ライオネルとの出会い
アルフォルニア王国マーヴィラス辺境伯領。
クズ王の国を出て新たな暮らしが始まる。
宿で朝食を食べたら一文無しになったので職を探しに街へと繰り出す。
街並みはよても良く整備され、綺麗だ。
辺境伯は侯爵と共に王族以外では最上位の爵位だそうで、領主は国から入る大金を街に還元し税率も安く他領から住民登録をしに来る人が溢れ返る程人気があるそうだ。
そんな領主の元なら安心と思いここで働く事を決めたのだ。
街を歩くと一際目を引く建物を見つけた。
商店が並ぶエリアにありながら貴族の屋敷のような大きさで、なのに出入りする人々はどうも荒くれ者のような風貌である。
看板には『冒険者ギルド』と書いてある。
「おー流石異世界!これがラノベでお馴染みの冒険者ギルドかー。よし、冒険者に俺はなる!」
行き交う人々に白い目で見られたが気にしない。
冒険者ギルドへと足を踏み入れた。
中はテーブルがいくつも並び、飲み屋のようだ。
壁には依頼だろうか紙が一面にびっしりと貼られ、冒険者がごった返していた。
奥にはカウンターがあって、可愛い受付の女の子達がいる。
「ん?真ん中の子は獣人?めっちゃストライクど真ん中なんですけど」
真ん中の列に並ぶとすぐに俺の番になった。
「こんにちは。ご用件を伺います」
「あっ、はい。冒険者の登録をお願いします」
「わかりました。ではこの用紙に記入して下さい。代筆も出来ますがどうしますか?」
「いえ、大丈夫です」
そう言って登録用紙を書き始める。
「書きながらでいいので聞いてください」
獣人の女の子は小声で話し始める。
「あのですね。冒険者は貴族様、ギルマス以外、基本的に敬語を使いません。敬語を使っていると舐められてしまいます。お気をつけて下さい」
「うん。わかった」
「その調子です。フフッ」
用紙には名前、スキル、魔法を書くようだ。
勿論、全てを書く必要はない。
そして書き終わると大きな水晶玉が置かれていた。
「では、ここに手を翳して下さい」
「うん」
手を置いた瞬間、水晶から眩い光が煌々と放たれる。
「きゃっ」
獣人の女の子もこれにはびっしりしたようだ。
そして周りの人達も騒ぎ始める。
「こ、これは。少々お待ちください」
そう言って、席を立ち駆け足で階段を登っていった。
「よう坊主、すげー光だな。ミリーの慌てよう、もしかしたら超級位職業が出たんじゃないか?」
「超級位職業ってなんですか?」
「そうだな、国王、皇帝、教皇、魔王、勇者、賢者、少しランクは下がるが魔導戦士、回復魔導士、狂戦士辺りが超級位職業だ」
「そ、そうなのか」
多分、国王と勇者に反応したのかも。
暫くすると、獣人の女の子ミリーと共にエルフの女性を連れて戻ってきた。
「ギルドマスターのエルナマーヴァよ。よろしく」
「はい。よろしくお願いします」
「で早速だけど、貴方は超級位職業を選べるわ」
「はい」
「勿論、王等は選ぶ事は出来ない。そして超級位職業は転職出来ないわ。それでもいいかしら?下の職業からコツコツ上級生職業に転職する方法もあるけどどうする?」
「そうですね、超級位職業のそれぞれの特徴を教えてください」
「わかったわ。それじゃ勇者は剣は狂戦士よりは落ちるけど魔導戦士よりは上、勇者特有の魔法を覚えるわね。貴方に合った属性勇者になるわ。賢者は魔法使いとヒーラーの魔法を使える。プリーストより回復魔法の幅は狭いわね。攻撃魔法は魔導戦士と同等ね。魔導戦士は魔法剣士の最上位職業で賢者の攻撃魔法と戦士の剣術を覚えるわ。プリーストは回復、補助魔法のスペシャリスト。バーサーカーは戦士の上位職業ね。剣術だけなら勇者より強いわよ。そんなところかしら。選ぶなら勇者がオススメよ」
「ありがとうございます。では、賢者でお願いします」
「え?勇者じゃなく賢者?」
「はい。剣術スキルは持ってるので、剣も使える賢者になります!」
「へぇーわかったわ。では君の職業を賢者に設定するわ」
「ありがとうございます」
ステータスに賢者が追加された。
賢者以外の職業は隠蔽してある。
盗賊からも幾つかの職業、スキルを奪った。
上手く使えれば負ける気がしないな。
「それと、ギルドマスター権限で貴方を一つ上のEランクにするわ。討伐の依頼があるから、早くレベルを上げて強くなりなさい」
「わかりました。ありがとうございます」
「それじゃこれ依頼書、討伐系を纏めたわ。常設依頼だから失敗しても違約金は取らないけど、成功すればポイントになる。基本的にCランク迄は30件の依頼を達成すれば自動でランクは上がるわ。それと、ランクの高いモンスターを討伐しても加点されるけど。まぁ死ぬからならない方がいいわよ」
「わかりました。頑張ります」
ギルドを出ると宿へ戻ってドロップ品の装備に着替える。
その名も神軍装備一式。
選択した職業に、レベルに合わせて自動で、変化成長する。
ランクSSS、売価価格???。
職業を賢者に変更した事で法衣に変わっていた。
装備の中には剣と杖が入っていているが杖は使う予定はない。
杖には魔石や宝石が組み込まれていて、それが触媒となり魔法を強化してくれる。
そして神軍装備の杖には巨大な古代竜ホワイトドラゴンの魔石が組み込まれ、その周りにこれまた大粒の金剛石があしらわれている。
とんでもない大物と対峙しない限り使う事はないだろう。
剣も大層な代物で、魔法金属の合金だ。
魔銀に魔黒鉄、金剛鉄、霏々色金等のファンタジー金属が使われている。
虹色を帯びた霞のない銀色で細長い曲刀で刃だけ見れば日本刀に似ている。
柄や鍔は西洋風で違和感が半端ない。
だが性能は神剣と言うだけあって半端な代物ではない。
全て装備して門を出て森の中へと入った。
森に入って直ぐにウルフの群れを見つけて水属性の派生、氷属性のアイスショットを撃ち込む。
無数の氷柱がウルフを穿つ。
「先ずは6匹か。幸先良さそう。だが、処理をしないとな・・・」
ギルドで簡単に教えてもらった解体。
自分で解体すると解体費を取られない。
だが、下手な解体だと買取不可や安くなってしまうそうだ。
解体をギルドでするにも血抜きと冷却は必須だと言われた。
先ずは血抜きの為に吊るす。
ウルフは一旦、ストレージに収めた。
ウルフ死体と表示される。
ロープを木に掛けウルフを吊るし、首にある太い血管を切る。
身体強化が無いと重くて大変。
地面は土魔法で穴を掘ってある。
暫くすると血が止まる。
ナイフで腹を裂いて、魔石、腸、心臓を取り分けよく洗う。
それ以外の臓器は全て捨てる。
土魔法で別の場所に穴を空けそこに水と氷を魔法で出してウルフと取り置いた臓物を沈める。
冷却しないと熱で肉が悪くなってしまう。
匂いも付いて食べられないそうだ。
冷却が終わると皮を剥ぐのだが、これは専門家にお任せしよう。
皮の剥だけなら解体費は安く済む。
初めての解体に時間が掛かってしまった。
解体が追いつかないので血抜き済みのウルフがまだストレージに入っている。
ストレージを見ると、血抜き済みのウルフは素材アイテムとなっている。
よく見るとストレージ内で解体も出来る。
先ずは内蔵をそのままに血抜き済みのウルフを冷却。
その後ストレージ内で解体する。
流石に臓物や魔石の洗浄は自力だった。
それでも皮剥ぎも出来る。
ストレージ最高!
時間もまだあるので解体に使った土を魔法で元に戻して森の奥へ進む。
暫く歩くと大きな鳴き声が聞こえて来る。
「ピギャーピギャー」
近づくとそこには鷲の大きな翼と上半身、獅子の下半身に蛇のような鱗の尻尾・・・グリフォンだ。
とても大きいがもう息はなく、少し腐敗しているのか匂いもきつい。
だが鳴き声が聞こえて来る。
翼に包まれる様にしてその小さな命はまだ失われてはいなかった。
だが、その子グリフォンは衰弱していて今にも死んでしまいそうだ。
俺は咄嗟に賢者となって覚えた回復魔法ヒールを唱えてしまう。
子グリフォンは少し元気を取り戻す。
採れたて新鮮ウルフ肉を細かく切って子グリフォンに与えてみた。
パクパクと頬張り喉に詰まったのか。
「ピョッ〜」
と苦しそうに鳴く。
手に水を魔法で出してそのまま与えると飲み干した。
「ピギャーピギャー」
と嬉しそうに鳴くとまた肉を啄む。
その間に、親グリフォンを魔法で埋めてやる。
簡単だが墓を作ってやり拝むと、子グリフォンは俺の頭に乗り同じ様に拝んでいるようだった。
「なぁ、付いてくるか?お前一人だろ?俺も一人なんだ」
魔物だから聞こえる訳は無いと思いながらも話しかける。
「ピーッ」
そう鳴いて俺の肩に乗り、頬擦りをしてくる子グリフォン。
「もしかして言葉わかるのか?」
「ピーッ」
「名前付けないとな。そうだな。グリフォン、鷲、獅子、ライオン、蛇・・・ライオン、ライオン、ライオネルだ、お前の名前はライオネル」
「ピギャー」
とても嬉しそうに飛び回り親の墓標に止まって俯いてから俺の頭の上に乗った。
「よし帰るか」
「ピー」
門番挨拶して中へ入ろうとすると驚かれ、止められた。
「それ、グリフォンの子供だよね?どうしたの?」
「親が死んでて此奴が弱ってたから回復してやったら懐かれた。言葉を理解してるみたいだから名前を付けた」
「ほぉー名付けられたグリフォンか。それなら直ぐにギルドへ行ってテイムされた証を貰ってグリフォンに付けてくれ」
「テイム?そんな事してないよ」
「いや、お前さんが名前を付けてこのグリフォンが付いてきたんだろ?一人に名付けられそれを認めたんだろ?そうすればまぁ個体差はあるがお前さんの言う事を聞く様になるんだ。それがテイムだよ」
「成る程、それならテイムした事になるな。教えてくれてありがと。ギルドへ行ってみるよ」
「それと一つ忠告してやる。グリフォンなんてSS級の魔獣をテイムしたんだ。お貴族様には気をつけてな。なんでも欲しいものは奪ってでも欲しいという貴族がいるからな」
「わかった。忠告感謝する」
ギルドへ入ると騒然とする冒険者達、勿論ライオネルに対してだろう。
「おい小さいけどグリフォンじゃねーか?」
「あいつ新人で勇者蹴って賢者になった奴だろ?次はグリフォンテイムかよ」
「うおー俺もグリフォン欲しい」
「可愛いー」
ミリーの所に並んで順番を待つとすぐに俺の番になった。
「こんにち・・・尊い」
ミリーは急に拝み始める。
「ミリーどうしたの?」
「あの、その頭のグリフォン様ですよね?まだ小さいみたいですが」
「様?はい。今日はグリフォンのテイムされてる証を下さい。それとウルフの買取お願いします」
「少々お待ちください」
そう言うとミリーは隣の部屋へと消えた。
暫くするとギルマスと共に戻ってきた。
「君にはいつも驚かされるな。グリフォンをテイムしましたと言われたのは長いギルドの歴史でも稀だろうな」
「あはは。そんなにテイムし辛い魔獣なんですか?」
「そりゃそうだ。人族は魔獣と言うがな、他の種族ではグリフォンは聖獣と言われているし、獣人族では神獣扱いされている」
「そうなんですか?だからミリーは拝んだんですね」
「なんだミリー拝んだのか?」
「は、はい。私達獣人族はフェンリル様と同等に神の使いと呼ばれ崇められています」
フェンリルかモフモフしたな。
「まぁ先ずはテイムされているか判断させて欲しい」
「はい」
「名付けは済んでいるか?」
「はい。ライオネルと言います」
「ライオネル」
名前を呼ばれてギルマスの方に振り返るライオネル。
「ピー」
「それじゃギルド内を一周する様命令してくれ」
「はい。ライオネルこの中を一周回ってくれるかい」
「ピーピー」
と嬉しそうに鳴いて飛び立つ。
ギルドの中を一周していつもの定位置になりつつある頭の上に降り立つ。
「まぁいいだろう。これがテイム済みの証書と首輪だ。証書は必ず持っていろ、首輪はライオネルの首に掛けておいてくれ。以上だ」
「ありがとう。ライオネル、さぁこれを付けてくれるか?」
「ピー」
「あっウルフの買取ですね。ウルフは常設依頼でもありますので、6匹で2件分の報酬が出ますー」
「一匹分の肉は持って帰りたいです」
「わかりました。では1匹は皮と魔石の買取となりますね」
「うんお願い」
お金を貰うと宿に帰る、小さいからとライオネルの入室を了承してもらった。
部屋に入ってすぐにウルフ肉を細かく切って水と一緒に出す。
パクパクパクパクと小さい身体のどこに入るのかと思う程平らげる。
そのままウトウトして寝てしまった。
疲れていたのだろう。
俺も夕飯を食べてベットに入るといつの間にか寝てしまった。
時折、ライオネルが夢に魘されていた。
撫でてやると落ち着くみたいだ。
強者であるグリフォンを倒す魔物がまだあの森にいるのかもしれない。
ライオネルの為にいつかは倒してやりたいな。