第十二章
カタリナの部屋。
アリスたちはテーブルを囲んでお茶を啜る。僕の前にはミルクが置かれていた。
タイガーエンペラーの呪いからカタリナを開放し、お礼としてスキル「二刀流」を授かった――。
「二刀流……名前からしてカッコいいし、すごいスキルみたいだね」
この時、僕はまだそのスキルの真の強さを知らなかった。
「カタリナの二刀流スキルは、曽祖父から遺伝した、かなりレアなスキルよね。私の「剣聖」よりも珍しいわ。それに、この世界でも数人しか扱えない刀……そして、大太刀を扱う二刀流だなんて、他に聞いたことがないわ」
カタリナはエメラルドグリーンの瞳で窓の方を見つめ、ゆっくりと語った。
「私なんて、大したことないの。たまたま遺伝した二刀流のおかげで、こうして騎士団に所属していられるだけよ。アリス、立場上はあなたのことも捉えなければいけないのだけど、私にはできない。それが本当に正しいのか、決断できないもの……」
アリスは僕と一緒に和平条約を結ぶため、国を追われる身分になっている。
「それに……色々と、ごめんなさい」
カタリナは言葉を詰まらせて、下を向いてしまった。呪いをかけられたことを後ろめたく思っているのだろうか。
「もう、いいのよ。何も気にしなくて」
アリスはカタリナの肩に手を乗せながら言った。
話によると、どうやらカタリナは、その自信の無さから、アリスのことを小さい頃から妬んでいたのだという。その妬みに浸け込まれ、タイガーエンペラーから呪いを受けたという。
約束通り、タイガーエンペラーは呪いを解除したようだ。
「まぁまぁ、アリスもこう言ってることだし、いいんじゃないの? 人間、生きてれば誰だって自信を失くすことなんて、たくさんあるよ。大丈夫、カタリナは悪くないと思うよ」
カタリナを慰めようとしてみたものの、上手く言えているか分からなかった。しかし、カタリナの表情は明るく、柔らかくなっていった。
僕は創成魔法で、小さなタイガーエンペラーのぬいぐるみを作り、カタリナに渡す。ぬいぐるみにしては、強度を少し上げておいた。
「ムカついたら、こいつを殴ってやるといいさ!」
両手で受け取ったカタリナは、白い頬を若干赤く染め「ありがとう」と言って、大切そうに抱き寄せた。
その後、奥の部屋から大太刀を一本持ってきて、アリスに渡そうとした。再会と友情の印だそうだ。
しかし、アリスは流石に使いこなせないと受け取らなかった。
「ちょっと待ってね、僕に考えがある」
大太刀を細かく観察する。
造形、模様、重さ、硬さ、そして鋭さ。
何度も何度も観察し、脳内に情報として送り込む。
そして、同じものをもう一本作り出した。
創成魔法のコツをだいぶ掴んできたようだ。
「マコトさん、すごい……!」
感心するカタリナの方を向き、僕はふわふわの胸を張った。
創成魔法を続ける。
次はアリスが持てるよう、大太刀から通常サイズの刀に作り直す作業だ。
長さを短くするだけではなく、アリスに何度もテストしてもらい、重さや刀の重心などを念入りに作りこむ。
時間はかかったものの見事完成し、アリスは腰の刀を差し替えた。
「新しい刀を装備してくれるのは嬉しいけど、前の刀はいいのかい?」
腰に差した刀の握りを確認するアリスに、質問を投げかけた。アリスは使っていた刀を大切そうに持ち、思い出に浸るように答える。
「この刀もね、カタリナとのお揃いのものなの。騎士団に入る前、鍛冶職人にお願いして、刀と大太刀、似たものを作ってもらったのよ。でも、今回マコトが作ってくれたものも、とっても大切なものよ。変わらずカタリナともお揃いだし、マコトの思いもたくさん詰まってるでしょ?」
桜色のポニーテールをふわりとなびかせ、満面の笑みで答える。
製作にはかなりの時間と魔力を要したが、可憐な笑顔によって疲れは吹き飛んだ。
カタリナは呪いのせいで体調が全快せず、旅の同行はしなかった。魔王ニルソンが何をするか分からない以上、街を守ってもらうためにも、僕たちもその方がいいと判断した。
お世話になったカタリナに礼を言い、僕たちは国境の街リングホルムを後にした。
街からさらに南へ、英雄の伝承が残る南の町セッテホルムを目指す――。
「それにしても、悪い噂が絶えませんね……。いつどこで魔王ニルソンが現れるかわかりませんから、マコト様も用心してくださいね」
「分かってるよ、イリア。今後は魔力切れには気を付けるよ……。それに無理をすると、二人にも心配かけちゃうしね」
ぴょこぴょこと歩く足を止め、振り返りながら言った。
街を出て、小さな森へと差し掛かる瞬間。
ふと、寒気がした。
イリアに言われた通り用心すべく「先見の明」を発動させた――。
脳裏には、背後から短剣を突きつけられる自分の姿が見えた。
小さな喉元に、きらりと光る刃先が触れている。
相手の姿は見えず、目的も分からないが、命の危険を感じた。
「二人とも、構えて! 僕の後ろへ!」
アリスとイリアに注意を呼びかけ、僕も臨戦態勢を取った。丸腰ではいけないと思い、とっさにアリスと同じ刀を作りだし、咥えて構えた。
次の瞬間――。
――キィィン!
予想していた通りの場所に突き出された短剣を刀で受け止めた。あまりの速さに二人とも遅れて振り返る。
常人離れした速さと、今にも押し出されそうな力。
「もしかして、お前は……魔王ニルソンか!」
目の前にいる年配の男は、僕の言葉を聞いて高笑いをした。
「はっはっは! いい反応速度だ。やるじゃないか。しかし、私が魔王だったら、どんなにラッキーだったことだろうか」
推定五十代ほどの謎の男は、右手に持った短剣を鮮やかに振り回し、腰に付けた小さな鞘へと納めた。
魔王ニルソンと見紛うほどの身体能力、相当の手練れだ。
「驚かせてしまって悪いね。私はマーカス。マーカス・ロヴェーンだよ。どうしても、魔王たる君の実力を知りたくてね」
僕たちは顔を見合わせ、マーカスと名乗る男性の言葉を脳内でリピートした。
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