2-14 白鳴村の悲劇
村に着いたのは宗主が言った通り夕刻前だった。白鳴村の入り口付近。眼前に広がった光景の異様さに、その場にいた者たちの足は否が応でも止まってしまう。
「あ······あ··········これ、なんです?」
清婉はガタガタ手足を震わせながら、その光景に驚愕する。緊張して掠れた声がその証拠だろう。見慣れている者たちでさえも禍々しいと思うくらい、目の前に広がる光景は凄惨なものだった。
村全体を包むように白い糸が張り巡らされ、宙に浮くように逆さだったり、捻じれていたり曲がっていたりと。村人だっただろう者たちが、操り人形の如くその糸に括られていたのだ。
それはまるで蜘蛛の糸に捕まった虫のように、飾られた蝶のように。それぞれぴくりとも動くことなく村中に点々と存在していた。
「い、生きてますよね? こんな人数、全員、死んでなんか、いないですよ、ね?」
糸に括られた村人らしき者たちを、白冰、白笶、それから雪鈴と雪陽がそれぞれ確認して回っていた。そんなに大きな村ではないが、動いている人間が全くおらず生き物の気配すらなかった。
「清婉は俺たちの後ろにいて?」
「は、はい、そのつもりです、が······無明様、これは、妖者の仕業ですか? こんなこと、本当に、」
「俺は遭遇したことがないが、こんな村規模で大勢の人間の精気を喰らうなんて、もしかして妖獣の仕業なんじゃ······」
妖獣は今はほとんどいないと言われているが、いないわけではなく、姿を滅多に現さないというだけだ。ただひとたび姿を現せば、村ひとつどころか都だってただでは済まないだろう。竜虎は無明の代わりに答えながら、胸の内で考えを巡らせる。
(糸に括られてる村人たちは、まるで生きているようだが、精気がない。この強い妖気がこもった糸を見る限り鬼蜘蛛の仕業か?)
奉納祭のために白群一行がここを通ったのは八日前と言っていた。その時は何の異変もなく、一泊して立ち去ったとのこと。
「······なにか、聞こえる」
無明はもっとよく聞こうと目を閉じて集中する。やはり、なにか聞こえる。聞いたことのないその音は、何とも言えない奇妙な音だった。
「いや、なにも聞こえないぞ。ただの耳鳴りじゃないのか?」
聞こえる、と無明は首を振って否定する。しかしどんなに耳を澄ましても、竜虎にも清婉にも聞こえず、ふたりは首を傾げた。




