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第七章

「あら……! こんなところでまた会うなんて、運命かしら!?」


 聞き覚えのある声が背後から飛んできた。



 振り返った先には……異世界にきて、初めてナンパしてしまった母親ウサギがいた。


「まぁ! とっても可愛らしいうさぎさんね!」


 アリスは母親ウサギを抱き上げて、すりすりと頬ずりをした。アリスは可愛い動物に目がないのだろう。


「ご無事だったんですね……!」


「そうなのよ! あなたと別れて、家に戻ったら、爆発のようなものが起きて! 家に入るのがあと少し遅かったら、危なかったわ……! 土の中で暮らしていて良かったわぁ。また会えるなんて、何かの縁かしらね!」


 僕の声だけ聞こえているアリスとイリアは、きょとんとしながら見守っていた。


 母親ウサギの言葉を聞いて、スキルの発動によって森の一部を破壊していたことを思い出した。一緒にいた子どもも無事だったのだろうか、と母親の周りを見渡す。それを察したかのように、母親は続けた。


「大丈夫よ。あの子、リアムも元気よ。そうそう、自己紹介がまだだったわね、私はオリビアよ。あなたは?」


「僕はマコトです。オリビアさんも、リアム君も元気でよかったです。あれから、旦那さんの体調はいかがですか……?」


「うちの旦那の心配までしてくれて、相変わらず優しい子ね……! 一命は取り留めているけれど、どうすることもできなくて……」


「マコト、このうさぎさんは何て言ってるの?」


 深刻そうな話を察してか、アリスが事情を聞いてきた。


 僕は初めて森で出会ったことや、家族がいて父親が怪我を負っていることなどを話した。


 すると、何かを閃いたのか、勢いよく立ったイリアが提案をしてきた。ふと、甘いシャンプーが鼻をかすめた。


「断定はできませんが、創成魔法を使えば、助けることができるかもしれないです……! でも……」


 イリアはそこまで言って口ごもったが、それを遮るようにして提案を受け入れた。


「イリア! やってみよう!」


 イリアの作戦はこうだった。イリアの知っている回復の創成魔法を僕に伝授し、その魔法を父親ウサギにかけるというもの。実にシンプルだった。


 口ごもった理由も聞いたが、納得したのは随分と後のことだった。


 アリスとイリアはうさぎの巣には入れないため、巣の近くで待機してもらって僕だけ付いていくことにした。




 巣へと続く土の下のトンネルは、ひんやりとしていて、ウサギ一匹分がギリギリ通れるほどだった。地上の光が届かなくなる頃、親子が住む巣へと到着した。


「こんにちは!」


 可愛らしい男の子が出迎えてくれた。


「君は……リアム君だね! 久しぶり!」


 僕の半分ほどの大きさをした子ウサギは、同じ動物の僕からみても可愛かった。


「旦那のスヴェンはこっちの部屋よ、付いてきて」


 オリビアさんに誘導され、隣の部屋へと移動した。


 そこには、葉っぱのベッドに横たわる父親ウサギ、スヴェンさんの姿があった。苦悶の表情を浮かべたまま荒い息を立てて眠っている。


 脚部から背中にかけて大きな傷があり、化膿しているようだった。


「お願いしてもいいかしら……?」


 オリビアさんが祈るように目を瞑る横に、見守っていたリアム君も並んだ。


 こくりと大きく頷いてみせて、スヴェンさんの横で目を瞑った。


 イリアから教わった魔法を間違えないように唱える。



生命せいめいをつかさどる加護の神よ、けがれなきこの者の心身しんしんを、魂を、癒したまへ――』



 魔法を唱え終えると、スヴェンさんは白く、温かな光に包まれた。表情が徐々に柔らかくなっていく。大きな傷がみるみるうちに、消えていく――。



 成功したのだろうか……。


 ほっとしていると突然眠気に襲われ、その場に倒れ込んだ――。




 ――目が覚めた。


 だいぶ寝ていたようだ。まぶたは重いが、頭はスッキリしている。


 青空が見える。外にいるのだろうか。


「お! 目が覚めたようだね!」


 聞きなれない男性の声が聞こえる。目をしっかり開けて、焦点を合わせる。


「まだ頭が起きていないようだね、無理せずとも、ゆっくりと起きればいい」


 紳士的な声で聞き心地が良い声は……もしかして。


「スヴェンさん……?」


 僕の眠そうな声を聞いて、耳をぴくぴくと素早く動かす。


「そう! 君が助けてくれたんだ、本当に感謝しているよ!」


 スヴェンさんは耳に続き、ひげを素早く動かした。


 ステータスウインドウで状態を確認すると、特に異常はないみたいだ。


 スキル欄には「テレポーテーション」という文字が記載されている。スヴェンさんのものだろうか。ホッとしていると、遠くからアリスの声が聞こえる。


「マコト~!」


 桜色のポニーテールを揺らしながら走ってきた。


「よかった! 目が覚めたんだね!」


「なんか、僕いっぱい寝てた? すごい頭がスッキリしてるんだけど」


 アリスからは驚きの答えが返ってきた。


「いっぱい、なんてもんじゃないわよ! 三日間近く起きなかったから心配したわよ」


「え……!? そんなに寝てたの……?」


 アリスの後ろから歩いてきたイリアが答える。


「マコト様……申し訳ありません。私がきちんと説明しなかったせいで……。回復魔法は一度に大量の魔力を使うため、並大抵の魔法使いでは使えないんです。今回は大丈夫でしたが、一気に使用すると命に関わることもあるので、無理はしないでくださいね」


「いや、ごめんね。聞いた気もするけど、早く治してあげたくて、ついつい……。しかも、そんなに大事なことなのに、聞き流しちゃってたね」


 苦笑いする僕とは反対に、イリアの声は泣きそうだった。


「もう~! イリアのこと泣かせないでよ~!」


 いつの間にか仲良くなっているアリスから、お叱りを受けてしまった。


「よし、三人とも揃ったね。マコト君、彼女たちから聞いたが、どうやらあの『英雄』を探しているみたいだね」


 どうやら僕の目が覚めてから、この話をしようと思っていたようだ。こくりと頷きながら、続きを待った――。



「単刀直入に言おう。彼は南の町セッテホルムにいるよ」


「南の町、セッテホルム……」


 僕たちの旅の次の目標が明確になった。


 アリスと向き合い、大きく頷いた。


「すぐに向かうのかい?」


 スヴェンさんに聞かれ、僕たちは「はい」と力強く返事をした。


「妻も心配していたから、挨拶だけでもしていくといい。呼んでくるから、少しだけ待っていてくれ」


 そう言って巣に戻っていった。


 僕のスキルで巻きこんでしまったと思っていたウサギの親子が生きている。ただそれだけが嬉しかった。


 その後、母ウサギのオリビアさんと、息子のリアム君とも話をした。


 オリビアさんから、お守りとしてシンプルな金のバングルを受け取り、腕に付けた。笑顔で手を振り、南の町セッテホルムへと向かう。


「レオ――」


 僕の足元から、大きな獣のような、立体的な影が現れる。


「主! ご無事で何より! 話は影の中から全部聞いておったぞ! さぁ、乗るがよい!」


 僕たちはレオに乗せてもらった。


 イリアは初めてで驚いていたが、レオとすぐに打ち解けた。



 レオは強く大地を蹴り、南へと駆け出した――。


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