謹慎(過去)
「__嬢様?お嬢様?起きてください!」
私は眠気眼で目をこすった。
「どうしたの、リリー?」
私は全く人ごとのように尋ねる。リリーだけは焦って私を起こそうとしている。
「お嬢様、領主様が、お嬢様にすぐに部屋に来るように言っています!」
エラは、はっとなってベッドから飛び起きた。こんなじめじめした雨の朝に何事だろう。
(夜呼ばれることがほとんどだが、こんな朝に何の用だろう)
急いで、最低限の支度をして執務室に向かった。開けた瞬間、そこにはルナと父お抱えの執事長それからエラに父という何とも言えない組み合わせだった。
「お父様、おはようございます。いかがなされましたでしょうか?」
私は、軽く会釈した。
「お前、何をしたかわかっているのか?」
その声は怒号にも似ている。いや、正真正銘の怒号だ。
「いえ、わかりません。何のことでしょうか?教えていただけると幸いです」
「お前、この執務室の重要書類を外に出したな?」
(重要書類?少し資料を盗み見はしているけど持ち出したりはしていない)
「いえ……。そんな書類も知りませんし、まして、どうやって外に出すというのでしょうか?」
「お前の言葉には一理あるが、それでだ、ここの中に内通者や外部のスパイがいるとも考えられないか?なぁ、エラ?」
「何をおっしゃっておられるのか私には到底想像できませんが」
「そこまで白を切るつもりか?この場でお前を殺さなくても、そこのお前やお前には手を出せるのは覚えておけよ」
順番に父はリリーやルナを指さした。
そのあと、割とあっさりと解放されたが、疑惑は晴れないまま、部屋の出入りを厳重に見張る父のお抱え使用人がいるため、私は自室に軟禁状態になった。
そして、結局犯人が捕まらないまま4か月過ぎていった。もう、あたりは冬の装いになっていた。
「また、やっているのですか?お嬢様?」
「やることもないから」
私はそう言いながらハンカチに刺繍を施していた。
これは、エイリーのハンカチだ。前に私が汚してから返せていなかった。そのまま返そうとも思ったが、リリーに相談するとルナに聞いてくるといって、ルナから刺繍をして渡したらいいのではないかと助言されたといっていた。刺繍は、母から教わっていたが、最近はすることがなく腕がなまって、はじめハンカチではない布に施すと、本当にいびつな花ができた。だが、この謹慎が長かったのが幸いして、短い時間できれいな刺繍が出来るようになっていた。
「お嬢様も苦手なこともあると思っていたら、もうこんなにうまくなったんですか!」
リリーは、エラのやりかけたハンカチの刺繍を覗き込んだ。
「まぁね。やることもなかったから」
エラはそう言いながらエイリーのハンカチにマーガレットを刺繍していく。
「お嬢様、それマーガレットですか?」
「ええ、私、昔からマーガレット好きなの」
「もしかして、それ殿方に?」
まぁ。とあいまいに返事をすると明らかにリリーは顔を真っ赤にしていた。エラは何のことかわからずに刺繍していく。
「お嬢様って、案外、疎いんですね」
「なによー何か知っているの?」
「花言葉ですよ。ぜったい殿方勘違いされますよ?」
勘違いされてもいいかもしれない。と思いながら壁にかかったシロツメクサの冠に目をやった。
「お嬢様?あの冠よく見てますけど何かあったんですか?」
私は、言われた瞬間顔から火が出そうになった。鮮明にあの出来事を思い出しては悶えそうだった。
「リリー。そんなに質問するのは野暮ってものよ」
彼が、今風邪をひいてないか、今何をしているのか、それが気になってしょうがなかった。きっとこれが、憧れなのだろうか?
___いや、これはきっと恋なのだろう。