1-8 いつもの光景
ふとあの日の出来事を思い出していた竜虎は、無明の返事を待つ。
あれから五年経ち、ふたりは十五歳になった。妖者退治に関しては今のところ無明の方が勝っているが、背丈と同じようにその内追い抜いてやる予定だ。
「明日は早いから、近場のこっちかなっ」
「よし、決まりだな」
仲の良いふたりの横で、むうっと璃琳は頬を膨らませる。
「ふたりとも、ちゃんと私を守ってね!」
「怖いなら無理してついて来なくても····」
「私はふたりの監視役なんだから、ついて行くに決まってるでしょ!」
はいはい、と竜虎は自分の肩の高さ辺りにある璃琳の頭をぽんぽんと叩く。単に仲間外れが嫌なだけのくせに、と素直じゃない妹の性格に同情する。
「心配しなくても大丈夫だよ? 璃琳は俺が守ってあげるから」
ふたりの会話を聞いていた無明が、璃琳の前にいつの間にかさっと立ち、見返りも悪気もなくいつものように笑った。
仮面の奥の瞳は相変わらずよく見えず、璃琳は馬鹿っ! 痴れ者! と竜虎を盾にして怒鳴りだす。しかし当の本人は怒られている理由がわからないため首を傾げ、興味をなくしたのかくるりと背を向けてさっさと歩き出してしまった。
(なんなのよー! もうっ!! ばかっ)
暗闇のおかげで、耳まで真っ赤になった顔を晒さないで済んだのが、せめてもの救いだ。
夜に相応しくない賑やかしい一行が向かうのは、紅鏡の北東の外れ。遠くに見える北の森の奥で、他の術士たちが今夜も妖者退治を行っている中、三人は北東の方へと歩を進める。
月明かりと、仄かな灯。
澄んでいるはずの夜空にあるものがないことを、三人は気付いていなかった。
それがこの先に待つモノの不吉さを物語っていたことを知るのは、もう少し後のことである。