表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/35

第三十章

 大会議が行われる前日。


 王都クロンヘイムにある宿屋「リンデルの館」で夜を過ごした。


 そして今日がその大会議の日――。



 薄っすらと窓から差し込む陽の光で目が覚めた。


 マーカスとイリアは既に起きているようだ。


 部屋の隅でマーカスが支度をしている。


 僕も起き上がろうとしたが、失敗した。


 アリスに片腕をガッツリと掴まれていたのだ。まるで抱き枕のように。


「やぁ、マコト。目が覚めたかな?」


「あ、あぁ……、マーカス、おはよう。えっと、これは、その……」


 マーカスはニッコリとした笑顔を浮かべ、僕の肩をぽんと叩いた。


「青春、青春」


 楽しそうにからかい、一階の食堂へと降りて行った。


 気恥ずかしくなった僕は、少しだけふて寝の意味も込めて、二度寝することにした。


 しかし、飛び切り美人なアリスを目の前にして、二度寝は未遂に終わった。


 惜しい気持ちもあったが、アリスを起こした。


 何度呼んでも、揺らしても起きないアリス。


 仕方なく、腕をするりと抜いて、僕も支度を始めた。


 なんだか、惜しい気持ちだった。



 その後、食堂で無事全員揃い、朝食にトーストとスクランブルエッグを食べた。


 イリアはしわ一つない黒いドレスに着替え、アメジスト色のボブヘアには寝ぐせ一つなかった。


 一方、アリスはなんとか着替えを終えたものの、ところどころ寝ぐせが残っている。


 それがまた可愛らしく感じて、クスッと笑ってしまった。




 僕たちは宿屋を出て、城へと向かった。


 宿屋の前には兵士の男性が立っていて、城の地下へと案内してくれた。


 道中、兵士の男性が、城の地下はシェルターにもなっていて安全だと教えてくれた。




 会議室の扉は頑丈で、中に入ると十帖ほどの部屋があり、真ん中には大きな丸いテーブルが置いてあった。


 それを囲むようにして、王都の要人などが腰を下ろしている。


 王の隣にはレナードの姿もあった。


 目を見て、アイコンタクトを送り合った。


 僕たちは手前にある椅子に座る。


 一つだけ席が残っていた。


 正面にいる人が王だ。


 回復魔法を使い、助けたことを覚えている。


 その王が立ち上がった。


「諸君、この度は急な申しつけに集まってくれて感謝する」


 いよいよ大会議が始まった。王は続けた。


「まずは、この私から言いたいことがある。我が名はグスタフ・クリングヴァル。魔王マコト一行よ、この街の救助、尽力に感謝する」


 マーカスとアリスが頭を下げるのを見て、同じように頭を下げた。


「次に、魔王マコトよ。私の命だけでなく、ブラント大臣の命も助けてくれたこと。大変名誉であった」


 テーブルを囲む要人がざわつく中、今度は僕だけ頭を下げた。


「さて、ここにいる者たちの中には、この場に魔王がいることに戸惑う者もいるはずだが、彼に無礼を働くことは、この私への無礼も同様。ブラント第二師団長への疑惑や逃亡罪なども、免罪とする」


 僕とアリスは、目を合わせる。


 安堵の気持ちを込めて、共に頭を下げた。


 周囲からは、拍手の音が沸いた。


「さぁ、では話を進めよう。先代魔王との戦い経験もあるマーカス」


 マーカスは小さく会釈して立ち上がり、その場にいた全員に情報を伝えた。


 魔王の存在や目的、僕たちの功績。


 推測にはなるが魔王の強さや、確認できているスキル。


「故に、戦いとなる場は、ヴェストリンの森が最善かと思われます。彼には苦い思い出かもしれまんが、マコトが森を破壊してくれたのは、今となっては好都合です。この国のどこで戦っても、犠牲が出てしまいますから」


 皮肉にも、転生してすぐに僕が消し去った森だった。


 別に悪い気はしなかったが、罪悪感がちょっぴり働いた。


 レナードの隣に座る、アリスの父親の大臣が発言する。


「現在、城でも多くの被害が出ていて、戦いに投じられるのは数十名ほどでしょう。相手の強さを考慮すると、少数精鋭の方が最善な気もします。ただ、回復魔法士が狙われ、ほぼ全滅です。十分に注意して臨みましょう」


 回復魔法士の不足、それが痛手であることは僕でも分かった。


 再びざわつく会議室。


 ざわつきを遮るようにして、マーカスが発言する。


「回復魔法士の不足は致し方ありません。慎重に立ち回りましょう。後は作戦と、魔王ニルソンのおびき寄せ方ですね」


 それを聞いた王が立ち上がる。


「私がその役を担おう」


 ブラント大臣が立ち上がり、王を止めた。


 しかし、王は首を振り、話をつづけた。


「今回の襲撃は私、または間接的にマコトを狙ったものだ。この国を守るためならば、私の命など安いものぞ」


「それは困ります!」


 僕は咄嗟に発言してしまった。


「和平条約が結べなくなったら、本末転倒ですからね。それではこうしましょう、ここにいるエリックとイリア、二人に強力な結界を張ってもらい、王にはなるべく安全措置を取りましょう」


「マコトよ、そなたの慈悲深き精神、しかと受け止めたぞ。マーカス、作戦について何かあれば申してくれ」


「はい。エリックとイリアは後衛、私とマコトが前衛から中衛、アリスとレナード団長が前衛になって、ニルソンの命を削り切るしかないと思われます。しかし、前衛が危険な故、戦力不足も否めないかと……」


 それを聞いたブラント大臣が答える。


「そのことだが、そろそろ来るであろう」


 僕たちはキョトンとしてブラント大臣を見つめる。



 ふと、僕の後ろにある入り口の扉がギィと音を立てた。




 兵士に案内されて女性が現れた。


 白銀の髪に色白な肌、エメラルドグリーンの瞳。


 両の腰には大太刀を差している。



 そう、カタリナだ。


「みなさん、遅れてしまい申し訳ありません。カタリナ・ストール第三師団長、ただいま到着しました」


 マーカスはワイシャツの袖をまくり上げながら、小さく呟いた。


「なるほど。役者は、揃ったってわけだ――」


【応援いただけると幸いです】


 「面白かった!」


 「続きが気になる、もっと読みたい!」


 と思っていただけたら、ブックマークなどしていただけると幸いです。


 物語の続きを書く上で、大変励みになります。


 何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ