1.一目惚れ
いつもお読み頂きましてありがとうございます。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
「貴女に一目惚れしました。ど、どうか私と結婚して頂けませんか!!」
その言葉と瞳に込められた熱量は通常であればプロポーズと呼ばれるもので間違いなかっただろう。だからこそ真剣に自分を見つめる男の瞳に宿る熱量にイーリスは目を瞬いた。
何故、今なんだろうか?
何故、今日なんだろうか?
何故、このタイミングで?
全て同じような疑問が脳裏過った後、再び現実に戻って来たイーリスは自分の前で膝をつく男性に意識を戻す。今にも泣き出しそうな表情で、でも隠しきれない自分への好意を前面に押し出す男性に先ほどまで感じていた恐怖とは別の意味でイーリスは口内に溜まった水分をコクリと飲み干す。そして覚悟を決めた。
「どこのどなたかは存じませんが、私を望んでくださるお気持ちは嬉しく思います。ですが、私は今から処刑をされる身の上ですので、貴方の妻になるのは難しいかと思います」
断頭台に手と首を嵌め込まれ、後は落ちてくる刃によってこの世と別れを告げるのを待つ自分は淡々と事実を述べる。牢屋に入れられてから、水も食料も満足に与えられず、体力など等に尽き果てた中で振り絞った声はまるで蚊の鳴くような声だっただろう。
しかし……そんなイーリスの言葉を他所に男は満面の笑みを浮かべると首を振った。
「ご安心ください。そんな些末なこと、私にかかれば問題ございません」
そう言うが早いか男は手の中に光を集めると、自分の目の前に差し出してくる。その意味が分からず、目を瞬くだけのイーリスの前で男が何か甘く囁いた次の瞬間。
ーポン
光が間抜けな音を立てて、一輪の花へと変わる。その花を目にしたイーリスはポツリと思わず呟く。
「……………きれい……」
17年という人生の中で様々な人間の汚い部分ばかりを見てきたイーリスにとって光の加減で色を変えるその薔薇はこの汚いばかりの世界で唯一の光に見えた。そんな少女の様子に満足気に笑った男は再びを熱い視線を向ける。
「やはり僕に必要なのは君のようだ……」
呟くが早いか“パチン”と男が指を鳴らすと、イーリスを拘束していた断頭台は消えた。急な支えを失って態勢を崩すイーリスを危なげなく、抱き止めた男は自分を見上げる少女に微笑む。
「これからよろしく。僕の華嫁」
そう言って自分の薄汚れた頬にキスを落とす男を見上るイーリスに分かったことは自分の差し出される一輪の薔薇が風にその頭を揺らす中、まさしくこれも【公開処刑】だということだった。