南部戦線
「うわぁ!実......さん?」
「こいつ......お願いします。拘束しといて。
俺もうダメだ。ちょっと寝ます」
その場にいたのは【治癒】の勇者コルン、元【聖裁】の勇者で現【槌】のノックス、そして元【封印】の勇者で現【武器】のシームウィルの3人だ。彼らにゼードを引き渡したもののすぐに眠ってしまった実だが、現在コルンによって治療を受けている状態だ。
「なぁ、こいつって確か勇者だよな?」
「あぁそうだな。確かこの前の会議の時に来なかったやつだ」
「でもなんでミノルはこいつを連れてきたんだ?しかもボロボロだし」
「それに......今それどころじゃないしな」
実が彼らを見つけ、そこに向かったのは自身が助かるための最適解ではなかった。何故なら彼らは今迫り来る魔族の軍隊を食い止めようとフォルセディン帝国の南部海岸で戦闘を繰り広げていたからである。
「とんでもない時にとんでもない奴連れてきて、しかもボロボロですぐに寝るなんて.....」
「しかし、ミノルさんのおかげで助かった訳だしあまり悪くは言えないな」
「仮を返すって考えりゃ楽か。取り敢えずこいつら止めなきゃな」
「あぁ」
敵は獣人たちも仲間に加え勢力を拡大した。
獣人とは動物系の亜人で動物本来の力を一時的に使用可能な種族だ。この世界では亜人と獣人は別として扱われている。例えば、ハイオークやリザードマンは動物系だと思われることが多いが獣人ではない。判断基準は至ってシンプル、どの大陸に生きているか、だ。
この世界を作った神は案外適当に世界を創造したのかもしれない。
ところで、この戦場にはその獣人達の一部が駆り出されていた。彼らは猿人族。名前の通り猿系の獣人だがバリエーションはさまざまだ。ショウガラゴ系の小型の猿人族からゴリラ系の大柄な者まで存在している。
ゴリラ系が前線で猛威を振るい、戦いの隙に便乗し小型系が戦線から敵領土に侵入し兵士の少ないうちに敵を制圧することを得意とする種族だ。
「おい!大丈夫か!」
「あ、あぁ。.....てて、こいつら力強過ぎだろ」
ゴリラ系猿人族の力は強大で、本来の力を使う(獣化)ことで圧倒的なパワーを見せつける。パンチ1発で拳の10倍の直径を持つクレーターを地面に作り出すことが可能なほどだ。生半可な盾や城壁など意味をなさない。
そんな一撃を喰らってもなお戦い続けるあたり流石は勇者、と言ったところだろう。
「なぁなんか様子が変じゃないか?」
「たしかにそうだな」
獣人達に攻撃の意思が感じられない。それどころかどこか躊躇っているようにも見える。
「でも、戦わなきゃ俺たちが危ない。一気に制圧するぞ、ノックス、俺を使え」
【武器】の勇者の権能
身体の一部又はその全てをあらゆる武器に変えることが可能。
シームウィルは自身をハンマーに変え【槌】の勇者に託す。
「任せろ」
【槌】の勇者の権能
槌系武器を召喚し、意のままに操る。また、それを通すことで通常の10倍の力で魔法を発動可能。召喚武器は破壊不能。槌の攻撃力は使用者の攻撃力の5倍。
「うおおぉぉぉ!」
勇者が勇者を振り回して戦う。自分で召喚できる槌でさえ強力なのにも関わらず武器の形をした勇者という最強の槌を完全に扱い敵を殴打する。大柄な猿人族がいとも簡単に薙ぎ倒す様子を見ていた後続隊には戦意を喪失させるものも現れ始めた。
「お、俺は逃げるぞ!勝てるわけが無い!」
「に、逃げたら殺されるんだぞ」
『死ぬまで操る、死んで操る。《操る者》』
優しい女の声が戦場に響き渡る。走って逃げていた兵士たちがその動きを止め、振り返り
攻撃を再開する。
「敵に厄介なのがいるな、どうする?」
「言動から察するにこいつらは全部操り人形だろう。コルンがいれば解けたかもしれないが今はミノルさんの手当で忙しいから支援は望めない」
「ならやることは、さっきの声の女を倒すしかないな」
しかし、声の主が何処にいるか分からない上に侵攻してくる大量の敵兵が行手を阻み、捜索をする余裕がない。
「私達に任せたまえ。南西側はあらかた片付けた。自分達の国くらい自分で守る」




