1-7 三人だけの秘密
「あなたは余計なことをしないで頂戴、」
「夫人、相手はまだ幼い子どもです。手をあげるのは感心しません」
虎珀は義弟たちの間に立ち夫人を諭そうとするが逆効果だったようで、ますます姜燈夫人の顔が苛立ちを顕にした。
いつまでも収集がつかない現状に、宗主は仕方なくこほんとひとつ大きな咳をして注目を自分に向けさせる。このままでは、ここに集まっている従者や他の術士たちに恥を晒すだけだ。
「皆が無事だったのだから、もう良いだろう。落ち着いてからふたりに事情を聞けば、なぜこのようなことになったか解る。決めつけるのはよくない」
「なんですって!?」
「虎珀、弟たちを頼んだぞ」
「はい、父上」
宗主は有無を言わさず、諦めきれない夫人の肩を抱いて先に去って行った。続いて他の術士、従者たちがやれやれという顔でその後をついて行く。
前を歩く虎珀の後ろで、三人は大人しく綺麗に縦一列になって歩いていた。そんな中、弾むような足取りで一番後ろを歩いている無明に対して、ふたりはひそひそ声で訊ねる。
「なあ······本当にだいじょうぶか? 母上の平手打ちは最強に痛いんだ。俺も一度されたことがあるからわかるよ、」
大切にしていた花瓶を割ってしまった時があり、竜虎はそれをくらっていた。頬ではなく、その時は手の甲だったが。
璃琳はおずおずと竜虎の袖を掴み、俯いているようだ。そもそもこの事態は、璃琳が森に行ってみたいという駄々を、竜虎が同じく興味本位で叶えてしまったせいだった。
森は危ないというのは知っていた。しかし昼間なら妖者もいないので、問題ないと思ったのだ。その結果道に迷い、宛もなく彷徨ってしまったせいでこのような大事に····。
「こんなの、全然へーきだよっ」
いつもなら自分たちをいらっとさせるへらへらした笑い方が、今はなぜかふたりを安心させる。
「あ、そうだ! 俺が術を使ったことは、みんなには内緒にしてね?」
人差し指を立て自分の唇にあてると、ふたりだけに聞こえるように耳打ちする。理由は聞かず、こくりとふたりはただ大きく頷いた。
この瞬間から、この夜のことは三人だけの秘密となったのだ。思えばこの時から無明の才能は開花していたのだ。たった十歳で、しかも符だけで、あの凶暴な妖者を倒したのだから。
竜虎はこの日を境に、自分からすすんで厳しい修練に励むようになるのだった。




