「陽! 着替えた? いい加減、ご飯食べなさい!」


「あ…………うん、ごめん、今、行く。」



 ……僕は怪しい本を布団の下に隠し、食卓に向かった。




   *  *  *




 小学校から帰宅後。



 僕は布団の下から、あの本をもう一度取り出した。

 ……相変わらず、浮いて、黄色く光っている。



 小学校は、昔のままだった。というか、昔そのものだった。

 名前も忘れたかつてのクラスメートが、全員いた。先生も。

 算数、国語……こんなのやったかな、やったな、と思い出しながら、授業を受けた。


 帰る最中も、給食当番の白い袋をポンポンしながら、あの言葉を考えた。



 『運命に逆らい 人の寿命に直接作用して生じた歪波は 自身に返る』…………。



(運命に、逆らえる…………?)



 試しに、母さんに聞いてみる。



「…………母さん、リウマチの痛みは大丈夫?」



 洗濯物を畳む母さんの手が止まり、また僕に疑いの目が向く。



「……リウマチ? テレビの見過ぎじゃない? お母さん、どこも痛くないわよ? ああ、肩なら痛いから、揉んでくれる?」


 …………うん、いいよ、と言い、母さんの近くに行き、肩を揉みながら考える。



(やっぱり、母さんはまだリウマチになってない。これから起こることなんだ。

 …………『運命に逆らえる』、なら、これから起こることも、人の運命も、変えられる………。


 ………!!)


「……ちょっと!?」



 走って僕は自分の部屋に戻り、机で新しいノートを「バッ!」と開く。



(今日は2018年4月24日。水都の……確かあの日は…………新聞記事を思い出せ………。)



 ノートに、

『2020年4月12日14時31分、東岡崎駅前交差点で轢き逃げ事故、水都、右大腿骨損傷』

 と書く。



「…………よし。」



 …………もう一度、黄色く光る本を開き、一文を読み、フウッと息を吐く。



 『運命に逆らい 人の寿命に直接作用して生じた歪波は 自身に返る』



「…………やってやる。やってやるさ。寿命がなんだ。せっかくもらった、チャンスなんだ…………。」



6話目までがオープニングとしての一つの区切りとなります。

お読みいただければ幸いです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ