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第十章

 ――タイガーエンペラーの住処を探している最中のこと。


 突然様子がおかしくなり、襲い掛かってくるアリス。


 例の如く、嫌な未来を見せてくれるスキル「先見の明」が発動し、アリスが振り払う刀によって首を切断される未来を見た――。



 僕は未来が現実に起こる前に、空高く跳ねた。


 このウサギの体はとても軽く、高く飛ぶことができる。彼女に傷をつけるわけにはいかない、どうしたものだろうか。


 地面に着地する前、予想していたようにアリスは刀を振り払っていた。


「アリス! やめるんだ! しっかりしろ!」


 アリスは応答せず、続いて居合の構えを取った。


 僕が着地するタイミングに合わせて、居合斬りを放つつもりだ。


 目で追えない程の速さの、アレだ。



(流石にまずい……! テレポーテーションを使うしかない)


 スキル「テレポーテーション」――。


 しかし、どうしたことか、テレポーテーションは発動しなかった。



「なぜだ! なぜ発動しないんだ……!」




 刹那、僕の首筋に、ひんやりとした刃先が触れた――。



 こんなところで死ぬのだろうか……。




「……マコト様!」



 ハッと目を覚ました。


 声の主はイリアだった。いつのまにか、イリアの腕で抱っこされていた。


「お待たせしてしまって申し訳ありません、もう大丈夫ですよ」


 意味が分からず、ぼんやりとした意識のままイリアに問いかける。


「どういうこと……?」


「あれをご覧ください」


 イリアが向いた方向に視線を送る。


 そこには、巨大なホワイトタイガーと、立ち向かうレオの姿があった。イリアは僕をそっと下ろして、横たわっているアリスにも魔法をかけ始めた。


「マコト様、私たちはタイガーエンペラーが施した呪術によって、全員が幻を見せられていたのです。もちろん私も含めて。ただ、私の場合は過去に似たような経験があったので、創成魔法を使って呪術の反転式を作り、幻から抜け出しました」


「そう、だったんだね。ありがとう、イリア」


 イリアは可憐に微笑んだ。


「それにしても、あの二匹の戦いは凄まじいね」


 三メートルを超える程の大きな獣同士が戦い合う姿は、想像を絶していた。


 真っ黒な影のレオとは対照的に、真っ白な獣。トラ模様が入っていて、見た目はほとんどホワイトタイガーだった。


 ホワイトタイガーを見ていると、前世のトラウマが頭をかすめる。


 首筋を噛みつかれた感覚を思い出してゾッとした。



 二匹が放つ一撃は重く、ぶつかる度に地響きがする。耳を澄ませると、大きな衝撃音に混じって、二匹の声が聞こえた。


「大人しくせよ、何ゆえ暴れる!」


 レオがタイガーエンペラーの頭を押さえつけながら言い放つ。一方のタイガーエンペラーは大きな口をぐわっと開けて怒鳴った。


「うっとうしいわ! 人間がこの森を支配せしめんとするからではないか!」



(人間が森を支配……? そんなことするやつがいるのか?)



「レオ! 待った!」


 僕の声に反応して、レオは押さえつけていたタイガーエンペラーの頭から腕を戻した。


「なんだお前は! 小さきものよ! 去るがよい!」


 僕は巨大な獣を無視して話した。


「人間が森を支配しようとしているっていうのは、どういうことだ? 何が起きたか聞かせてくれ」


 巨大な獣は標的を僕に変えて「グルルルル……」と威嚇してみせた。




 スキル発動「王の威厳」――。



 威嚇していたタイガーエンペラーは凄むのをやめ、目の前で不服そうにおすわりした。


「よし、いい子だ」




 森に移動している最中、レオにスキル「王の威厳」について質問をしていた。レオが言うには「格下の生き物が従う」というスキルのようだ。


 それがまさに今、実証された。




「なぁ、タイガーエンペラー。何があったのか聞かせてくれないか?」


「ぐぬぬ……。お主が言うのなら、仕方なし……」


 タイガーエンペラーはその後、森で起きた信じられないような出来事をゆっくりと話した。


 数日程前、タイガーエンペラーの住処に、十数人の人間がぞろぞろとやってきて、目の前で突然爆発したという。人間には手を出さないと、先代魔王と約束していたが、それを反故にされたと思い、森の外まで呪いを広げたそうだ。


 さらに、自分のもとに刀を持った強い少女が現れたという。


 これはきっとカタリナのことだろう。その少女と戦い、強い呪いをかけて追い払ったのだという。


「すまない、タイガーエンペラー。君の言いたいことは十分に分かった。だが、森の外まで広げた呪いを、元に戻してはくれないだろうか。それと、君が言う少女にかけた呪いを解いてはくれないだろうか」


 僕は自分の耳を軽く毛づくろいしながら頼んだ。


「易々と言ってくれるなぁ、小さき者よ。我とて同じ生物。居場所を奪われてはたまらん。今となっては、人間への信用もならんしな」


「ん~、そうだよなぁ。そりゃぁ、お宅の事情もありますよねぇ」


 何かいい方法はないものかと考えるが、何も出てこない。


「ちょっとごめんよ」


 ひと声だけかけて、タイガーエンペラーの手に触れた。


――ピコン!


「ふむふむ。スキル「呪術」かぁ……。なぁ、タイガーエンペラー。君の呪術とやらでは、どんなことができるんだ?」


「我の呪術は非常に優れているぞ! 呪いに関することなら一通りできる。軽度のものだと、落とし穴に落とす。重度のものだと人の記憶を操ったり、死に至らしめることもできるぞ」


「なるほどね、了解」


 とんでもないことをさらっと言われた気がする。



 すると、背後からアリスの声が聞こえた。目覚めたのだろうか。


「わぁ~! 可愛いわね! この子がタイガーエンペラーさん?」


「や、やめよ!」


 アリスは巨大な獣に臆せず近付き、あろうことか獣のひたいを撫で始めた。タイガーエンペラーも撫でられ始めてから、気持ちがいいのか、落ち着いてしまった。動物が大好きなアリスには恐れ入った。


「あ……! それだ!」


 名案を思い付いた僕は、タイガーエンペラーの耳元でコソコソと提案した。


 それを聞いたタイガーエンペラーは目を輝かせて、条件を飲んでくれた。


「みんな、悪いが少しだけ待っててくれ。タイガーエンペラー、僕がいない間、少しでも誰かに傷つけてみろ? 一生許さないからな」


 低めの声でタイガーエンペラーに脅しをかけ、スキル「テレポーテーション」を発動した。


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