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草原での秘密(過去)

エラは、久しぶりに町へと出ていた。


 季節は夏になっていた。今日は、いつものように酒場によらずに、この前、エイリーから教えてもらった花畑に来ていた。春に来た時は花畑だったが、今はもう草原になっていた。


草のにおいは、風が吹くたびにエラの胸をいっぱいにさせた。


 エイリーに最後にあってから2か月。お茶会からは一か月余りがたつ。あの後、私には罰が下された。“お茶会での不敬”という小さな理由でご飯は一日一食。空いた時間は、父の仕事の補佐だった。一見、仕事の補佐は一番優しい罪のような気がするがそんなことは全くない。四六時中、理不尽に怒鳴られ、まとめたファイルや書類はボロボロにされ、もう一度同じ仕事を要求される。そんな中でも私は、調べたいと思っていた家の財政に関する資料や闇の支出に関するファイルに自然に触れられる機会をうかがっていた。だが、見られたのはほんの先端だけだ。あとは、推測では鍵のついた閲覧室か、執務室の鍵のついた引き出し。


先端だけでも怪しい香りはプンプンとしていた。不要な土地を売買していたり、家を修繕した項目で補助金をもらっていたが、私の知るところでは補修したところなんてなかった。これは、明らかな癒着だった。しかし、相手のしっぽがつかめない。誰が絡んでいるのか、それが一番わからなかった。けれど、このことに気が付いたとしても私は誰にも言えない。言ったとしたら消されるだけだ。


(領主の一人娘はそんなもの。特に、後継ぎが決まっているならなおさら)


「お前、こんなところにいたのか」

エラの後ろから不意に話しかけてきたのはエイリーだった。そして何事もなかったように隣に座った。



「あら、ごきげんよう」


「お前、機嫌悪いな」


「よくわかったわね。いろいろあったのよ。いろいろ……」

話す言葉が見つからない。2か月も会っていないならこんなものだろう。



「最近は来てなかったな。もしかして、酒場には来ていなかったがこっちには来ていたのか?」


「__違うわよ。今日が久しぶりだわ」


「そうか、それならよかった」

うん。と手短に返事をしたが頭の中に次第にハテナマークが浮かんだ。



「よかったって?」


「い、いや、深い意味はないが……。最近来ていなかったから、どうしているのかと」


「それは、心配してくれてるの?」


「ま、まぁ……」

エイリーは、歯切れが悪い上に耳は明らかに赤かった。


「いや、もう情報はいらないのかと思って……」

できるだけ違う話をしようとしてエイリーは必死になっていた。


「その話ね……。もし、本当なら、これ以上足を踏み込んだら戻れない気がしてきた」


「ビビっているのか?」

真面目な顔で返すエイリーを見て、多分今思っていることはエイリーも承知しているだろう。



「ビビっているんじゃなくて……そうね。それに……私はメイドに過ぎないのだし……」


「お前は、この領地をどうしたい?」


「いきなり、なに言っているの?」


「俺は、5年以上前みたいに豊かな領地にしたい」

そう言い放ったエイリーの顔はどこか満足そうだった。それは、私が思っていることでもある。


(母が生きていた時のような豊かで温かい領地にしたい)


だが、しり込みしてしまう。


「お前は、どうなんだ?」


「どう?って、昔はよかったから昔に戻すだけで本当にいいのかなって思っていただけよ」



「と、いうと」



「この領地は腐っている。それは、私が保証する。でも、この領地がよくなったからって、根本的に変わるかしら……ってこと。どうにかしてしっぽをつかめればいいけど」



「しっぽとは?」



「いいや、こっちの話。何でもない」

エラは、口をつぐんだ。この領地が変わっても、周りの領地が変わらないと難民もくれば奴隷売買も闇の色んなことだって少なくはなるが状況は変わらない。



「まぁ、お前の言うことも一理あるな」

エイリーは納得してうなずいた。



この領地を本気で変えるのなら、多分エイリーのような人が引っ張っていかなければならない。結婚するならそんな人もいいかもしれない。そう思いながら胸は苦しくなった。



 一生結ばれないことはエラが誰より知っている。私は、あと半年余りで、父が決めた相手に嫁入りする。領地のお金を考えれば伯爵家や公爵家のようなところだろう。私が今この正義を振り回して領地をめちゃくちゃにすればするほどしわ寄せはここに住む人たちになる。触らぬ神に祟りなしというのはこういうことだろう。



「__ぃてるのか?聞いているのか?」



「あ、ごめん。考え事」

また遠くを見るとこの草原は町が見渡せる。町は向こうまで続く。活気がないだけで……。


「お前その手首」

エイリーの声が少し大きくなった。手首には、父から強くつかまれた跡がくっきりと青く残っていた。


「領主に何かされたのか?」

エイリーの剣幕は目にみはるものがあった。


「まあ。しょうがないよ。働くってこういうことなんだろうし」

エラは、曖昧な返事をする。くっきり話すのもつらい。また、こんな傷は、いざ直そうと思えば、少しの魔法で治る。



「早く手当てしろよ!」


「いいの。こんな傷すぐに治るんだから」


「こんなに跡があるのに……」

心配されるなんていつぶりかと思ってしまうのはエラの悪いところだろう。このところ誰からも心配されなかったから。ルナやリリーの前ではあまり見せたくなかったため包帯を巻くか、回復魔法でどうにかしていた。けれど、回復魔法を使いすぎれば父にばれるため、使ってもあまり大きい傷には使わなかった。エラは、あまりに傷を痛々しくエイリーが見るものだから恥ずかしくなって自分の手首に手のひらを乗せたて、回復魔法を使った。少し光ると私の傷は当然のように無くなった。



「お、おまえ、もしかして……」

エイリーが言いかけた瞬間とっさにエイリーの口に手を置いていた。もちろん頭で魔法を発動しようと考えなければ魔法は発動することはない。



「内緒ね。今見たこと」

そう言って私は急いで草原をかけて、町をかけた。秘密を知られてしまった。この秘密は、使用人でさえ2人しか知らない。父には話してもいない。けれど、なんだかエイリーとの間に秘密を作れることがうれしかった。理由は、ただの恋の病で溶けてしまえば残酷な鎖になるというのに。


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