第十九章
北の大地「ノースランド」で行われている剣技大会。
アリスの身に危険が迫っていると聞き、テレポーテーションで駆けつけた。
決勝でニコライと勝負したアリスは、修行の成果を発揮して、圧倒的な力で優勝した。
しかし、「邪神スルト」が現れ、会場を炎の渦に飲み込もうとしていた――。
「ワタシハ『邪神スルト』ダ! 人間タチヲ滅ボシテ、ニルソン様ノ糧ニスルノダ……!」
「邪神スルトだって……!? 一体どうなってるんだ!」
邪神スルトは身の回りに出現させた炎の玉を分裂させ、小さく、大量に増やしていく。
「マコト! このままじゃ、私たちだけじゃなくて、会場のみんなも巻き込まれてしまうかもしれない! 何か、手はないかしら!?」
「やってみるよ!」
僕は一歩前に出てスルトと対峙する。
「スキル、テンポ――」
周囲の時間をほんのわずか遅らせた。
「スキル、賢者とアサルトウォーターを組み合わせ発動――」
このスキル「アサルトウォーター」は、マーカスの修行の一部で、水の主と戦った時に得たスキルだ。水に関する魔法を扱える。
上空に大きな水の塊を作り、その塊を拡散させる。
スルトが炎の玉を雨のように降らせるという未来を視て、参考にさせてもらった。
拡散させた水滴を、上空にセットする。一粒一粒は大きく、上空一帯を埋め尽くした。
物体ではないにしろ、水も塊であればあるほど、高所から落ちれば凶器になる。ある程度の大きさにして、スルトの頭上に水の塊をセットした。
「テンポ、解除――」
ゆっくりと流れていた周囲の時間が動き出す。
バケツをひっくり返したしたような、土砂降りの雨が会場内に降り注いだ。
スルトの頭上には、さらに多くの水が降り注いだ。
バケツではなく、まるで風呂桶を逆さにしたような水の塊。
「これでよし、湿気で二次災害も起きないだろう」
「マコトはやっぱりすごいわ!」
アリスは僕の背後から抱き付いた。
「ははは、思ったより上手くいってよかったよ」
アリスと一緒に喜んだ後、ニコライに駆け寄った。
「ニコライ、どうしてあんなことをした……? どうしちゃったんだよ……」
ニコライの肩を抱き寄せ、呼びかけた。
「マコトか……すまない……。魔王によってボクの中に埋め込まれた、邪神『スルト』を封じ込めることができなかった……。ゴホッ、まだ、終わってない……。あいつをどうにかしないと……」
会場の外からひときわ大きな悲鳴が聞こえてきた。
周囲を見渡すと、会場の外側を覆うように、マグマのような火柱が上がっていた。
会場内の湿気をじりじりと蒸発させるほどの高温だった。
振り返ると、邪神スルトは無傷で立っていた。
あまりの熱さに、地面がえぐれている。
「オ前ガ……モウ一人ノ魔王ダナ……。憎イ……憎イゾォォォ……!」
真っ暗なローブの中から聞こえてくるおぞましい叫び声に、僕たちは耳をふさいだ。
「消エ……失セロ……!」
「マコトたち! 逃げてくれ! コイツは止められない!」
「ニコライ……悪いが逃げることはできない。みんなを守るため、世界を平和にするために、僕たちは強くなる道を選んだんだ。もう誰にも傷ついて欲しくない……!」
僕は何も言わずに、アリスに目で合図を送った。
アリスはコクリと頷いて、戦闘態勢に入る――。
「レオ――!」
足元から召喚されたキングウルフの影、レオ。
「あい分かった! やつの動きを止めればよいのだな……!」
影の中で話を聞いているレオは、いつだって話が早い。
「そういうことだ、二人とも、援護を頼む!」
創成魔法を使い、短剣を十本ほど作りだす。
「スキル、賢者――」
風魔法を使い、短剣をふわりと浮かせる。
邪神スルトを囲むようにして、セットした。
スキル「テンポ」と合わせ、外から一気に圧力をかける――。
しかし、スルトにぶつかった短剣は、全てドロドロに溶けてしまった。
なかなか面倒な相手だ。
「スキル、賢者――」
スルトの足元に大量の火種と酸素を送り、地面をますます抉らせた。
じわじわと溶けていく地面。どんどん高くなる温度により、スルトは一層地中を溶かし、ついには姿が見えなくなった。
「スキル、先見の明――」
どうやら、スルトはこの後、無防備で地上に浮上してくるようだ。
「よし、やつの隙は作った……。アリスは刀を、レオは爪を前に出してくれ!」
振り返り、二人の武器に空気中の水蒸気を集めて、一瞬で冷やして固めた。
「おお! 主! 我の爪がカチンコチンの氷に覆われたぞ! 少々指先が冷えるがな!」
「あぁ、一振りなら耐えられるはずだ!」
スルト自身が熱で抉っていった足場の遥か上空に、巨大な水の塊を発生させる。
それに気付かず、スルトは浮遊して地上に戻ってくる。
シャボン玉のように丸みを帯びた巨大な水の塊を、地上に上がってきたスルトに降らせた。
水が一気に蒸発し、空気中に目に見える程の水蒸気が漂う。
僕はこれを目くらましに使った。
「スキル、テンポ――」
巨大な水の塊が全て落ちる前に、スルトを封じ込めるようにして空中にとどめた。
シャボン玉のような水の塊に閉じ込められたスルト。体から発せられる熱が、じわじわと水を蒸発させていく。
「スキル、創造魔法――」
スルトの体は水の塊に包まれている。
その体の周りの水をスライム状の液体に創造した。
液体はなかなか溶けず、スルトの体にへばりつく。
「二人とも! 今だ――!」
アリスとレオは光のような速さで、それぞれ渾身のひと振りを放った――。
「マコト! トドメをお願い!」
氷でコーティングした短剣を右手に一本、左手に二本創成した。
隙だらけのスルトに一本目を投げる。
タイミングをずらし、二本目と三本目をほぼ同時に投げた。
スルトは二人の攻撃で態勢を崩しながらも、一本目の短剣を右の手の平で捌く。
すぐに二本目に気付き、左手で捌いた。
二本の短剣を捌くために、両手をクロスさせて体の外側に突き出したスルト。
そこに、隠したもう一本の短剣がとどめを刺しに行く。
僕は最大限に作ったこの隙を見逃さなかった。
「スキル、テレポーテーション――」
一瞬でスルトの背後に回り込み、正面から刺さる短剣と同時に、スルトの喉元を掻き切った――。
「グゥォォアア――!」
「師匠からきつく言われてるんでね。『戦いでは、常に生殺与奪権を握りなさい』ってね」
耳鳴りがするほどの大きさで、断末魔が響き渡った。
「やったか……!?」
僕は後方にジャンプし、ニコライを含めた三人と共にスルトの様子を伺った。
すると、すぐ後ろにいるニコライが、突然苦しみ始めた――。
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