表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/35

第十三章

 街を出て、小さな森へと差し掛かる瞬間。


 突然背後から斬りかかってきた男性は、自分の名を名乗った――。


「私はマーカス・ロヴェーン。魔王の君を探していたよ。それにしても、随分とちっぽけな姿に生まれ変わったものだね?」


「あの、僕、マコトと言います。どうしてこんな野ウサギの僕が、魔王だとわかったんですか……?」


 マーカスはワイシャツを着こなし、腕まくりをしている。袖から見える傷だらけの腕は筋肉でごつごつとしている。


 若干長めに生えた白い顎ひげを触りながら、目を細める。


「そんなに魔力を放出しっぱなしで、私じゃなくても分かる人はいると思うがね。ここじゃ目立つ、私の家まで移動しよう。そこでゆっくりと話を聞こうじゃないか」


 想像していたよりも気さくな人で、たじたじな僕たちは顔を見合わせる。



「レオ――」


 キングウルフの影、レオを呼び出した。タイガーエンペラーといい勝負をしていたキングウルフ。今では足としてばかり使ってしまって、不服ではないだろうか。


 レオはふるふると尻尾をふり、「伏せ」をした。


 口を開けて、ハァハァと息を荒立てる。


「主! 乗ってくだされ!」



 どうやら……不服ではなさそうだ。



 レオの背中。


 マーカスに疑問を投げかけようとした瞬間、背後に座る彼が先に口を開いた。



「先に、君の目的を聞いておこうじゃないか」


 後ろに声が届くよう、大きめの声で伝える。


「僕の肩書きは一応、魔王だけれど、ここにいるアリスと決めたんだ。王様と和平条約を結んで、平和な世の中にしたい」


「そうかそうか……それはよかった」


 後ろからマーカスの声が、若干かすれていた。


「先代の希望は託されたようだな……。しかし、気になっていることがあるのだが。どうして従者とともに行動している? スキルは受け継いでいないのか? 私が先代魔王に聞いた話では、従者はすべてのスキルを魔王に捧げ、泡のように消えゆくというが……」


 マーカスの問いに、イリアが悲しげに答える。


「どうやら、私の力不足のようです。本来であれば、マーカス様がおっしゃる通り、私はスキルを捧げて消える予定でした。しかし、十分にスキルを持たずに誕生してしまったマコト様と私では、イレギュラーが起きているようです。今世では、マコト様のほかに、もう一人魔王が生まれているようですし……」


「なんだと!? もう一人の魔王だと……!? 詳しく聞こうではないか」



 その後、持っている情報を共有したところで、レオの快速によりあっという間に南の町セッテホルムに到着した。



 僕たちは町の外れにある「レオンファーム」というアーチ看板をくぐり、農場を歩く。三メートルほどのコーヒーの木の間を抜け、マーカスの家に到着した。


「お邪魔しま〜す」


 六帖ほどの広さのリビング、隣の部屋にはキッチンが併設されている。全体的に明るい木材が使用されていて、落ち着きがある。清潔感のある部屋には心地よい日差しが入り、コーヒーの匂いが鼻腔を満たす。コーヒーが好きな僕にとっては、なんと素晴らしい住居だろうか。


「適当にかけて、待っててくれ」


 マーカスは僕たちをソファに案内し、コーヒーを淹れてくれた。


 アリスはミルクと砂糖を多めに入れ、カフェオレを作っている。イリアは何も入れず、そのまま飲み始めた。


 僕もコーヒーを飲みたかったが、目の前には皿に入ったミルクが置かれていた。



 美味しいコーヒー、ミルクを飲んだ僕たちのホッとした顔を、温かい目で見守ったマーカスは、神妙な面持ちで話し始めた。


「道中聞いた、もう一人の魔王だが、あまり時間はないようだな。接触してきている上に、タイガーエンペラーの件の元凶は間違いなく魔王ニルソンだろう。話から察するに、もう一人の魔王とやらは、本能に従い、破壊と殺戮を繰り返すだろう」


 ズズッとブラックコーヒーを飲み、続けた。


「先代魔王、レオンとは戦友でな。先代魔王は次に生まれてくる魔王が、我々人間と穏やかに暮らすことを願っていた。そう、マコトのようにな。ただ、魔王として生まれた者は、破壊衝動が本能に刻まれているようだ」


 アリスはマーカスの目を見つめ、疑問を投げかける。


「英雄と呼ばれたあなたなら、今後どうしますか? 魔王ニルソンがいる以上、和平条約を結んでも争いは続いてしまう……。かといって、私たちが束になったところで、本来の強さを持った魔王ニルソンには、とても……」


 マーカスは椅子から立ち上がり、腰に差している短剣を引き抜いた。短剣をじっと見つめたあと、僕の目の前にストンと突き刺した。



「マコト、君には私の元で修行を積んでもらう――」


「修行、ですか……?」


「正直、魔王ニルソンが素直に和平条約を結ぶことは、あり得ないだろう。そうなれば、少なからず戦いが起こる。私が持てる技術を、君たちに授けよう。しかし、従者のように簡単には授けられん」


 マーカスは渋い顔でニヤリと笑い、不気味な表情で続ける。


「死ぬことになるかもしれないから、今のうちにガールフレンドと最後の言葉を交わしておくといい」



 とっさに、アリスと顔を見合わせた。ガールフレンドの意味をあとから思い出し、気恥ずかしくなり目線を反らした。



「おっと、お嬢ちゃんたちも、そのままという訳にはいかない。私の方で特別コーチを手配しておくから、覚悟しておくように」


 アリスとイリアも修行をするようだ。



「マコト、早速だが……。君には人間になってもらう――」



 僕たちは目を丸くして、ポカンと口を開けた。


【応援いただけると幸いです】


 「面白かった!」


 「続きが気になる、もっと読みたい!」


 と思っていただけたら、ブックマークなどしていただけると幸いです。


 物語の続きを書く上で、大変励みになります。


 何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ