第二十七章
王都クロンヘイムの王を回復魔法で回復した。
その後、自分がひん死になりながらも移動し、アリスの父親である大臣を生き返らせた。
命が尽きたと思われたその時、僕の前にはラグナルが現れ、気付けば僕は号泣するアリスの隣にいた。
「ごめん、アリス。何があったのか、教えてくれるかい……?」
真っ赤な目元を擦りながら、アリスは少しずつ話し始めた。
「あなた、王様を回復したあと、ここにテレポーテーションして、そのまま私の父親である大臣にも回復魔法をかけたのよ」
確かに、そこまでは覚えている。
「おかげで、父はこの通り、スヤスヤと気持ちよさそうに眠っているわ。本当に、ありがとう……」
「それはよかった……。アリスが悲しまずに済んで、本当によかった」
僕が安堵した気持ちを伝えると、アリスが突然、抱き着いてきた。
正面から抱き着かれて、どぎまぎする。
アリスの体は温かかった。
「あなた……そのまま、死んでしまうかと思った……!」
アリスの頭を撫でながら「ごめんね」と謝る。
「あなたが回復魔法を唱えて、動かなくなってしまった後、三神将ラグナルがこの場に現れたの。それでね、あなたの姿を見て……」
「うんうん、僕の姿を見て……?」
アリスがゆっくりと離れて、僕の目をまっすぐに見つめる。
「あなたに全ての魔力を注いで、消えたわ……」
一瞬、何を言っているのか、理解できなかった。
数秒固まった後、次第に意味が分かっていく。
走馬灯……いや、意識の中でラグナルと会話したことを思い出す。
「じゃぁ、ラグナルは僕を助けるために……」
「そう、自分の影に魔力を宿して、あなたの影に溶け込ませたわ……」
この世界に来て初めて出会った三神将の一人。
何度か対峙した強敵の一人でもあった。
その人物の喪失。
アリスからのもらい泣きに耐えていた僕の目からは、涙が一滴流れた。
僕とアリスは複雑な感情を抱いたまま、しばらく抱き合った――。
「えーっと、コホンコホン。お二人とも……お取込み中のところ、大変申し訳ないのだが……状況を説明してはもらえないだろうか……?」
意識外から声をかけられ、体が跳ね上がった。
話していたのは、アリスの父親である大臣だった。
動揺は僕よりも、アリスの方がしていた。
「あああ、あの、え、えっと、えっと……!」
こんなに動揺するアリスは初めて見た。
あまりの面白さに、大臣と顔を見合わせてクスリと笑った。
あたふたするアリスの代わりに、僕が説明した――。
王都が魔王ニルソンによって襲撃され、甚大な被害を受けたこと。
自分がもう一人の魔王であること。
レナードからの連絡を受け、急いで駆けつけて救助にあたっていたこと。
王と大臣を回復したこと。
一通り話を聞いた大臣は、アリスに優しく微笑みかけた。
「ふぉっふぉっふぉ。アリスよ……良き人を見つけたね」
大臣はアリスの頭を優しく撫でた。
とても温かい空間だった。
「ブラント大臣! ご無事ですか! はっ! ブラント第二師団長まで!」
先程、王のもとにはいなかった別の兵士が現れた。
若く勢いのある男性兵士は、大臣とアリスに敬礼した。
「ふぉっふぉ、すまないねぇ、心配かけて。ここにいる二人に助けられたおかげで、この通りだよ」
大臣はぷくぷくした体で、力こぶを作るポーズを見せた。
「現状報告をお願いしてもよろしいかな?」
男性兵士は大臣の問いに、ハキハキと返事をして話を始めた。
「現在、生き残っているのは国の半分程度の人口です。王はそこにいる旅人の男性が回復してくださり、ご無事です」
大臣は僕の行いを褒めるように、優しく微笑みかけてくれた。
「ブラント大臣以外の大臣二人は、残念ながら……。街では英雄マーカス・ロヴェーンと、その付き人によって被害拡大を免れた模様です。城では生存確認し、体制を整え、明日の朝一番に大会議を行います!」
「そうかそうか、分かりましたよ。ありがとう」
男性兵士の肩をぽんぽんと優しく叩く大臣。
日常的に温かみがある人なんだろうと感じた。
「久しぶりの再会、そして助けてもらった恩もあるが、今はやらねばならぬことがあるようだ。二人とも、明日の朝の大会議で会おう」
大臣はアリス、それから僕にも優しくハグをして、部屋から出ていった。
僕たちは城を出て、イリア、マーカスと合流し、現状を報告し合った。
ある程度話したところで、アリスの提案で場所を移すことにした。
半壊してボロボロの街並み。
ところどころ残る建物の中に、その宿屋はあった。
近付くにつれ、シチューのような甘い匂いが鼻をかすめた。
「壊されずに残っててくれてよかったわ。ここが、王都一番の宿屋『リンデルの館』よ」
店の外では美しく、とても優しそうな女性が炊き出しをしていた。
シチューのような匂いの正体は炊き出しだったようだ。
「こんにちは! 女将さん」
アリスが女性に声をかけると、笑顔で小さく手を振り返した。
胸くらいまでの金髪、低めのポニーテールにしている。
「あら、アリスちゃん。久しぶりね。なんだか大変なことになっちゃったわね~」
おっとりとした口調で話す女将の女性。
炊き出しのシチューを配りながら、店内へと案内してくれた。
「店の中でも食べられるから、よかったらどうぞ~? あ……パパがちょっとだけ怒っているかもしれないけど、気にしないでね~」
疑問に思いつつも、僕たちは店内に入った。
意外にも密閉性の高い木のドアを開けた瞬間、怒号が聞こえてきた。
「ったく……このドラ息子! みんな大変ってぇ時に、お前ってやつぁ! ほっつき歩きやがって!」
恐る恐るドアを開け切ると、そこには見たことがある小さな背中があった。
咄嗟に名前を呼んだ――。
「エリック……!?」




